第3話:JKとバンライフ(車中泊生活)の生活必需品
「今夜はどこに行くんですか?」
JKが期待した声で訊いた。運転している俺の邪魔をすることはないけど、身体ごとこちらを向いているし割と顔も近い。
この子 可愛いからそういうのってこの歳になってもドキドキするんだよなぁ。
「ちょっと足を延ばして糸島の方に行こうと思ったけど、予定変更で市内のパーキングに停めることにする」
糸島は糸島市。福岡市のお隣で海がきれいな半島のような場所。明日はきれいな景色の場所で働こうと思っていたのだ。
「どうしてですか?」
「これから買い物だ」
「はーい」
そう、予定外に買い物に行く必要があるだろう。なにしろ、このJK何も持っていないのだ。所持品ゼロ。鞄も持っていないしスマホも持っていないと言っていた。
「ところで何を買うんですか?」
思い出したようにJKが訊いた。
「きみの服とか、下着とか、歯ブラシとかだよ」
「え?」
「タオルくらいは貸してもいいけど、さすがに下着とかは貸せないし、そのままじゃ嫌だろ」
「……はい、ありがとうございます」
きょとんとした反応。
「どうしたJK」
「いえ、ずっと着たきりかと思ってました」
「俺はこの車に住んでるんだ。着たきりだと汚いだろ。ちゃんと朝はパジャマから着替えて服着るし、寝る時にはパジャマに着替えるわ」
「えー、そうなんですか。意外です」
どんな生活を想像してるんだよ。
「その代わり、洗面具とか化粧水とか百均な」
「ヒャッキン……?」
「百均だよ。100円ショップ」
「はい……?」
振り返って考えれば、俺はこの時点で気づくべきだったんだ。そして、気付くための材料はたくさん転がっていたんだ。
◇
色々買うためにショッピングモールにきた。色々買うためには1か所で全部揃うモールが最適解。
まずは、服を買って着替えさせないと制服姿のJKとおっさんが歩いていたらそれだけで職質かけられる。
何一つ後ろめたいことはないのだけど、警察に呼び止められると色々厄介だ。極力トラブルは避けたい。
俺はモールの駐車場に車を停めて、2階の洋服売り場に行った。ユニクロみたいなちゃんとした店じゃなくてモールの中に入っている服屋。どうせすぐにいなくなるJKのための服だ。数回しか着ないのだから安物を1着買っておけばいいだろう。
JKに「じゃあ、服と下着を買って来い」と言って1万円を裸銭で渡した。
「え? 付いてきてくれないのですか?」
「自分の服だろ。下着とかもあるだろうし俺が一緒に行けるか」
「私 服なんて自分で買ったことありません。どうしたらいいか……」
捨てられた子犬の様なものすごく不安そうな顔でJKが答えた。こいつは普段どんな生活をしているのか。
「い、一緒に来てください」
手を引っ張られて婦人服の売り場に連れていかれる俺。
JKとおっさん……もういきなり怪しい感じだ。しかも、彼女は学校の制服だ。怪しさ満載としか言いようがない。
どれでもいいから適当に選ぼうと思ったら、モールの服屋って中学生くらいまでとその上はいきなりおばちゃん服になるみたいだ。
高校生が普段着る様な服は置いてないみたいだ。しまった、俺はそんなことも知らなかった。多分、売れないから置いてないんだろう。じゃあ、彼女らはどこで服を買っているのか⁉
結局、大手のチェーン店に行く羽目になった。
「私はさっきのお店でもよかったんですが……」
「流石に濃い緑のペイズリー柄のワンピース着てるJKはダメだろ。余計目立つわ」
こんな時に役に立つのはGoogle先生だ。「高校生 普段着」などで画像検索してそれらを参考にしつつ服を選んだ。
結局、シャツとズボン、下着、ルームウェアで合計数点買った。それでも1万円行かないんだから、やっぱりチェーン店凄いな。
ちなみに、店員に言って買った服はタグを切ってすぐに着せた。袋には制服とルームウェア類が入っている。会計を終えると着かえた制服と商品が入った大きな袋は彼女に手渡した。
彼女は大切そうに両手で抱きかかえるように持って、にへへと嬉しそうだった。
多分、一般的なJKだとダサいと言って見向きもしないものを選んでしまったかもしれない。俺は別に服のセンスはないし、JKに至っては自分で選んだことすらないと言うのだから。
ポンコツ二人が話し合ってもいい結果になんかたどり着くはずがない。値段を中心に無難に無難に選んだのだ。
次は、百均に行った。洗面具類を買う必要があるだろうし、俺はあんまり分からないけど化粧水とかいるはずだ。
百均ではまたJKの目が輝いていた。
「どうした?」
「もしかして、ここにあるもの全部100円ですか?」
「まあ、厳密に言えば消費税が入るから110円だけど、まあ100円だな」
それを聞いて目のキラキラ度が一段と増した気がする。なぜ百均でそんなにテンションが上がる。
「ちなみに、百均に来たことは?」
「ありません! 初めてです! モール自体初めてです!」
ちょっと頭痛がしてきた。そうか、こいつはお嬢様なんだ。制服だってお嬢様学校の制服だ。あの学校はすごいお金持ちの子が通うって聞いたことがある。このJKもそれに漏れずお嬢様なんだな。
またもGoogle先生の登場だ。洗顔クリームと化粧水くらいは なんとなくわかるが、その他に必要なものが全く思いつかない。調べつつ、洗顔クリーム、化粧水、美容液、日焼け止めを買い、その他 歯ブラシやシャンプー、リンスなども買った。
こっちも結構な量を買ったけど、3000円はいかなかった。百均さまさまだ。こっちは意外と重たかったので、俺が荷物を持つことにした。
「これで終わりですか?」
JKが聞いた。
「あとは夕飯の買い出しだな」
「え? 食べるんですか?」
「普通に食べるだろ。車中泊を何だと思ってるんだ」
「食べるんだぁ」
JKがどこか驚いているようだった。バンライフをなんだと思っているのか。前途は多難そうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます