第18話 魔法少女爆誕!

「ここも見慣れてきたな」


「うむ」


 初級迷宮入り口の小部屋を見回す。


 一・二階の相手はスケルトンばかりなので、前回拾った腕の長さほどのメイスを鈴鹿に渡すと、楽しそうにブンブン振り回している。

 全てが鈍い銀色の金属で作られており、途中に補強用の数か所のリングがはめ込まれ、先端はフランジと呼ばれるハート形っぽい突起が六方向に突き出しているのが、なんとなく魔法少女の変身スティックみたいだ。

 なので、フランジの下に、マジックバッグから取り出したリボンを結んでみた。


「のわーー可愛いのじゃ~」


 ニコニコしながら、更に楽しそうに振り回している。

 それこそ魔法少女の変身ポーズのようにくるっと回るように言うと、いつまでもクルクル回っている。

 スカートがふわりとひるがえり、襟とスカーフもたなびいている。


「天から受けしダイ・トーレン、ショー・トーレン、ケン・ミョーレンの三つの力をここに借りて」

 

 回るのに連れて足元で発光しているコケのような物が舞い上がり、鈴鹿の周りに光の帯が出来ているのが、魔法少女っぽさを演出する。

 直後、制服姿から立烏帽子に薄水色の水干、紅の袴姿へと早着替えを行った。


「魔法少女まじかるスズカ、推して参る! のじゃ」


 変身ポーズを決める鈴鹿。


 絶対に記録しておきたいのに、カメラどころかスマホすら無いのがとても残念だ。


 そういや、スマホって学校のどこで売ってるのかなあ。

 恐らく購買の書籍コーナーか正門横の商店街だと思うけど、幾らするんだろう。

 この可愛い鈴鹿の姿を記録しておくために、ガッツリ稼いで早く買わないと。

 

 新しい目標が出来たな。


「目が回ったのじゃ~~」


 可愛さにほっこりしていると、回り過ぎてペタンと床に座り込んでしまった。

 マジックバッグから取り出したペットボトルの水を渡すと、コクコクと飲んでいる。

 

「さて、行くかの」


 再び制服に戻ると、メイスをブンブン振りながら立ち上がる鈴鹿。

 よし、奥に進もう。


 今日は昨日行かなかった箇所を回って、地下二階に進む予定だ。


 途中で出現したスケルトンは鈴鹿がメイスで膝を叩き壊して、倒れた所を頭蓋骨をかち割ってたり、こっちが戦斧で叩き潰したりと力技で余裕で倒せている。


 広間も昨日のようなモンスターハウスにはなっていないし、さくさくと一階を巡り終えて、二階の階段へと到着した。


 階段も今までの通路と同じように、石を雑に削ったような感じだが、中心部は多くの人が歩いたのか、かなりすり減っている。

 すり減るってことは、壁とかも壊せるんだろうか。

 ファンタジーとかだと、壁や床は壊れない迷宮物質で出来ているとか、壊れても自動で修復されるというが、この迷宮ってどうやって作られたんだろうなあ。


 考えてもどうしようもないし、多分先輩方が研究しているだろうから、そのうち図書館ででも調べてみよう。

 困った時の買取りの店員さんか、副担任に聞くのでもいいけど。


 そんなことを考えつつ二階に降りると、さっそく何かの影が見える。


 一階のは骨格標本だったが、今度はシルエットがもっとがっちりとしている。


 事前情報では二階もスケルトンだったはずだが……足音を忍ばせて近寄ると、そこにいたのは錆び付いた板金甲冑と砲弾型のフルフェイス兜を着けて、ボロボロの深紅のマントを纏ったスケルトンだった。

 手には大剣と楕円形の大型盾を持っている。

 少しは強そうな感じだが、まだこちらには気が付いていない。


 なので、そっと近寄ると無防備な首筋に戦斧を叩き込む。

 同時に鈴鹿が膝にメイスを叩き付けると、スケルトンが膝から崩れ落ち、頭蓋骨が兜ごと転がった。

 戦斧の石突でフェイスガードを跳ね上げ、開いた隙間に突き刺すと、頭蓋骨が砕け散って甲冑と武器に盾、小指の爪ぐらいの魔石が転がった。

 剣を拾い上げると、古びているが、今までよりは明らかに質は良さそうだ。


 と言っても、店員さんによれば購買で売っていた初心者用よりは劣るんだよな。

 甲冑はかなり朽ちているので、これも地金としてしか価値はないような気がする。

 盾はそれよりはましだが、使わないしな。

  

 手帳をまだ買っていないので、図書館で写した地図を頼りに二階層を進む。

 上級生が入るのにはまだ時間があるし、一年生は我々以外は全員初心者用だ。

 なので、いまのうちに回れるだけ回っておこう。


「所詮は骨じゃの」


「ああ、手ごたえが軽いのばっかりだ」


 二階で出てくるのは、一階とは違ってほとんどが色々な甲冑、板金鎧や鎖帷子くさりかたびら、革鎧、兜などを着けていて明確に防御力が上がっている。

 武器も長大な大剣、片手剣、長柄武器、戦斧、メイス、クロスボウと多岐に渡っている。


 でも露出している部分は骨でしかない。

 装甲部分を避けて攻撃すれば、あっさりと倒せてしまう。


 まれに複数出てくることもあるが、鈴鹿と二人並べば囲まれることもない。

 全く経験にならない戦いが続いている。


 今も三体が横に並んで、通路の幅一杯に盾を構えてその隙間から槍を突きだしているが、密集陣形ファランクスには数が少なすぎる。

 突き出された槍を三本纏めて戦斧でなぎ払い、出来た隙に鈴鹿が素早く潜り込んで一体の膝を砕く。

 盾の壁が崩れた所に正面から戦斧を叩き付け、もう一体を盾ごと押しつぶす。

 最後の一体は、鈴鹿が手にしたまじかるメイス(そう名前を付けたらしい)をかち上げて膝を破壊、最後に転がった頭蓋骨を叩き割った。


 これだけであっさりと全部倒せてしまった。


 まだ回っていない箇所もあるが、これでは全然経験にならないので、下の階層に降りようと地図を見ながら近くの階段に向かう。

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