超解釈!魔改造誇大話
ま行
浦島太郎1話
昔々ある所に浦島太郎という青年がおりました。
太郎は年老いた母と二人暮し、海で魚を釣り生活をしていました。暮らしぶりは慎ましいものでしたが、母と協力して日々を過ごす事は苦ではありませんでした。
ある日、太郎がいつものように魚を釣りに出かけると、浜辺で子どもたちが騒がしくしていました。何かを囲んでいるようです。
子どもたちがただ遊んでいるだけなら太郎も見逃そうと思いました。しかし子どもたちは手に棒等を持って囲んでいる何かを叩いていました。
見過ごすわけにはいかない太郎が近づいて見てみると、子どもたちが囲んでいたのは亀のようでした。固い甲羅をつついたり叩いたりしています。
亀があんまりにも可哀想だったので、太郎はすぐに子どもたちの間に割って入りました。
「やめなさい皆、亀が可哀想だろう」
子どもたちは手を止めて言いました。
「でもこいつ何か変なんだ。兄ちゃんも見てみなよ」
子どもたちが言う通り、この亀は太郎も見たことがない見た目をしていました。
甲羅は光沢があり固く、普通の亀では見ることのない様子でした。手足の先も鋭く尖っており、所々脈打つように光が走っていました。
確かに奇妙な見た目をしていると太郎も思いましたが、それとこれとは話が別です。
「それは亀さんをいじめてもいい理由になるかな?」
太郎の問いかけに子どもたちは黙り込みました。そんな子どもたちに太郎はにっこりと笑いかけて言いました。
「確かにこの亀さんは見たことのない見た目をしているね、君達も興味深かったり怪しんだりしたのだろう。だけどいじめてしまうと、もうこの亀さんには会えないかも知れないよ?」
初めて見る亀に対して、子どもたちの好奇心がうずいたのでしょう。太郎はその気持ちを汲んだ上で優しく諭すと、子どもたちも納得して帰っていきました。
太郎は子どもたちを見送ると、亀を海の方まで押していきました。見た目の大きさより重たくて一苦労でしたが、なんとか波打ち際まで運ぶことが出来ました。
「さあ海へおかえり」
波に乗せて太郎は亀を海に押し戻しました。亀は身の安全を確認したのか、ようやく頭を出して海の底へと泳いで行きました。
太郎は漁を終えて家に帰ると、母に今日あった事を話しました。
「母さん、今日海で珍しい亀を見たよ」
「まあどんな亀かしら」
「それがこの辺では見かけない奴でね、甲羅から手足まで本当に見たことがない形をしていたよ」
太郎と母は不思議な亀の話をして、その日の食卓は大いに盛り上がりました。太郎は自分が思っている以上に、その亀と出会えた事に興奮していたようで、事細かに亀の様子を覚えていました。
太郎は床に就いてもまだ亀の事が頭から離れません。またあの亀と出会えないだろうかと思って眠りにつきました。
不思議な亀と出会ってから数年後、太郎がいつものように海で釣りをしていると、海の向こうに何やら見たことのない影が見えました。
その影は徐々に太郎の元に近づいてきて、ついにその姿を太郎の前に表しました。
太郎は声を上げて驚きました。あの時の亀が比べようもない大きさになって戻ってきたのです。
腰を抜かしてへたり込んでいる太郎に、何やらピーピーという音の混ざった声が聞こえてきました。
「浦島太郎様、覚えていられるでしょうか?あの時助けていただいた亀でございます」
やはりそうかと太郎は身を乗り出しました。
「おおやっぱりそうか!これ程大きくなっているとは驚いた」
「浦島様に助けていただいたお陰でございます。あの時は本当にありがとうございました」
太郎と亀は暫し再会を喜んで談笑を交わすと、亀の方からある提案をしてきました。
「浦島様、つきましてはあの時の大恩を返させて欲しいと私は考えています」
「そんな大仰な」
「いえそれ程の恩を受けたと思っています。さあ、私の背にお乗りください」
亀がそう言うと、甲羅の真ん中当たりがプシュッと音を立てて開き、そこから階段状の足場が伸びてきました。
太郎は戸惑いながらも階段を上り、甲羅に空いた穴から中に入りました。そこは座れるようになっていて、太郎が乗り込むと同時に足場は収納され、開いた甲羅が自然と閉まりました。
中が真っ暗で不安に思っていると、ブンと音を立てて明かりが付きました。そして太郎は亀の背の中にいるというのに、辺りの景色が見渡せるようになりました。
手元や足元に何やら見たことのない物もありましたが、そんな事を気にする前に景色が動き出してしまいました。
「亀さん、一体これはどういう事?」
「ご案じなさいますな、そのまま背に乗っておられてください」
あっという間に海の中へと潜っていき、辺りは海の景色の中になりました。
それはとても神秘的な景色で、太郎は感動しました。
いつも釣っている魚が目の前で泳いでいました。そして見たこともない生き物も、海底の海藻も、太郎は見たこともない美しい世界に目を奪われました。
「亀さんこれは凄いな!」
「お喜びいただけたようで何よりです。どうです?少し動かしてみますか?」
亀からの提案を聞いて太郎は驚きました。
「動かす事なんて出来るのかい?」
「ええ、その資格があれば…」
太郎の座っている椅子の肘掛けの先から、取手のような物が飛び出して来ました。それを握ると、太郎は何故かとても手に馴染むように感じました。
「さあ、思うままに動かしてみてください」
亀に言われるがままに取手を操作すると、自分の思うがままに景色が移動して太郎は驚きました。それと同時に、楽しいと心からその感情が湧き上がってきました。
太郎は亀を操作して、海中を自由自在に泳ぎ回ります。猛スピードで突進してくる魚を避け、海底ぎりぎりから宙返りをして海面まで急上昇し、そこから更に潜水したりと、亀と共に自由自在に海の中を楽しみました。
「亀さん、こんなに楽しいことは今まで経験したことがなかったよ」
「まだですよ浦島様。ご案内したい場所がございます」
言われるがままに太郎は亀に乗り、再び海の深くまで潜っていきました。
光も届かぬ海底に、亀の目から伸びる光の筋だけを頼りに進んでいくと、何やら明るく輝く物が見えてきました。
「前方に見えるあれは何だい亀さん?」
「あそこが浦島様を案内して差し上げたかった所でございます」
それは近づくにつれて全貌を露わにしていきました。絢爛豪華な立派なお城が海底に建っていました。太郎が思わず目を奪われていると、亀が言いました。
「こちらが私が生まれた場所、そして乙姫様が御座します竜宮城でございます」
その綺羅びやかなお城の名前は竜宮城、そこに住まうは乙姫様と呼ばれる女王でした。太郎は亀に導かれるがままに竜宮城へと入っていきました。
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