第8話

 証言を下に時系列を洗うと、14時ごろに学校に到着。すぐに各々で校内を巡るために一旦解散。そして15時よりも前にウネ、ヨコ、メグの女の子3人が集結したときがあり、およそ15時から15時40分の間、フラがメグに何か相談をしていた。

 16時を過ぎた辺りでヨコが教室で血を流し意識を失って倒れているメグを発見、悲鳴から間も無くサイが合流。


 つまり15時40分から16時過ぎ頃までの空白の時間に、メグと新たに出逢った人物及び、彼女の心境を揺るがしたなんらかの原因があると考えるべきだろう。


「俺よりも後にメグと逢ったヤツって、この中に居るのか? あっ、もちろんヨコやサイは倒れている前のメグに、かな?」

「倒れる前か……」

「そういえば、ヨコとウネがメグと3人で居たときって、場所は校舎内でいいのかな? あとそのまま3人とも別れた感じなのか? それともヨコとウネ、メグで別れたとか?」


 これはウネとヨコが遭遇している時間帯を軸にして、それぞれの行動経路を聴ける問い掛けだ。フラにその意思があるのかどうかは不明だが、良い質問だとサイは無言のまま納得顔をする。


「あー……場所はまだ雨が降ってなかったし校庭だよ。そのあとはどうだったかなウネ。私たちは確か——」

「——メグが行きたいところがあるって先に離れて、しばらく遊具……ブランコのそばで会話をして、ヨコがフラを探して来るって校舎に行ってたよね?」

「うんっ、でも逢えなかったんだよねー。その……校舎って結構広いじゃない? 私たちが使ってた教室って縮図を見ると奥の方なんだよー。だから近くにある、よく呼び出された職員室とか、追試用に使ってた別部屋とか、教室と逆廊下側にうつつを抜かしちゃって……」


 ついうっかりと、にへら笑うヨコ。

 張り詰めた雰囲気を弛緩する表情だ。

 惨劇の第一発見者となったことで、持ち前の明朗さが鳴りを潜めていたが、飾り気の無いありのままの彼女が少しだけ戻る。


「ははっ。となるとヨコは長い間校舎には居たってこと、だよね?」

「そうだね。フラと逢えなかったのはニアミスだったのかなー」

「それはあるかも。ちなみに俺はメグを話して、そのまま校庭に出て軽く校門付近を散策したのち、体育館に一番に戻った。ヨコがどこかの部屋に入ってたら気付かなくても不思議じゃないな 」

「んー残念……」


 サイは黙々と脳内で精査する。

 ヨコは15時過ぎには校舎内で教室の逆側に赴き、16時過ぎにメグを発見するまでのおおよそ1時間、かなりのんびりと散策していたことが窺える。

 対してフラは15時からメグと教室に居り、15時40分頃に教室を後にしたことから15時45分までには校舎を出て校庭を巡り、集合場所に指定した体育館へと律儀に向かう。その様子をサイ本人が背後を視認しているため、少なくとも校庭から体育館に向かったことに齟齬はない。


 こうなるとサイ視点でもっとも不自然に映るのはウネになる。なぜなら彼女は校舎から外へ向かうときにバッタリ出会でくわしている。でもフラ視点も、ヨコ視点にも、校舎を巡るウネに関する目撃情報が出て来ていない。


「これは……私の移動経路も、喋って置いた方が良いよね?」

「あっ、そうだね。あれから私も全く逢ってないし」


 サイが訊ねるよりも先んじて、ウネが議論の流れを察知してカットインする。

 ウネは右頬に平手を当てながら俯き、当時の経緯を振り返りつつ、巧く言葉に変換しようと試みているみたいだ。


「私はヨコと離れた後に、遊具付近から遠くをぼんやりと眺めている時間が長くて……実はヨコとフラと違って校舎にはあんまり関心が無くてね。一応体育館に向かう途中にあるから、少しだけ入りはしたんだけど、すぐに時間もないかと切り返して、体育館に戻るとフラが居たって感じかな?」

「ふーん。でもフラも校庭を巡ってたって言ってたよね? 2人は逢わなかったんだ?」


 ヨコの指摘通り、ウネとフラの証言を照合すれば、同時刻に2人が校庭にて遭遇していても不思議じゃない。もちろんひとえに校庭といっても、遊具や外体育を行う場所だけを指すわけじゃなく、サイの行動経路にあるプール付近や校舎裏にある簡易農場も含まれる。


「私、校舎の裏にも居たからね。そこは逢わなくてもおかしくはないと思う」

「ああ……俺は校舎裏には行ってないから、それはそうかも」

「うん。それと私はプールの方へ向かうサイを見掛けてるし、一旦校舎に入って戻ったときにもサイと逢ってるよ……このあとにサイが言うとは思うけど先だしね。間違ってないよね、サイ」


 それとなく目配せをしてみせるウネ。

 プールに向かったことも、校舎に入ろうとしたところで逢ったのも事実と相違ない。

 サイは突然裁量を振られたことに驚きながらも、間違っていないと何度も頷く。

 ちょっと反応が挙動不審になったなと自覚しつつ、ウネがそんな様子を眺めて苦笑されたことに面映くもなる。


「と……こんなものでいいかな?」

「うん。おかしなところは、俺が聴いている限りなさそうかな」

「バッチリだよ、ウネウネー」

「いや、ウネウネじゃない……」


 ウネの語りは以上。

 次であり最後は、サイの行動を話す番だ。

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