32 金の魔力持ちは、苦労している、、、

コンッコンッ


「エドゥアルト王子殿下、お迎えに参りました。」


すぐに扉が開き、人懐っこそうな大柄の天然パーマの金髪の男性が現れた。この人は確か、、、


「ああ、アル、おはよう。いや〜エドゥがわざわざ呼び出したみたいで悪いね〜随分と気に入ったみたいで•••。」


エドゥアルト王子の従者だ!


「おい、ラッセン、冗談もほどほどにしろ」

部屋の奥から王子が歩いてきた。貴族が乗馬をするときのようなラフな格好をしている。ラフな格好のはずなんだけど、、何でこの人こんなにキラキラしてるの??昨晩1度めの同盟交渉が父上との間で行われ、おおむね同盟締結の方向性は一致したからか、初めて見た時よりその表情は随分明るい。


「俺としては男より女に興味をもって欲しかったんだがね。」

ラッセンの愚痴は聞き慣れているのか、王子はそのまま私のところにやって来て立ち止まる。


「お前一人ではないのか?それにそいつは•••? 」

カイルを見て、しばし言葉を失うように目を見開く。


「そういえばどこかで見たことあると思えば、あの時の色男か〜!ナイフで刺された傷はどうしたんだ?毒は??」

ラッセンも王子の隣で、オレンジの丸い瞳をさらに丸くしてカイルを見る。


カイルが私の隣に立ち、優雅に礼を尽くす。

「エドゥアルト王子、挨拶が遅れました。私は、アルの友人のカイルと言います。この度は貴殿から頂いた薬のお陰で、こうして生きながらえることができました。感謝いたします。刺された傷は幸い浅く、こうして服を着ていれば分かりませんので•••」

もちろん傷などすでにないが、カイルは愁傷に言う。


王子は納得したのかしていないのか、その表情からは読み取れない。


「礼は不要だ。オレは何もしていない•••まあ、どこかの国の姫君が少々暴れて、オレから薬を巻き上げたことならあるかもしれないが、、」


!!

•••エドゥアルト王子は面白そうに笑ってるけれど、ぜんっぜん笑えない•••隣にいるカイルからなんとも言えない微妙な視線が私に向けられる•••


私は話題を変えるべく、用意していた馬車へと案内しよ•••


「俺も一緒に行きたかったけど、友人の恋路を邪魔したくないからなあ。まあ、よろしく頼むよ。」


!?


この天然パーマのラッセンという人、頭の中もフワフワなんじゃないかしら••??


「ラッセン、面白がるな。お前は単に、国への報告の仕事が残っているだけだろ。」

王子も王子で、指摘するところはソコじゃないでしょっ••!! 恋路って何よ、恋路って•••!!


なんだか今はカイルの方を向きたくないわ•••いったい何をやらかした?という視線が飛んできている気がする•••


王子は、いつもはサラサラ流れるような銀髪を、今日は前髪を上げ固めて綺麗に整えている。

「お前ら、外ではオレのことを王子ではなく、エドゥと呼んでくれ。敬語もなんなら不要だ。今日は別に公務ではないからな。」


エドゥアルト王子とラッセンは、同盟交渉中の現在、正式な訪問とされることになった。とは言え、締結されていない以上、あまり王子の訪問はまだ公にはこちらもしたくない。


私は紋章も何もついていないシンプルな辻馬車を紹介する。

「わ、分かっ•••た•••? エドゥ、一応馬車は二台用意していたけれど、じゃあこちらのお忍び用の馬車の方へ乗ってくれ。」



最初に一番奥に王子が座り、私は彼の前に腰を下ろそうと乗り込んだ。

「アル、お前はオレの隣だ。」


いきなり王子が私の腕を引く。

腕を引っ込める間もなく、隣に引き寄せられ強引に座らされた•••


すかさずカイルが、王子に厳しく指摘し、金眼で睨む。

「エドゥ、アルは世間知らずなところがあります。お戯れはおやめ下さい。」


王子は長い足を組み、全く意に介さない。

「戯れなどではない。護衛なら少しでも近い方がいいだろう。言っておくが、俺はお前には護衛を頼んだ覚えはない。」



「まあオレも頼まれた覚えはないな。」



「•••」

何かこの二人、相性が悪いのかしら•••あまりの空気の悪さに居た堪れず話に割って入る。


「カイル、僕は大丈夫だから。それよりも出発が遅くなってしまう。」


カイルが、フゥーとため息をつき、私の前に座った。

「分かった。あんたが良いなら••。」


◇◇◇


「あれは何だ?」

馬車から外を眺めていたエドゥアルト王子が、私に振り返り尋ねる。


「•••?」

あれは何かしら?パンのようにも見えるけれど、、形が独特だわ•••城でもフェンリルの屋敷でも見たことがない•••カイルは知ってるかしら?


「あれは、街で人気のパイの包み焼きです。そのまま食べることができるので、力仕事をする男たちに人気です。中身は、スパイスで味付けしたシーフードとアーモンドクリームですね。」

カイルが淡々と答える。先ほどから香ばしく甘い匂いが漂っていたけど、アーモンドクリームの匂いだったのね!どんな味かしら•••思わず目が釘付けとなる•••



「フッ•••アルも随分お腹が空いてるようだ。俺の分も入れて3つ買って来てくれないか?」

エドゥアルト王子が、端正な顔を綻ばせ、上機嫌で話す。



!?•••私そんなにお腹空かせてるように見えた•••? 思わずお腹を押さえる。でも、食べてみたいかも•••?



カイルは、私とエドゥアルト王子を交互に見て、額に手を当て呆れた様子で答える。

「エドゥ、お望みでしたら、帰ってから作らせましょう。」


カイルのこの反応••••既視感があるわ•••カイルも若いのに苦労してるのね•••ごめんなさいっ、心の中でコッソリ謝る。


「一人で食べてもつまらんだろう。まさかウンディーネ国では、食べ物に毒を仕込んで売っているわけでもあるまいに。」



王子が譲らないのを見て、カイルは私を心配そうに見る。それはそうだ。これまで私は一度も街のバザールで調理されたものを、そのまま食べたことはないのだから•••でも、せっかく王子もこう言ってくれてるし、•••

「カイル、皆で食べよう。3つ買って来てくれ。」


カイルは諦めたように肩をすくめる。

「•••分かった•••。」


カイルが店先に並ぶと、振り返ってまで見ている女性もいる。庶民の服に偽装していても、目立つし美形なのは隠せないもの•••隣でフルーツを売っている若い女性はカイルを間近に見て頬まで染めている•••


「あいつはお前の何なんだ?」

窓の外を見ていた私に、突然エドゥアルト王子が話しかけてきた。振り返ると、睫毛が触れそうな近い距離で、こちらを見ている。


「えっ?何って、僕とカイルは•••友人。」

この人、距離感がおかしい•••! 私は男•••私は男•••


「恋人ではないのか?」

王子の切長のブラウンの瞳は、カイルを捉える。


「••ッそんなわけないだろ•••!! そっそもそも男同士だし•••」

恋人•••? カイルと•••? 一緒にいるのが当たり前すぎて、そんなこと考えたこともなかった••••っていうか、今、私は男の姿なんですけど、この王子、どういう恋愛感してるのかしら•••!!!


「それにしては、あいつのお前に対する•••」

カイルの私に対する、、何•••?


バンッ

突然、勢いよく馬車の扉が開く。


「エドゥ、アルに変なこと吹き込まないでください。•••こちらをどうぞ」

息を切らしたカイルが、エドゥアルト王子に、買ってきたものを押し付けるように渡す。



「これは、あんたには量が多いだろ?。」

そしてカイルは私の方を見ると、握り拳ゆうに二つ分はあろうかという大きな台形のパイ包みを2つに割った。その内の半分?いや、半分以上を私に渡す。


「こ、こんなに貰えないよ。僕そちらの小さな方でいい。」


「オレはお腹が空いてないから。」

そう言ってカイルは自分な手の中にあるソレにかぶりつき、さり気なく毒味をしてくれた。


えっ、そのままかぶりついて食べる•••の? 思わず王子を見ると、


「なんだ?オレのが欲しいならやるぞ。」

王子まで自分の分を割り、私に渡そうとしてきた。


「ち、違う!」

どれだけ食い意地がはってると思われてるの??


•••少しはしたないけど、今は男の姿だし、、•••それに、先ほどから焼きたてのパイ生地の香りがすっごく美味しそう•••!


薄いパイ生地にシーフードやアーモンドクリームがぎっしり詰まっている•••

パクッと一口口に含むと、スパイスの香りが広がり、パイ生地とアーモンドクリームのコクで、いくらでも食べれそうだ•••!

「美味しいっ!」

思わず笑顔になる。


2人ともすでに食べ終わっていたらしく、顔を上げたらカイルと目が合い、クスッと笑われた。


「お前、こんなところに付いてるぞ。」

いきなり横から手が伸びてきて、エドゥアルト王子に、口元を拭われる••

「あ、ありがとう」



「エドゥ、アルはいつもこうですから、どうぞ放っておいてください。」

•••カイルの中で、いったい私はどんなイメージなのかしら•••?




何とか食べ終えた私は、外を見る。


あれ•••!?


私は突然流れ込んでくる記憶に、今見ている光景から目が離せなかった•••

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