シンデレラ1話
昔々ある所に美しい娘がおりました。
彼女の名前はエラ、貴族の娘です。母は早くに病気で亡くなり、父と二人暮らしのエラ。しかし二人はとても仲良く暮らしており、何不自由ありませんでした。
そんなある日、父が再婚する事が決まりました。継母と義理の二人の姉が家族に加わったエラは喜びました。
しかし、再婚してすぐのこと父が事故によって亡くなってしまいます。最愛の父を亡くしたエラはひたすらに泣いて過ごしました。
権力者である父の死を切っ掛けに、継母と義姉の態度は一変しました。財産のすべてをエラから取り上げ継母と義姉は好き放題の暮らしぶり、エラは使用人のようにこき使われて、掃除で灰を被った姿を見て灰被り《シンデレラ》というあだ名で呼ばれるようになりました。
エラはそんな境遇でもめげませんでした。与えられた仕事をこなし、屋敷を完璧に磨き上げ、料理に洗濯も、一つの文句もこぼさずに一生懸命にやりました。
義姉はエラのそんな態度が気に入らなくて、思いつく限りの嫌がらせをしました。エラはそれにも堪えて笑顔を絶やさず。過労で倒れようとも使用人の仕事をこなしました。
その様子を不気味に思った義姉二人は、継母に語りかけました。
「ねえお母様、シンデレラって不気味だわ」
「そうよ、どんなに汚い命令でも笑顔でこなすのよ。文句一つなしに」
継母は義姉二人の言葉を笑い飛ばしました。
「何言っているのよ、尚更好都合じゃない。どんな仕事でも断らず、馬鹿みたいに疑問も持たずやってくれるのよ。精々こき使ってやるといいわ」
義姉の懸念は残っていましたが、継母の言う事も最もだと思い、エラには更に重労働が押し付けられました。
それでもエラは仕事に一生懸命でした。こいつは文句を言わないと確信した義姉達は、疑念などすっかりと忘れてどんどんエラに対して尊大な態度を取るようになりました。
夜も更けた深夜、継母と義姉達が薬の混ぜられた食事でぐっすりと眠りに落ちたのを確認すると、エラは裏口から家を出て待ち合わせ場所に向かいました。
古井戸で待っていると、エラの前に怪しげなローブをまとった老婆が現れました。
「遅かったじゃない、頼んでいた物は用意できた?」
「ふぇふぇふぇ勿論。いつもの小屋に置いてあります」
老婆の持ってきた
「いつも通りいい出来ね。小屋から物を引き上げさせたら代金を置いておくから受け取りなさい」
「毎度ありがとうございます。貴重な収入源で助かっていますよ」
エラがその場を立ち去ろうとすると、老婆がエラに話しかけます。
「お渡しした薬、調子はいかがですかな?」
老婆の言葉にエラは振り返りました。
「中々良いけど持続性が気になるわね、今日も0時には効能が切れてしまうから」
「改善の余地はあるのですが、どうも効果時間の引き伸ばしだけは上手くいかないのですじゃ」
「そこら辺は追々で構わないわ、その代わり投資に見合うだけの結果を出しなさいよ。分かってるわね」
エラの少女とは思えないような鋭い眼光に、老婆は身震いしました。
「分かっております。今回もサービスで色々な試薬を置いておきました。是非お試しください」
老婆の言葉にエラはふんと鼻を鳴らして去っていきました。家に帰るともう0時です。継母や義姉達が家の中をあーあーうーうーと呻きながら歩き回っていました。
「これが面倒なのよねまったく」
エラは急いで薬を取り出すと継母と義姉の口の中に放り込みました。暫くすると呻くのをやめて、それぞれのベッドへと戻っていきました。
「壊した正気を取り戻させる薬、今日は来客の対応をして貰うために使ったけれど、できる限り使いたくないわね。面倒くさい」
それぞれの部屋へ行き、寝ている粗末なベッドにその身を縛り付けると、口の中にもう一つ薬を入れて飲ませました。
「素敵な夢を見させる薬よ、おそらくあなた達は父の遺産を使って豪遊している夢でも見ているのでしょう。それとも私を使用人のように扱き使って自尊心を満たす夢かしら、まあどちらであろうとも興味はないわ」
部屋から出て無造作にドアを閉めると、エラは豪華なベッドに身を横たえてぐっすりと眠りに入るのでした。
エラは継母の再婚が父の遺産を狙ってのものだと気がついていました。
どんなに性格の悪い女が来たとしても、エラにとっては何ら脅威になりえません。いつも通り父の仕事を隠れ蓑にして薬の流通を行い財を為すのみでした。
しかしここでエラに誤算が生じます。なんと継母と義姉二人は共謀して父を亡き者にしてしまったのです。
その計画のあまりの杜撰さにエラは頭を抱えました。こんなものはすぐに怪しまれてバレてしまう、そしてこの家に捜査の手が入る事はエラにとって避けたい事でした。
証拠を残すような真似をエラはしませんが、どんな所から気づかれるか分かったものではありません。どんなに完璧にしていても必ずどこかに綻びは生じる。だからこそエラには優秀な隠れ蓑が必要でした。
それを台無しにされたエラはすぐさま行動に移りました。
薬の調達先である魔女のおばあさんに頼んで、正気を失わせる薬を作って貰いました。幸い事故の現場には継母と義姉が居合わせていましたので、精神的なショックによる心神喪失を演出させるのには都合がよく、余計な事を言わせない為の口封じも同時に済ます事が出来ます。
そうして継母の杜撰な計画の尻拭いをしたエラ、なんとか捜査の目から外れる事が出来ました。
今度の問題は隠れ蓑の存在です。エラが一人で仕事をこなせればそんなものは必要ないのですが、それは無理な話です。
人足を使えば証拠が残り、物が動けば違和感を覚える、上手いこと紛れさせるのがエラの手法でしたが、それが使えなくなってしまいました。
そうして思いついたのが、失わせた正気を取り戻させる薬でした。しかしずっとではいけません、都合のよい時間だけ動かせるようにしたかったのです。
エラは父の仕事を覚えそれを完璧にこなし、表向きは継母が後を引き継いだように見せました。
そしてその後継者も、二人の義姉の内のどちらかが担うと思わせる為に、必ず人と面会させる時は二人も継母に同行させました。
発言は薬でコントロールできると言っても、何処かに矛盾があれば気づかれてしまう、エラは身を粉にしながら働いて、継母と義姉の面倒を見ていました。
そしてその裏では、魔女のおばあさんと薬の開発を進めて、流通と販売を担っておりました。そうしてお金を稼いでいき、エラにはある夢がありました。
いつかこの国を手に入れる事です。城を手に入れて国主となる事がエラにとっての夢でした。
その為の努力をエラは惜しみません、継母と義姉の世話も、父の仕事も、家事も何もかも全部完璧にこなしてみせる覚悟がエラにはありました。
すべては叶えるべき目的の為、エラは知恵と度胸と悪巧みを武器にして、いつか履くガラスの靴の夢を見るのでした。
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