最年長ラッキースケベ
「それにさ修也、名字同じなんだから僕らだって嫌でも目立つよ?」
「……」
昇太のその言葉に、何も言い返せない。
……そうだよ。
考えたくなくて思考から遠ざけていたけど、そうだよ。
親が再婚するということは、そういうことになるのである。
「僕らには特に話が無かったことからして、美沙さん美菜さんが河井姓になるんだろうな。どちらにしろ、彼女たちと僕らに何らかの関係があることは明白だ」
……はあ、今から明日の始業式に向けて気が重いぜ。
「修也さあ、そんなに目立つの嫌だったっけ?」
「悪いけど、俺の方が正常な反応だと思うぜ」
「ふうん……もっと好奇心旺盛に行こうよ。先が読めない物語の方が面白いじゃないか」
……こいつは、今の状況を現実だと思っていないのか?
スマホをいじる昇太は、何が起きても動じなさそうである。
「あのなあ。俺が陸上部でなんて言われたか知ってるか?」
「やっぱ修也、二人のこと話したのか?」
「まあ、隠してもいずれわかることだしな」
「……ああ、それでこっちにもメッセージ来てたのか……『義理の姉妹のことを聞いたぞ、写真とか無いのか』って」
昇太がまたスマホを少し操作する。
俺の知らないところで、あの二人を隠し撮りしてないだろうな。
「やっぱり来てたか」
「まあ、どうせそのうちみんな見れるんだ。写真より実物が一番だろう。……で、そうだな……『ラブコメの主人公』とか言われたのか?」
知らないなら当てに行くなよ。思わずため息が漏れる。
「……違うか。良い線行ってると思ったんだがなあ」
そして真面目に悔しがるなよ昇太。
「俺が主人公は無理だろ。こんな普通顔で」
「男の見た目なんて普通で良いんだよ。ドラマもアニメもまずストーリーが面白くてなんぼだ」
「じゃあ、昇太はできるのか? 身体は同じなんだからできるだろ」
「僕は『普段目立たないけどいろんな情報を持ってて主人公の手助けをしつつ面白がっている友人』ぐらいが限界だ」
それ、ほぼ普段のお前じゃないか?
「――で、実際なんて言われたの?」
「『毎日ラッキースケベ男』」
「……」
……昇太、笑いたいんなら笑えよ。
その顔は笑いを我慢しているときの顔だろ。
わかるんだ、俺も同じ顔するから。
「良いか、俺がそう言われたってことは、昇太にだってそう言われる可能性が充分あるってことだからな」
「いや……確かに、僕よりも修也の方がその名前合ってるよ。良いな、陸上部のネーミングセンス」
昇太はどこを褒めてんだ?
そもそも良いセンスなのかこれ?
「まだ陸上部のやつらだけの段階だぞ。さらに他の皆の知るところとなったら……」
「心配し過ぎだよ修也。というか、ある程度は仕方ないさ。これはあんな可愛い美沙さん美菜さんと一緒に住む代償だ」
「代償ってお前」
「そう言うしかないだろう。だってほら、壁一枚向こうにはもう二人がいるんだぞ」
そう言って昇太は立ち上がると、壁際に聞き耳を立てる。
この向こうが、美沙さん美菜さんの部屋だ。
……俺らが静かになると、ガサゴソとした音が聞こえる。
きっと明日の準備をしているのだろう。
「さて、いったい隣の部屋で何が繰り広げているのだろうねえ、修也?」
「そんなのわからんだろ」
「……どうする? 着替え中だったりしたら。制服のサイズチェックとか」
昇太が俺の耳元に寄ってそっと囁く。
「……!」
「分かっただろ。これがあの二人と一緒に暮らすということだよ」
「待て待て、それは違うだろ昇太」
「……ふむ。では、修也は何の想像もしなかったのか?」
……
「……顔が赤くなってるぞ、修也」
「うるせー」
そりゃあ、平静を装える訳ないだろう。
中学新二年生だ。可愛い女子のことは色々と考えるし、興味本位で本屋の18禁コーナーに入ってみたくなる。
こんなの、俺に限ったことじゃないだろう。
「……分かったよ。ある程度周りから言われるのは諦める」
確かに以前からの知り合いでない中学生が男と女で一つ屋根の下、ってなったら色々と済まされないだろう。
合理的な理由があるとはいえ、そんなの面白がってる他人にとっては重要なことではない。
俺らと、美沙さん美菜さんが一緒に暮らしている、その事実こそが一番の問題なのだ。
「ただ昇太、それはお前も同じだ。お前がクラスで後ろ指差されても、俺は全く気にしないからな」
「大丈夫だよ。その時は二人で共倒れだ。ここは兄弟らしく行こう」
都合良く兄弟を使うなよ昇太。
「頼んだぞ、最年長」
「あのなあ。それ父さんにも言われたんだぞ。ほんの少しの差じゃねえか」
「それでも残念ながら、この家の長男は修也なんだな。そして美沙さん美菜さんは妹である」
「って言ってもなあ……」
同い年だが、俺と昇太は5月21日生まれ。美沙さん美菜さんは6月21日生まれ。
……と言っても、正直妹感は全然ない。
むしろ家事をしてくれる二人のほうが全然しっかりしてて年上かのようだ。
「今ここで色々言っても始まらないさ。ある程度は出たとこ勝負だぞ」
昇太が俺の肩をポンと叩く。
「……で、宿題は終わった?」
「お前のせいで進んでねえよ」
結局、宿題が終わった頃には、いつも寝る時間になっており、春休み最後の日は気づいたら終わっていた。
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