第12話 初級迷宮初挑戦

 今はまだ17時か。

 寮の夕食時間は19時から21時だが、今食べたばかりだからお腹は空いてないな。


「ちょっと初級迷宮に行ってみるか?」


「うむ、もう少し手ごたえがあると良いの」


 鈴鹿を肩車して、二人で生徒手帳をかざすと迷宮門を潜る。

 足元の円が発光して光に包まれ、また目が回るような感覚の後、薄暗い石造りの部屋にいた。

 立っているのは部屋の隅で、反対側の壁際にさっきの門と同じような円が光っているのが見える。

 恐らくあれが脱出用の門なのだろう。


 一方の壁に木製の何の変哲もない外開きの扉がある。


「じゃあ、開けるぞ」


「準備おっけーなのじゃ」


 扉を少し開けて外を覗く。

 足元から鈴鹿がちょこっとだけ顔を出して同じように覗いている。

 見えるのは、真っ直ぐに続く通路で、モンスターは見える範囲にはいない。

 扉を大きく開けると、部屋から右手に通路が繋がっており、左手側は突き当りだ。

 刀を取り出してベルトに通し、いつでも抜けるように鍔を親指で押して鯉口を切る。


 一本道なので、道の選択肢はない。

 隠し通路があるかもしれないけど、盗賊技能持ってないからなあ。

 メモに簡単なマッピングをしながらひたすら真っ直ぐな道を進むと、前方に白っぽい人影が見えた。


「ようやく敵発見じゃな」


「最初は僕がやるよ」


「うむ、任せたのじゃ」


 人影にすり足で近付くと、見事な骨格標本が立っていた。

 理科準備室の隅っこにひっそりと佇んでいそうな骨格標本が、手にファルシオンとかグロースメッサーとか呼ばれるナイフを大型化したような片手剣と丸盾を持っている。


 先輩方の誰かがいたずらで置いたのでなければ、多分あれはスケルトンなんだろう。


 どうでもいい話だが、巨大な骸骨の集合体の妖怪であるがしゃどくろは昭和の創作妖怪だと『母さん』から聞かされて愕然とした記憶がある。

 『母さん』も信じていたらしいが、ある所で夢が壊されたと言っていた。

 今だと分かるが、学校の迷宮でなんだろうなあ。


 まだ骨格標本は動く気配が無い。

 本当に新入生をからかうために置かれたのでなければ、我々に気が付いていないんだろう。

 倒した瞬間、先輩方がスマホを手に出てきて、「今年のビビり一年第一号」とか配信されるかもしれないが、静かに近寄って標本の首元に抜き打ちを仕掛ける。


 軽い一振りで首は落ちたが、転がった頭蓋骨が空っぽの眼窩がんかに無いはずの目でぎょろりとこちらを見ると、頭を無くした体が剣を振り上げて向かって来た。

 振り上げた剣を軽く弾き、そのまま手首を切り落とし、返す刀で斜めにろっ骨を切り上げる。

 それでもまだ動いているので、制服とセットだった鉄板の入った安全靴のかかとで頭蓋骨を粉砕して、止めとばかりに踏みにじる。

 そこまでやってようやく動きが止まり、粒子となって消滅した。


 何で学校指定の靴が重いのかやっと分かった気がする。

 今日からスケルトンスマッシャーと呼んでやろう。


「首を落としてもダメとは、わしとは相性が悪いの」


「みたいだね、これは刀は効率が悪そうだ」


 刀を鞘に納めて、そのままマジックバッグにしまう。

 代わりにオークから手に入れた戦斧を取り出す。

 オークは片手で軽々と持っていたが、完全に両手サイズだ。

 振り回してみると、まあ片手で持てないこともないが、柄が太いので両手で持つ方が安定するな。


「ハンマーか鉄棒の方がいいけど、こいつでも何とかなるだろう」


 鈴鹿にも渡してみると、重さ自体は余裕だが、指の長さが足りなくて落としそうになったので慌てて回収する。


 小指の爪ほどになった魔石を拾い上げる鈴鹿。


「少しは力が増えておる。まあ僅かだがの」


「この片手剣も少しは質がいいかな?」


 手に取ってバランスを確認する。

 鈴鹿が刃に軽く指をあてて、形のいい眉を軽くしかめる。


「さて、人間でも使える大きさじゃが、あの店で見たのには劣るの」


「そっか」


 拾った物をひょいひょいとマジックバッグへ放り込む。


 進むとまた一体の骨格標本を見つけたので、戦斧を思いっきり振り上げて上段からの一撃で頭蓋骨を粉砕すると、勢い余った刃が背骨から尾てい骨まで通り抜け、スケルトンの開きになった。


「弱いな、こいつも」


「うむ、妖力の量もからっきしじゃ」


「さっさと先に進んだ方が良さそうだ」


 一本道を抜けると、広間に出た。

 反対側と左右の壁が闇の中に溶け込んで見えないから、かなり広いのだろう。

 中にはスケルトンがうじゃうじゃひしめいていた。


「これは面倒だ」


「うーーーーむ」


 鈴鹿が何かを考え込んで、閃いたのかぱっと顔を上げる。


「やってみるかの、舞え小通連しょうとうれん!」


 鈴鹿の掛け声と共に小通連しょうとうれんが飛び出し、スケルトンの頭上でくるりと輪を描く。

 直後、数体の首が落ちた……が、まだ動いている。


「やっぱりの。では、これならどうじゃ。踊れ小通連しょうとうれん


 掛け声を変えると、小通連しょうとうれんが縦に回転する。

 今度は数体のスケルトンが開きになって、粒子となって消滅する。


「おお、やるな」


「うむ、さっきのぬし殿を見て真似してみたのじゃ」


「これなら行けるな、じゃあ右は任せた」


「任せられたのじゃ!」


 戦斧を振りかぶると、広間の左側に駆けて行き、目に付いたスケルトンを問答無用で叩き潰す。

 ちらっと右を見ると、小通連しょうとうれんが回り続け、バタバタとスケルトンが倒れていくのが見える。

 あっちは問題なさそうだ。

 スケルトンは気配が無いのが困る。

 どれだけの数がいるのか全く分からない。

 壁沿いを左に走っているうちに、ようやく前に壁が見えてきた。

 前にもういないのを確認するとUターンして今度はジグザグに走りながら、戦斧を振り回し続ける。


「加勢するぞ、清高きよたか


 鈴鹿の声が響いた。

 どうやら右側は全て片付いたらしい。


「ああ、頼む!」


 ちらっと視線を向けると、鈴鹿が正面に向かって大股で歩いて行くのが見えた。

 こちらもそろそろ奥の壁が見えてきた。

 次の折り返しで、残り全部を倒せるだろう。



 結局5分ほど走り続けて広間全てを掃討した。

 倒すのよりも、また戻って魔石と武具を拾う方がよっぽど時間と手間が掛かったよ。

 魔石の数からすれば、大体50体ほどのスケルトンを倒したみたいで、武器もファルシオン、直剣、槍、メイス、こん棒と多彩だったが、防具は粗末な木の丸盾だけで、全てマジックバッグへ放り込んだ。

 回収している間に気が付いたが、広間からは四方に通路が繋がっている。


「どこに行こうか?」


「どうせ全部行くからどこでも良いぞ」


「そうだな、じゃあ分かりやすく右に進もう」


「うむ、ぬし殿の好きなようにするが良い」


 小通連しょうとうれんをしまってポテポテと歩む鈴鹿の横に並んで進む。

 多分自分が倒したのは20体ぐらいだが、戦斧が壊れそうな気配もない。

 重くてバランスは今一つだが、頑丈なのは使い勝手がいい。

 効率的には、鈴鹿には全然かなわないが。


 今は入ってから20分か、授業じゃないが後30分進んだら戻ろう。

 右手の通路は左右に扉や通路が出てきて、まさしく迷宮という感じになってきた。


「こういった場合は、いちいち扉を開けたり枝道に入ったりした方がいいのかなあ」


「後ろから奇襲されるのはいやじゃからの、仕方あるまい」


 面倒だが、手前から潰していくか。


「む、開かない」


 って、いきなり最初の扉に鍵が掛かっている。

 鍵開け技能とか持っていないし、どうしたものか。

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