圧縮
梅田 乙矢
1
気がついたらコンクリートの建物の中にいた。
全てが灰色なのにどこからか光が差し込んでいて暗い感じはなく暖かな雰囲気だ。
天井は高くて内部は複雑な構造をしている。
部屋というより空間という言葉がピッタリのガランとした場所がいくつもあった。
この建物には人もいないようで静まりかえっている。
私はコンクリートの
少し歩くと先の方に異様なものが置かれているのが目に入った。
銀色の巨大な円形が天井に一つ、地上に一つついている機械だ。
そっと近づき見てみる。
ずいぶん汚れていて気持ちが悪い。
まるで色んな絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜて塗りたくったような色だった。
気持ち悪いと思いながらもなぜか私はひかれるようにその巨大な機械に登って横になり天井側の円形を見ていた。
灰色の壁だらけに物音一つしない空間。
冷たい印象を与えそうだが、差し込んでいる光が暖かい色のせいか私はとても
しばらくしてふっと気づいた。
天井側の円形にもさっきの気持ちの悪い色が付着している。
よく見てみるとどうもそれは人間の体の一部のように見える。
皮膚や髪の毛、唇などが半分になり
ついているようだ。
そうか、これは巨大なプレス機でここで人が殺されたんだなとなぜか冷静に考えていた。
私は誰かが殺されてしまった場所に寝ている。
そんな気持ちの悪い場所からさっさと立ち去ればいいものをなぜか動くことができずにそのままでいた。
すると突然プレス機が物凄い速さで私に向かって降りてくる。
突然の出来事に思考も停止して何もできずにただ自分が潰されるのを待つような状態になってしまった。
私は潰される直前にやっと顔だけ
その中に顔を埋めるようなかたちになってしまい しまったと思ったが遅かった。
とその時、眼前でプレス機が止まった。
すると耳元で「助けて」「殺さないで」「お願いだから」など様々な声が一斉に聞こえてきた。
首を少しだけ動かし上を見ると上下に引き裂かれた唇が動きいくつもの目玉がギョロギョロと動いていた。
ここで何人もの人が潰されて殺されたんだなと私は息を飲みながら悲痛な叫びを聞いていた。
すると突然プレス機は物凄い速さで上へと戻っていく。
たった今起こった出来事がまるでなかったかのように先程の静けさと暖かさが戻ってきていた。
もう口も目玉も動いていない。
そっとコンクリートの床へ降りる。
ここがどういう場所でどんな理由で殺されてしまったのかは分からないが、私はここで亡くなってしまった人達のことを思いながら出口を探すために歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます