43 薄桃色は、自覚する、、、

!?•••••シルヴィオ•••!!!


恥ずかしいけど仕方がない•••慌ててカイルの首元に腕を巻き付け、自分の顔を押し付け隠す•••シルヴィオに男装がバレたら父上にもバレるし、何よりここにはエドゥアルト王子がいる•••私が王女であることもバレてしまうっ•••!!! 必死で顔をムギュウッとカイルの胸元に押し付けてたら、途端にカイルがビクッと動く•••。く、苦しかったかしら???



足音のした方を、カイルの肩越しに顔を上げ確認すると、•••ヒラリッと青で染め抜かれたマントを翻し、軽やかに駆けてきたのは、やっぱり騎士団長の証である獅子の剣を持つシルヴィオだった••••!! •••瓦礫を見て、下半身が埋まってる赤髪の男と、その側で壁に寄りかかっている全身血塗れのエドゥアルト王子の方を確認している••••んっ•••??? •••何だかすごくカイルの身体が熱くなってる•••?? 耳も真っ赤だ•••!? どうしたのかしら•••??



••••〜っ••••しまったっ•••きゃあぁあああああああっ、恥ずかしすぎるっ••••



心臓がバクバク大きな音を立てる•••私ったら何やってるの•••????


•••シルヴィオの姿を確認することに熱中するあまり、•••自分の唇がカイルの鎖骨にずっと触れていたことに気づかなかった•••!!! しかもほんの少しだけ、化粧が移ってカイルの肌に私の唇の跡が残ってる•••!? •••す、すぐに拭かなくちゃ••••慌てて指で数回擦ると、カイルの身体がますます熱くなった••••


カイルに呆れられたかも••••カイルのこと意識した途端、これって、、•••ひょっとして、私って、気づいたの遅すぎない•••??? カイル、絶対知ってたわよね•••??? 教えてくれても良かったのに•••など支離滅裂なことを考えていたら•••? !••••シルヴィオが目敏く、こちらを見てるっ•••!!!


私は慌てて再び顔を隠す。でも私、今、どうしてこんなにドキドキしてるの•••? 突然自覚してしまった気持ちに戸惑う•••••••これまでカイルが側にいてくれることが当たり前だと思っていたけど、全然そうじゃなかった•••カイルは優秀だからどこでも働けるし、私に愛想を尽かして城を出て行くこともあり得る••••わがままだと分かっているけど、離れたくないっ•••!!

カイルのぬくもりに身を委ねるように、先ほどより自分の想いを込めて、ギュッと腕に力を入れて、抱きつく。カイルの鍛えた胸板に密着し、恥ずかしさが極限状態だったし、カイルにとっては良い迷惑かもしれないけど、だって自分の気持ちに気づいてしまったんだもの•••



ハァーとため息が頭上から降ってきた•••やっぱり、迷惑•••???



ショックに身体が固まってたら、

「あまり煽らないでください。」とポソッとぼやいたカイルが、私を支えていた手に力を込めた•••触れている場所から、カイルの熱と心臓の音まで伝わってきて、自分から抱きついたとはいえ、刺激が強すぎる•••それにこんなにくっついたら、••いくら私の胸が小さいとは言え、カイルの胸板が硬いから、どうしても自分の胸の柔らかさを意識してしまい、とてつもなく恥ずかしい•••でも、シルヴィオが見ているから動くに動けない•••






「カイル、そちらのお嬢さんは?」と穏やかな声と共に、シルヴィオが近づいてくる。カイルが私を抱えたままゆっくり、振り返る。


「•••」

私が王女だと伝えれば、すぐにでもシルヴィオが私を保護してくれるから、どう答えればいいのか迷ってるのかもしれない•••


すると、フェンリルが、流れるようにスラスラと言葉を紡いでいく。

「シルヴィオ、彼女はこの少年と同じく、今まで人質として捕えられていて、憔悴しきっている•••彼女とこの少年は、僕たちが連れていくから、馬車だけ用意してほしい。あとは、地下にいる他の人質となっている人たちを保護してくれないか。」




「地下にもいるのか••• 倒れている奴らの確保と人質の保護と、、•••分かった•••! すぐ騎士たちを向かわせよう。」シルヴィオは、騎士団員への指示を整理し始める•••。••••あらっ•••??•••すぐに次の行動に移るかと思ったら、シルヴィオに動く気配がない•••? なにか•••



「••••カイル、お前、か弱いお嬢さんに懐かれただけで、耳まで真っ赤にして照れるなんて、意外と純情だったんだな。」


!?



シルヴィオは、ハハハッと陽気な笑い声とともに、とんでもないことを言い出した•••



「絶対あんたも同じ反応するから。」


カイルがボソッと私の頭上で呟く••••


私からもカイルと一緒に、シルヴィオに勘違いしてるわよ、と教えてあげたい•••だって、王女を隠さなければならない緊張の最中に、当の本人が変なことをしてしまったのだから••••何かすごくごめんなさいっ•••



ほどなく下からドタドタッと音がしたかと思うと、入口近くから

「エドゥ!お前、こんなボロボロでどうした••••。」と大声がした•••!! •••この声は確か王子の従者のラッセンだ。わが国の騎士団と一緒に来たのだろう••




「エドゥ•••? ? 」シルヴィオは、ラッセンが王子の従者であることを既に知っているから、今の言葉で、全身怪我の男性が王子であることに気づいた•••? 隣国の王子がわが国に訪問して全身怪我って、、これって一歩間違えば国際問題に発展しかねないのでは•••??




フェンリルが話を打ち切ろうと、、

「シルヴィオ、このことは他言無用に•••。エドゥのことは、責任を持って僕の屋敷まで送り届け、後できちんと説明するから•••。」と、歩き出した時、、、



シルヴィオが、恐る恐ると言うように、「フェンリル、、•••俺は今、嫌な予感しかしないのだが••••まさかその方は•••?」


王子のことだけでなく、私のことまで芋づる式にバレてしまったっ•••!!! どうしよう•••!!!

•••顔を上げようとしたら、カイルが「そのままで。」と耳元で囁く。こんな時なのに、色っぽい声に胸がドキドキしてしまう•••


カイルが私をしっかり抱え直し、階段のほうへと歩いていく「シルヴィオ、恩にきる。フェン、エドゥ、行くぞ。」有無を言わさぬ捨て台詞を残して••••


後方では、シルヴィオの部下たちが、次々と状況報告をしている。

「団長!地下に7名人質となっていた人たちが見つかりました!」

「団長、敵の身柄は全員確保しました!」

「団長!•••」



「分かった、分かった。カイル、フェンリル、お前らだから見逃すんだぞ。蒼の騎士がついているからこそ、だ。他の奴らなら大目玉だからっ! •••後で報告を•••!」と叫びながら、シルヴィオは、次々と団員たちにも指示を飛ばし始める•••。


◇◇◇



ウンディーネ国代々の神官が住んできた邸宅には、今、カイラス国王子とその従者が滞在中である。決して華美な造りではないが、至る所に使用されたクリスタル、広い庭園に湧く泉など、いつでも自然の美しさと光を感じることのできる設計で、客人をもてなしていた•••。


刻は真夜中過ぎ•••月明かりに照らされ琥珀色に輝く髪の、美しい顔立ちの青年が、泉のそばに立ち、この邸宅の中から出て来た人物に声をかける。

「フェン、2人とも寝てるか?」琥珀色の髪の隙間から、宝石のようなアンバーの瞳を覗かせた。


風が、漆黒の黒髪と共に片耳を飾る羽を揺らしていく•••

「ああ、全部飲みきってたから、よく寝てるはずだよ。それにしても•••フフッ•••エドゥアルト王子がカイルのライバルかあ•••。アーシャも罪作りだなあ。」碧の瞳を楽しそうに細め、にこやかに笑う。



「•••」

エドゥアルト王子••••姫さまが男装していた時から、随分気に入っていたようだった•••王子の姫さまへの想いは、単なる好奇心か•••? それとも•••


オレは、王子の従者ラッセンが馬車の中で、姫さまに言っていた言葉を思い出す•••

「いやあ、しっかし、騎士さん、女装姿かっわいいなあ。まつ毛もクルンッとしていて、もっちもちの柔らかそうな肌だもんなあ。男には見えない、見えない!エドゥがここまで必死になるのも分かるなあ。」


姫さまを、鎖から守ったことを見れば、王子の方はかなり本気なんだろうな•••


フェンリルは、姫さまが自分に惚れていたのを知っていたのに、ずっとオレと姫さまがくっつくのが良いと言っていた•••オレはフェンの言葉を本気にはしていなかった•••、 なぜなら、姫さまが毎日のようにフェンのことばかり追いかけていたから、、•••姫さまが幸せなら、それで良いと思ってた•••。でも•••最近、、•••自分の想いに歯止めがきかなくなってしまったみたいだ•••





•••それにしても•••と、ラッセンとか言うあの従者、、•••軽口ばかりたたいていたが、、•••従者なのに、ボロボロの王子を心配しなくてもいいのか•••???



考え事をしながらフェンの後に続いて歩いていくと、エドゥアルト王子の寝ている部屋の前に着いた•••



音を立てぬよう静かにドアを開ける•••。


「なっ!?」

薬湯に混ぜた睡眠薬で寝ているはずの王子は、窓の手すりに腰をかけ、長い足を組んで座って、ブラウンの瞳でこちらを見ていた•••血で鳶色に変色していた髪は、今は綺麗な銀髪に戻っている•••。


「俺の怪我を治すために来たのか?それなら明日の朝までに治せ。そうでないなら帰れ。」言いたいことだけを伝えると、王子は窓の外を眺める。


「薬湯は飲まれなかったのですか??しかも、なぜオレのことを?」何事もなかったように冷静な姿に、これ、オレたちが襲撃者だったら、1発であちらから仕留めに来そうだな、などと物騒なことを思う•••。


「あんな睡眠薬では効かん。•••お前のことは俺も確証はなかったが、わがカイラス国では、『徴』の話を知ってる者もわずかながら存在していたからな。」横目でチラリとこちらを見ただけで、『徴』自体にはあまり興味がなさそうだ•••多分王子にとっては、国を守る、だとか目的だけが大切で、そのための手段は何でも良いんだろう•••


フェンリルが一歩前に出て、「エドゥ、このことは秘密にしてください。」と釘をさすが、フェンも本気で心配しているわけではないと思う•••理由は良くわからないが、オレたちへの”悪意”は感じられない•••。



「他人に話す気など最初からない。アーシャ姫の蒼の騎士が『徴』なら、何より俺も安心だ。」口の端を引き上げ、かすかに微笑んだ顔は、美しかったが、何でここで姫さまの名が出てくる•••?! そしてあの人の名を口ずさんだエドゥアルト王子の瞳が、まるで愛しい人を慈しむような表情を見せていた•••





その横顔を見ながら、オレは思わずため息を吐きそうになる•••。


•••どうして、•••よりにもよって•••こんな一癖も二癖もありそうな奴に好かれたのかなあ•••うちの姫さまは•••


いったい、何をした•••???

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