第6話 リティス村
「ここが、リティス村……?」
「名前は知っていたが、来るのは初めてだ」
セナとルソンがフィルラ村を出てから4日が経った。そして4日目の今日。昼過ぎにセナとルソンはリティス村に辿り着く。村に足を踏み入れたセナとルソンは歩きながら両側の道に立ち並ぶ出店を横目に見る。
食べ物、衣類、医薬品など様々な物が売られていた。そんな中、食欲をそそる美味しそうな食べ物の匂いが心地良い春の風によってセナの鼻についたことによってセナは我慢出来ずにルソンに向けて呟く。
「ルソン、私、何かお腹空いちゃったわ」
「そうですね。何か買いましょうか」
「ええ、お団子あるかしら?」
「あると思いますよ。姫さま、本当にお団子が好きですよね」
ルソンはそう言い苦笑する。セナは三色団子や中に餡子のみが入っている白いお団子が大好物なのである。
「大好きよ。もちもちしてて美味しんだもの」
セナがそう言いルソンの好物は確か...と心の中で思い出そうとし始めたのと同時に前方から男の甲高い声がセナとルソンの耳に届く。
「おい! こら、まてぇー!!」
男はそう言い大声を上げ男の前を走る少年を追いかけ走る。男の前方を走る少年は後ろから険しい顔をしながらこちらに止まれと制してくる男を走りながら振り返り見る。そんな中、少年は苛々している気持ちを吐き捨てるように声にする。
「ちっ…… 待つわけねーだろ」
そんな男と少年の様子を遠目にセナと共に見ていたルソンは少しばかりその出来事に興味を示す。
「何だ?」
「誰かー! あの少年を捕まえてくれ……!!」
少年を追いかけていた男が息を切らして立ち止まり周りにそう呼び掛けるが、誰一人男の言葉に力を貸そうとする者は居なかった。しかし、ルソンは見過ごすことが出来なかった為、左隣に居るセナを見て言う。
「姫さま、ちょっとここで待っていて下さい」
ルソンはセナにそう言い残しセナの返事を待たずにその場から走り去る。
「え……? ちょっと、ルソン……!?」
走り去るルソンの背中を見ながらセナは何をするつもりだろうと不安を覚え後を追いかけることにする。
「はぁ、はぁ、こっちは生きるか、死ぬかがかかってるんだよ!」
少年は立ち止まることなくずっと走り続けてちたせいか息が乱れてきていた。そんな少年の背後から若々しさ感じるルソンの声が少年の耳に届き。
「おーい。そこの少年ー! 止まれー!」
「えっ……? うっわ……!?」
少年の後ろの襟を掴んだルソンは何処か意地悪くも見える笑みを浮かべていた。
「つーかまえた」
ルソンのそんな一言に少年は暴れ始め、少々怒り気味に声を荒げる。
「離せぇー! 離せよ!!」
暴れ逃げようとする少年を力強く押さえているルソンから逃げれるはずもなく疲れてきたのか、諦めたのか、少年は徐々に大人しくなる。
「離してもいいんだが、まず、その手に持っている物を返してからだ」
ルソンはそう言い少年の手の中にある果物を指差すが、少年はルソンに返事を返すことなく無言になる。そして数分が経った頃、少年は苛立ちを含ませた声でそっと呟く。
「なんでだよ...」
ルソンには少年の呟いたその言葉がはっきりとは聴こえていなかった為、少年に問う。
「何か言ったか?」
「何でだよ!! 放っておいてくれよ。盗もうが何しようが、俺の勝手だ。何処のどいつだか知らないが、見ず知らずのお前にとやかく言われる筋合いはない」
ルソンの問い掛けに少年は荒々しく返答し、襟を掴まれながらも振り向きルソンを睨み付ける。ルソンはそんな少年の怒りを露わにした瞳を受け止めふっと笑う。
「ほーう、結構、ズバズバ言うじゃないか」
「ルソン……!!」
少年が盗んだであろう店の商売人である男と共に先程、待っていてくださいと告げたセナが走り寄ってくる。
「おお、捕まえてくれたのか! おい、お前、今回が初めてじゃないな。この前も別の店で盗んでいただろ?」
店の商売人の男に見られていたことを知ったリクスは心の中で最悪だ...と思わずには居られなかった。
「そんなの知らないし……!! うるせーよ」
店から食べ物(果物)を盗んだ挙句、謝罪する様子もなく暴言を吐き出す少年を見て、男も怒りを我慢出来ず少年に詰め寄る。
「なんだと……!!」
男は怒りが抑えきれなかったのか、少年の胸ぐらを掴もうとする。しかし、少年の背後に立っていたルソンが言葉で止めに入る。
「おい、それはやめておけ。人通りが多いこの場所でそんなことをしたら、悪い噂が立って、店にも影響が出かねないぞ。ほら、お前も手に持っている盗んだ物早く返せ」
ルソンがそう言っても少年は手から盗んだ果物を離そうとせず拒否る。
「嫌だ……!!」
「はぁ、おい、姫さん。巾着袋、貸してくれ」
ルソンはため息を吐きながらも商売人の男の隣にいるセナを見て銭が入っているであろう巾着袋を渡してくれと手で合図する。セナはそんなルソンに対して何をするつもりだろうと思いながら、ルソンの手に銭が入っている巾着袋を手渡す。
「おい、そこに立っている店主のあんた、この少年が盗んだ物はいくらだ。俺が代わりに払うから、今回は許してやってくれないか?」
思いがけないルソンの行動に少年と商売人は驚く。ルソンはそんな2人の表情に気を止めることなく、商売人の男の返事を待つ。セナは驚くこともせずルソンらしいわねと呟き見守るようにルソン達を見ていた。
「ああ、わかったよ。銭3枚分だ」
「はいよ。おい、お前もちゃんと謝れ」
商売人の男がルソンから銭を受け取るとルソンは少年の方を向く。そして少しきつめにルソンは少年に対してそう言ったが、少年の頭の中はルソンの行動が理解出来ないの一択しかなかった為、ルソンの声が聞こえていたが直ぐに返答を返すことはしなかった。
どうして、赤の他人である自分にここまでするのだろう。そう思いながらも少年は仕方なく謝ることにする。本当は謝りたくもないのだが、早く事を終わらせる為にこちらが折れるしかなさそうだと少年は判断した。
「わかったよ。謝ればいいんだろ!! ごめんなさい……」
「次はないからな」
少年の謝罪の言葉に商売人の男は少年に対して強めに釘を刺し、ルソンに会釈をしてからその場から立ち去って行く。
その場にのこされたルソンとセナと少年は互いに数秒、無言になる。そんな中、最初に口を開いたのはルソンだった。
「はぁ、たっく、少年、お前、名前は何て言うんだ?」
「え……? 名前? 何で教えなきゃいけないんだよ」
リクスは嫌々しくルソンを見る。早くこの場から立ち去りたい。そんなリクスの思いを目の前にいるこの黒髪のルソンという男にはわかるはずもなく淡々とリクスに対して言葉を投げかける。
「助けてもらったんだから、名前ぐらい名乗るべきだろ。仮にも俺はお前を助けてやったんだぞ。礼の一つくらいあっても良いんじゃないか?」
(いやいや、こっちは助けて欲しいなんて頼んでないんだけど……)
リクスは心の中でルソンにツッコミを入れる。きっとこういう人は根が優しいから、はっきり伝えないとわからないのだろう。
「別に俺は助けてほしいなんて頼んでないから。礼をする必要もない」
少年の言葉通り少年は他者に対して助けを求めてなどいなかった。ルソンはそれをわかった上で少年を捕まえたのだ。単純に見て見ぬふりが出来なかったのか。優しい性格だからこそ、見逃さなかったのか。きっと当てはまるのは片方ではなく両方だろう。
「そうかよ。あー、そうだよ。俺が勝手にお前のことを助けただけだよ」
少しふてくされたようなルソンの声にリクスはため息を吐かずにはいられなかった。
「はぁ、何なの? あんた、めんどくさいなぁ…… リクスだよ。俺の名前」
「リクス。ほう、良い名前だな。これでお前のことを少年呼びしなくてすむ」
どうやらルソンは、目の前にいる少年のことを深い意味はなくただ純粋に名を知りたかっただけらしい。
「俺はなんて呼べばいいんだよ?」
「お? 気になるか俺の名前」
「気になるっていうか、俺が名乗ったんだから、あんたも名乗るべきだろ?」
リクスは何なんだ?この男はと内心では思いながらも自分の意見を丁重に述べた。
「そうだな。ルソンだ。ルソンって呼んでくれ。これでもう見ず知らずの赤の他人じゃなくなったな」
当たり前だが、互いに名前を名乗った以上、もう赤の他人ではない。リクスは自分の名前を名乗ってしまったことを少しばかり悔やんだが、時間を巻き戻して名前を名乗ることをしないという選択はもう出来ない為、気持ちを入れ替えてこのルソンという男と接することにした。
「あー、名前、やっぱ教えなければよかったかも。はあ、仕方ないなぁ。ルソンって呼んで欲しいぽっいから呼んであげるよ」
「姫さまと似ている所があって面白いな」
「姫さま? 何かよくわからないけど褒められてる気がしないよ」
そんな二人の会話が一区切りしたのと同時に聞き慣れた声がルソンの耳に届きルソンはその声の主に顔を向ける。
「ちょっと、ルソン、私もいるわよ」
「あれ、姫さん? いつからそこに?」
すっかりセナの存在を忘れていたルソンはセナを見て少し首を傾げる。
「さっき、ルソンに巾着袋を渡した時からここに居たわよ!」
「あー! そうでしたね」
そんなルソンとセナの会話をすぐ側で見ながら聞いていたリクスはルソンに問う。
「そいつ、連れか?」
「おう! 連れだが」
「ふーん」
リクスはセナの顔と全身を数秒じーと見てからセナの空色の瞳を見据える。セナはリクスの真っ直ぐな瞳から逸らすことなく見つめ返した。
「えっと、初めまして。セナと言います」
セナが自身のことを名乗るとリクスは驚いたように目を見開きリクス自身が思っている通りの人物であるか目の前にいるセナに対して確認する。
「セナ…… もしかしてセナ姫?」
「ええ 」
ルソンの連れがこの王国のセナ姫であるとわかったリクスは先程の態度とは打って代り。怒りを満ちた瞳をセナとルソンに向ける。そして声を荒げ、怒りに身を任せて凄い喧騒で叫んだ。
「王族なら仲良くする気はない。早く俺の前から消えてくれ!!」
セナとルソンは少し驚いたが、何か理由があるのだろうと思い至る。王族という立場である以上、少なからず不満から来る妬みや怒りなどの負の感情が向けられることもある。その事をセナは身をもって知っていた。
「王族が嫌いなの?」
「ああ、大嫌いだ。何一つ苦労していない。望めば何でも手に入るお前らが、俺は憎くて仕方がない」
それはリクスの心からの叫びだった。セナとルソンはリクスが何かを抱えながら今に至るまで生きてきたのだろうと察する。
「リクス、ここじゃ目立つし、何処かの店に入らないか? 俺と姫さん、お腹が空いているんだよ。おすすめの店があるなら案内してくれ」
リクスが大きな声で叫んだことによってセナ達は周囲から視線を集められ注目されつつあった。リクスはルソンの言葉で注目の視線を浴びていることに気付きぼそっと呟く。
「何で、俺が……」
リクスは仕方なく着いて来いとぶっきらぼうに投げかけ、セナとルソンに手招きをし渋々、行きつけの店へと案内する。
リクスに案内されたのは茶色いレンガと黒色の壁の小さな建物であり、入口の所の白い棒に吊された紺色の布に蕎麦屋と書かれていた。
リクスと共に店の中へ入ったルソンとセナは空いてる席にそっと腰を下ろしリクスに礼の言葉を伝える。
「ありがとう。リクス」
「リクス、お前、何だかんだ言って優しいんだな。ありがとうな」
二人から礼を言われリクスは何とも言えない気持ちになり早くここから離れようと強く思った。そして立ち去る為にセナとルソンに向けて一言告げる。
「じゃあ、俺はもう行くから……って、うっわ!?」
立ち去ろうとしたリクスをルソンが止め、リクスの腕を強引に掴み同じテーブルのルソンが座る左隣の席に座らせる。リクスはそんなルソンの行動に怒りが我慢出来ず声にしてしまう。
「は? なんでだよ!! 店まで案内しただろ!!」
「リクス、お前、あれが初めてじゃないらしいけど、本当なのか?」
先程の店主の男が言っていたことが本当なのかを当の本人に確認してきたルソン。リクスは少し面倒くさそうな気持ちをあえて隠さず顔に表す。
「そうだけど? 何? 俺はあんたらと違って望めば何でも手に入る訳じゃない。こうでもしないと生きていけないんだよ!! もういいだろ、早く食べろよ。お腹が空いているって言ってただろ!!」
リクスの畳み掛けるような言葉にセナとルソンは動じることなく会話を続ける。
「そうね。じゃあ、お言葉に甘えて、何か注文しようかしら」
「そうだな。何かおすすめはあるか?」
「えっ……? 俺に聞くんじゃなくて、自分でメニュー表見なよ」
「お前の方が詳しいだろ? 教えてくれるなら、お前の分も奢ってやる」
「ずるいよ、あー! もう、仕方ないな。これとこれ。結構、美味しいよ。じゃあ、俺、これにする!」
ルソンはずる賢いのか。それとも人の心にどうしたら入り込めるかをわかっていたからリクスに対してそう言えたのか。どちらにせよリクスはまんまとルソンに丸め込まれてしまった訳である。
そんなルソンとリクス。2人のことを側で見ていたセナはルソンの人の心にすんなりと入り込むこの場を丸め込む言葉を思いつく賢さに感心する。
「ルソンは本当に人の心に入り込むのが上手ね」
「お褒めにいただき光栄です。姫さま」
「いや、一ミリたりとも誉めていないわよ。ねえ、リクス。貴方、もしかして孤児かしら?」
「そうだけど? それがなに?」
リクスは一番触れられたくない所を突いてきたセナを睨みつける。セナはリクスの怒りと憎しみが込められている瞳に怯むことなく言葉を続ける。
「私はずっと、城の中で生きてきた。貴方の言った通り、何も苦労せず望めば何でも手に入った。だけど城の外に出て色々な景色を見て感じたこと。外の世界に出なければ出会えなかった人達。私がいつか城に戻った時、外の世界で感じた事が、この国をもっと良くすることが出来る物になるとそう信じて私はルソンと共に旅をしているの」
セナの今に至るまでの色々な想いが込められた声に向かいの席に座りセナの話しを聞き終えたリクスはそっと口を開く。
「出会った時から思っていたけど、あんた達も訳ありなんだね。一国の姫さまがこんな所にいるこどう考えてもおかしいし……」
普通に考えれば王国の姫君であるセナが王国の王都から大分離れた村に護衛1人連れて訪れる
なんてどう考えても可笑しいことがわかる。
「まあ、そうだな……」
「リクス、嫌じゃなければ、貴方の過去を聞かせて欲しいの」
リクスは思う。どうしてこの人達は自分があんなにも乱暴な言葉を投げ付けたのに、そんな自分のことをしろうとしたいのだろう。
「俺の過去を聞いてどうするつもり?」
「どうもしないわ。ただ判断材料にするだけ」
セナは知りたかった。リクスがどうして盗人をする様になってしまったのか。両親はどうしてしまったのか。全てを知った上でセナはリクスをこれから先の旅に共にこない?と誘うか、誘わないかを決めようとしていた。
「判断材料?まあ、いいや。話すだけなら……」
リクスはセナの言葉の意図がわからず首を傾げる。しかしセナの真剣な眼差しに負け仕方なく話すことを決めた。
「俺は、この村で生まれ育った。
決して、裕福な家庭ではなかったけれど、優しい母と頼もしい父。そんな両親と過ごすことが出来る日々。そんな毎日が俺にとっては何にも変えられないくらい幸せだった」
ある日、盗賊が村にやって来て、貧乏な暮らしをしている村の民達を狙って殺し、金貨を奪い取っていったこと。
そして、リティスの両親も盗賊によって殺されてしまったこと。
「両親が死んでから、俺は死にもの狂いで、働かせて下さいと色々な店に、赴き頼み込んだ。何もしないと生きていけないから。俺は、両親の分もちゃんと生きるってあの日、そう心に決めたんだ」
けれど、どの店も、子供は雇う気はないの一点張りであり、働くことができないと当然、お金も手に入らない。生きていく為には、手段を選べない。リクスは今に至る全てのことをルソンとセナに話し終わると一息吐き、辛そうに顔を歪ませて黙り込んでしまう。
生きていく為には多少、己の手を汚さなければならない。リクスは幼いながらにその現実を付けつけられたのだろう。
ルソンも孤児ではあるが、リクスと全く同じ境遇に置かれていた訳ではない為、リクスがこれまでどんな気持ちでこの故郷である村に留まり続け生きてきたのか。
ルソンにはリクスの立場になって、気持ちを考え分かり得ることしか出来なかったが、心を開いて話せる人が1人でもリクスの側に居たらきっともっと目の前にいた少年が背負ってきた物の重さが軽くなっていたのかもしれない。
「生きていく為に盗人もしていたと?」
「ああ、そうだ」
リクスは最初から自分の手を汚そうとはしていなかった。けれど、結果的にそうせざる得なかった。
「そうなのね。ねえ、リクス。貴方がもし嫌じゃなければ、私達と共に来ない?」
「え……? 姫さん、何言って?」
予想もしていなかった言葉がセナの口から発さられたルソンは驚く。当のリクスは驚くこともせず淡々とセナの誘いに返事をする。
「俺があんた達に着いて言って、俺自身が何か得することでもあるの?」
自分が着いて行くことで何一つ得することがなければ、当然、着いて行くという選択を取るつもりはない。しかし、セナはリクスに着いて行くと言わせる為にリクスに都合の良い条件を提示する。
「1日、3食の食事タダ。だけど、料理、洗濯はリクス、貴方に全てしてもらうわ。勿論、私も手伝うけれどね」
「ただ……? 料理、洗濯。それってつまり、あんた達の面倒を見ればいいってこと?」
「まあ、簡単に言うならそうね。そういうことになるわね」
「ふーん、じゃあ、着いて行くよ」
リクスは食事が3食タダで食べられることに惹かれたのかあっさりと着いて行くという選択をした。
「じゃあ、決まりね」
そんな2人の会話をリクスの真横隣りの席に座りながら聞いていたルソンは心の中で思っていたことを思わず声にする。
「いや、おいおい、まて。リクス、お前はそれでいいのか? 王族が嫌いだって言ってたじゃないか」
「確かに、俺は王族は嫌いだけど、あんた達の面倒を見るだけで食事がタダになるなら、俺は着いて行く方を選ぶよ」
自分に得がある方を選んだリクス。ルソンは本当にそれでいいのか。リクスに対して少しばかりの心配が込み上げてきた為、リクスの選択した事に対して念を押して確認したのであった。
「長い旅になって、当分この村に帰って来れなくなってもか?」
「この村に居ても一人なのは変わらないし。あんた達と居た方が楽しそうだし」
どうやらリクスは一緒に着いて行くという一度決めたことを変える気は更々ないらしい。
「はぁ、わかったよ。なら、仕方ないな」
リクスにとってこれからの旅路の中で得る物はきっとこの村にいるよりも刺激的で大きな物を得る事になるかもしれない。
「あんまり、こんなことを言うのは嫌だけど、よろしく。セナ、ルソン」
「おい、リクス。お前、姫さまのことを呼び捨てで呼ぶのか?」
ルソンにそう指摘されたリクスは申し訳なさそうにセナを見る。
「姫さまって呼ぶとセナが王族だって意識しちゃうから、これで良いよね……? セナ」
「ええ、構わないわ。私もリクスって呼び捨てで呼んでいるもの」
「じゃあ、夕方頃に出発しますか」
「ええ、そうね。リクス、貴方も準備する物があるのなら、一旦、家に帰って準備して来なさい。私達はリクスがここに戻って来るまで待っているから」
「うん、じゃあ、ちょっと行って来るよ」
リクスはセナとルソンにそう一言残して走り去って行く。遠ざかっていくリクスの背中を見えなくなるまでセナとルソンは見送ってから、少ししてルソンが食べ終わった皿を机の上に重ねながら口を開く。
「姫さん、良かったのか?」
「ええ、リクスはこの村に居ても辛いだけだと思ったの。それにルソンと話してる時のリクスの顔がとても楽しそうに見えて」
「なるほど。まあ、姫さんが良いなら俺は良いんですけど」
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