決壊

 ___僕は、心の隅にある恐怖心に見て見ぬ振りをし、階段を駆け上がっていく。ついに、自分の住んでいる玄関の前へと着いた。

 玄関のドアノブに手をかけ、開けようとすると見えない障壁が僕の手を阻んだ。まるで、知らないことの方が幸せだと語りかけてくるように、再び、心の底から浮き上がってくる得体の知れない恐怖心に足が竦んでしまう。

 ここまで駆け上がってきたからか、恐怖心からか酸素が足りない気がした。僕は「ふー」と深い深呼吸をして、自分自身の存在を確認するかのように、手を開いたり閉じたりした。そして、固い決意を握りしめた拳に込めて、玄関に向き合った。答えがきっとその先にあるのだと_______


 すると、先ほどの見えない障壁はガラスのようにパリンと音を立てて、消えた。

 僕は息をのみ、ドアノブを掴み、その扉を開いた。



 すると、そこにはベットで眠ってい僕がいた。恐る恐る、近づいていくと目覚まし時計のアラームが、けたたましくその部屋に鳴り響いた。もう1人の僕は慌てて飛び起きていた。同時に、もう1人の僕は佇んでいる僕のことが見えていないようだった。恐らくその日は、大学の授業が午前からあったらしい、壁のカレンダーを見ると、午前から授業ありと赤いマーカーでメモされていた。朝ごはんも摂る時間もないようで栄養ゼリーだけ飲み、さっと用意して、バタバタと慌てて部屋を出ていった。


 なんだ、いつもの生活じゃないか、そうほっと安堵したのも束の間、マンションの駐車場から何か衝突事故のようなブレーキ音が聞こえた。

 その瞬間僕の頭の中が真っ白になった、同時に知らない方が良かったのかも知れない、知らない方が幸せでいられた事実を知ってしまった。黒く、底知れない後悔が僕を包んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る