ここは愛世高校「I Lo部」です!

ねらまヨア

~二年生編~

四月

第1話 ごく普通のモブ高校生である僕

 友達を愛し、学校を愛し、街を愛し、そしてすべてを愛する。そんな願いで作られた高校「私立愛世高校」

 そんな校風に惹かれて入学を目指す者は少なくない。何せ、僕もそのうちの一人だから。


 学校前に植えられた桜の木も、僕のこれからを応援してくれているようでなんだか嬉しくなる。


 「……よしっ!」


 茂木 織部もぎ おりべ、男、15歳。ここに誓います。今日から陽キャ高校生として、青春を謳歌して見せることを。


 まず友達がいっぱいできるのは当たり前で、彼女なんかも出来たりして? 勿論勉強も頑張りたいし、後はスポ―――






 「―――以上で、愛世高校始業式を終わります。生徒の皆さんは、それぞれクラスへ……」


 ……?


 「いや~、クラス一緒でよかったよ~!」


 「うちもうちも~! またよろしくね!」


 ……へ?


 「よっ、織部。二年生でもよろしくな」


 ……に


 …………に


 「二年生!!?!?!??!?」


 


 ざわ……ざわ……


 僕がいきなり叫んでしまったことにより、クラス中が僕を見つめる。あまりの恥ずかしさに何も言うことが出来ず、下を向いてやり過ごすことに。


 「……いきなり叫ぶのはやめろよな。恥ずかしいから」


 「ご、ごめん……」


 怒られてしまった。


 「んで、どうしたんだよいきなり」


 「い、いや……さっきまで一年生だったはずなんだけどな……って」


 そう、さっきまで僕は入学前のピッカピカな15歳だったはずだ。

 それなのに、今はこんな、教室でいきなりわけわかんないことを叫んでしまうようなザ・陰キャ。これは明らかにおかしい。夢に決まっている。


 「あー……言われてみればあっという間の一年間だったなぁ……織部ってなんか思い出ある?」


 始業式後の休み時間。二人の話題は一年生の頃の思い出。


 そんなのたくさんあるに決まっている。だってあの時、学校前でやりたいこといっぱい考えてたんだ。だったら、そのうちの一つや二つや三つくらい……


 くらい……


 くら……


 く……


 「と、特には……無い……かな……」


 えー、白状します。

 織部、一年生時点で何も成し遂げることができませんでした!!!!!


 先に言い訳を言っておくと、何もしなかったわけではない。いろいろ頑張ってはみたのだ。


 まず友達作り。自分から話しかけることは困難に等しいので、話しかけられるのを待っていた。

 すると、クラスの陽キャっぽい男子に絡まれて話すようになり、そこでついたあだ名は「モブ」だった。茂木の「茂」と、織部の「部」を取ってモブだそうだ。いやまさか中学の時と全く同じ理由で、全く同じあだ名をつけられるとは思っていなかったのでさすがに驚いた。


 次は勉強……だが、どんなに頑張っても平均点ピッタリしか取れなかった。逆に全然勉強しなかったらどうなるんだろうと、舐めてテストを受けてみたりもしたがそれでも平均点。ある種の才能なんじゃないかと考えてみたりもしたが、特に面白いわけでもないのでパス。


 部活は所属していなかった。というより、所属できなかった。自分から体験入部に行ったりなんてできないので、勧誘待ちしていたら何事もなく終わっていた。


 そんな一年間だったんだ。彼女の有無なんて語るまでもない。


 ……やばい、思い出しただけでなんか泣きたくなってきた。


 「まぁ、うん。元気出せよ」


 僕の虚無な人生を憐れんで、そっと肩に手を置いたのは、僕の数少ない友達の一人、森本もりもとカイ。

 彼とは入学当初、出席番号が近かったことから話すようになり、今に至る。ワックスで軽く整えられたショートヘアーに爽やかな見た目。そして見た目通りにスポーツもそつなくこなし、ましてや勉強も出来てしまう。イケメンスペックが過ぎる。


 そんなモテ属性を詰め込んだ青春キャラなのに、こうして今も仲良くしてくれるのは感謝しかない。まあ、それがまた僕を苦しめる一つの理由にもなっているのだが。


 「彼女持ちの森田君には僕の気持ちなんてわかんないよ……」


 そう、彼はしれっと彼女持ち。当たり前と言えば当たり前なのだが、不思議なことにそれをひけらかすようなことはしない。これがイケメンの余裕ってやつなのか? ムカつく。


 「まぁそうだけどさ……ってか、織部は好きな子いないの? 学年も変わったんだしさ、心機一転告白! ……みたいな、やってみたら?」


 「こここここ、告白!?」


 こ、このイケメン、急に無理難題を押し付けてきやがった……


 この僕に告白をしろだって!? 彼女出来たことないのに!?


 「動揺しすぎだって。そういうのってさ、ちょっと自分の思い伝えるだけで上手くいくんじゃないの? 知らんけど」

 

 その自分の思いを伝える、という行為があまりに難易度が高すぎるというのに……こいつは何もわかっていない。これだからイケメンは……


 とはいえ、僕に好きな子がいないわけじゃない。むしろ僕に勇気があったならばとっくに告白しているはずだ。ほら今も視線の先に……



 「……でさ~……」


 「……ふふっ、そうなんだね」


 手で口元を軽く押さえながら、ふふっと微笑む彼女の名前は椎名 咲織しいな さおり。ロングでふわっとウェーブがかった髪型が彼女の可愛らしさを十分に引き立てている。顔は言うまでもなく可愛い。天然めいた彼女の性格も可愛いし、見ているだけで癒される。


 「あー、織部って咲織の事好きなんだ」


 「な、なんでそれを!?」


 「いや、そりゃいきなりあいつの事見だすんだもん。誰でも気づくって」


 自分の恋バナはしたがらないくせに、人のこととなると途端ににやにやし始めるカイ。こうなったらもう収まらないであろうことを僕は察していた。


 「でもなぁ……咲織は高根の花だってよく聞くよな。実はもう彼氏いたりして」


 「や、やめてよそういうこと言うの……!」


 彼氏がいそうなんて、そんなの僕が一番思っている。思っているから、余計一歩を踏み出し辛いのだ。

 この高校に釣り合う人物がいないとしたら、相手は大学生とか社会人だろうか。あ、なんか社会人と付き合ってる姿とかめっちゃ容易に想像できるかも。やばい、具合悪くなってきた……


 「おいおい、急に一人で落ち込むなって。……とにかく、こういうのは早く行動するのに限る! その方が受けるダメージも少ない! ファイト!」


 「ひ、他人事だと思って適当なこと言いやがって……」


 でも、カイの言うこともなんとなく分かるし一理ある。


 行動は早い方が良い。か……だとしたら







 「し、しし、椎名さんのことが好きでしゅ! ぼぼ、ぼ、僕と、つつつ、つ……きあって……っ」


 「えっ!?」


 今日の放課後が一番ベストだろう。


 そうと決まれば早速行動だ。放課後になった時、カバンを背負って教室を出ていこうとした彼女を呼び止めて、話があるということを伝えた。もちろんまだクラスメイトが残っているこの状況で告白するなんてことはしない。こういうのは校舎裏がベストだって相場が決まっている。


 そして、校舎裏まで一緒に歩き、僕はそこで告白をした。


 恥ずかしさでずっと彼女と目を合わせることはできないが、ちらっと様子を見ることは出来る。彼女の反応はというと……


 「えっと……茂木君、でしたよね……?」


 お? もしかしてこれは良い反応なのでは!?

 ほら、その証拠に、頬に手を当ててなんて返答しようか困ってそうだし……



 ……ん? 困ってそう?


 「私たち、お互いにまだよく分かってないですし……」


 待って、この反応はかなりまずいのでは……?


 落ち着け、落ち着け織部。告白に間違いはなかったはずだ。言った言葉をよく思い出せ……

 


 『し、しし、椎名さんのことが好きでしゅ! ぼぼ、ぼ、僕と、つつつ、つ……きあって……っ』



 め、めっちゃ噛んでる!!!!!


 ってことは、彼女からしてみれば、対して仲良くもない陰キャにいきなり呼び出されたかと思ったら、噛み噛みの告白をされているめっちゃ気持ち悪い状況ってことになるんだけど……


 「――だから、まず……」


 「――――っ!!!!!」


 そのことに気が付いた瞬間、僕は彼女を置いて一目散に逃げていた。


 「も、茂木君!?」


 いきなり逃げる僕を見て驚くのも無理はない。だがそれ以上に、面と向かって振られるというのを、想像しただけで耐えられなかった。


 初めての告白だったのに、最悪だ……!


 僕は訳も分からず校舎裏を後にしていた。





 「あーーーーーーーーーーー……っ!!!!!」


 校長の計らいで自由に開放された屋上。僕はそこに来ていた。

 やっていることは一人反省会というやつだ。先程の告白について、話しかけ方、場所、台詞、どれをとっても今考えてみれば悪手であり、思い出すだけでその場でのたうち回りそうになる。


 「どうしてこんなことに……」


 「まったくだよ。見ているこっちが恥ずかしかったさ」


 ほら、僕の告白を見ていた観客まで恥ずかしがってる始末だし……


 ……え!? 見てた!?


 「誰!!?」


 「私か? 私は通りすがりの三年生。名乗るほどの者じゃないさ」


 「は、はぁ……」


 いきなり目の前に現れたのは謎の三年生。腹部らへんまで長く伸びた髪が特徴的な女性だった。

 そんな人が僕に話しかけてきたかと思えば、なぜかムッとした顔をしている。気づかないうちに怒らせるようなことでもしてしまったのか?


 「そんなことより、君の告白についてだが……」


 こほんと、息を整えると


 「最! 悪! だ!」


 「ひぃっ!!」


 え!? なんで僕いきなり最悪って言われてるの!?


 「いいか!? そもそも恋愛とは互いに思い合う二人がその思いに気づき合うことで初めて生まれるものであってだな、それをお前の独りよがりで……」



 ~数分後~



 「そもそも告白というのは……」



 な、長い……



 「……ってわけだ。理解してくれたかな?」


 「……へ? あ、はい」


 やばい、ほとんど聞いてなかったし、後半に関しては寝ていたかもしれない。


 「そうか! 分かってくれたか! これでまた一人の恋の迷い人を救ってしまったわけだ。こうして恋愛のイロハを覚えた青年がまた別の迷い人に教えを伝承し、その繰り返しで学校中がピンク色に包まれる……そして始まるのさ。恋のパンデミックがね!!」


 「う……」


 うわぁ……


 一人で話し始めたかと思えば、いきなり恋のパンデミックとか頭おかしいこと言ってるし……綺麗な顔立ちだっただけに勿体ない性格しているなぁと思ってしまう。


 「さて、私の話を聞いた君にはなんと特典がある! さあ、付いてきなさい」


 「付いてきてって……僕の手を引っ張んないでくださいよっ!」


 付いて行くかの判断を僕に委ねるわけでもなく、彼女は僕の手を引っ張って屋上を後にする。抵抗しようにも、謎に力の入った掌を振りほどくには、僕が非力すぎた……


 「た、助けて~!!!!」


 僕は一体どこに連れていかれるんだ……!?


 

 

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