21 努力は、ある意味、報われた、、、、??

「カイルの肩の怪我は、順調に回復しているらしい。ただ、今は医師が治療中で面会はできないみたいだ。念のため、救護棟へはぼくが行く。何かあればすぐ君に連絡するよ。」


そう告げて、フェンリルは私の部屋から出ていった。


本当は私も今すぐ、カイルのそばに行きたい•••でも今私がここですべて投げ出してしまったら、カイルの想いが無駄になってしまう•••とりあえずカイルが無事生きていることに安心しよう•••今は何としても、父上とエドゥアルト王子の会談を成功させなければ•••


あまりにも多くのことが起こりすぎた•••

私はほぅッと息をつき、ベッドに腰を下ろす。


前世の記憶を思い出してから初めて、フェンリルと話した•••目を閉じ、彼との会話を思い出す•••


◇◇◇

エドゥアルト王子を、神官のハムルに頼んだ後、私は一人で馬を使い王城へ戻っていた•••



「アーシャ!」

馬を巧みに操り、身体に纏った薄紫の布をたなびかせ、フェンリルが追いかけてきた。


!?


「•••僕の••名は、ア、ルだ!」



「まだその変な遊び、続けるつもりかい?」


「•••人の目があるところでは•••」


「カイルはどうした?こんな状態の君を1人にして、カイルがいないなんて、何か緊急のことがあったんだろう?」



•••図星です•••


私はカイルが刺されたことをフェンリルに伝えた。


「ッ•••そうか•••じゃあ、僕は君を送り届けた後、カイルの件を騎士団に確認してこよう。」


◇◇◇

部屋に着くなり、フェンリルは私を椅子に座らせた。


「アーシャ、ほら、目を閉じて•••そう、そのまま•••」



「イタッ」


思わず目を開けると、フェンリルの空のようなターコイズブルーの瞳と目が合う。


「この薬は治りが早い分、少し刺激が強いからね。今はこれしか持ってないから•••少しだけ我慢できる?」


心配そうに、私の目を覗き込んで問いかける••• そしてその長い指を私の手に絡め、予備の薬をあげるよ、と私の手に握らせる•••どうして優しくするの•••?女性は勘違いするんだから•••!!と八つ当たりにも近い言葉を、寸前で止める。その代わり•••


「薬と言えば•••リリア、と言うすごーく可愛い女性が、近いうちに傷病薬としてハチミツをもらいに神殿に訪れるはずだから、フェンリル、よろしくね•••」


私ったらなんて子どもっぽくムキになってるのかしら•••なんだか胸が痛い•••


そんな私に、フェンリルは余裕に見える笑みを返す。


「可愛い、という情報は今必要かい?フフッ•••」


•••美男美女で、やっぱりフェンリルとリリアはすごくお似合いだ•••でも、フェンリルのルートが今ひとつ思い出せない•••エドゥアルト王子が、城に幽閉されていない時点で、ゲームの流れとは相当変わっているはずだけれど•••


リリア•••?あっ、そうだ!と、私はリリアの件があってから、考えていたことをフェンリルに相談する。


「もし•••できたらだけど•••そういった軽傷を負った人たちのために、これからは、城からハチミツや常備薬を定期的に神殿に送ることができないかしら•••?」


どうかしら?と、胸の前でギュッと手を握り、フェンリルの反応を伺う。わが国でも病院のような施設はあるけれど、街の人はよほど酷い怪我や病気でなければ行かない。代わりに、各家庭での薬草などを使用した薬や近所でそういうことに長けてる人のところに集まり、治療してもらうことが一般的だ。だから、神殿がそういった場所の一端を担えればいいなと思って言ってみたけれど•••迷惑???


突然、今にも触れそうな距離まで、彼の顔が近づく。


「アーシャ、何か君、少し雰囲気変わった?」


!?



「そ•••そんなこと•••ない••••わ•••!!た、、た••ぶん•••騎士の格好をしているからよ•••!!」


気まずさに、フェンリルの顔をまともに見ることができない•••!! でも、彼の方はその答えにはあまり頓着するようでもなく、面白がるように話を続ける。


「そうかい?まあ、君がそう言うならそういうことにしておこう。でも、神殿の一画に、ハチミツなどを常備しておくと言うのは、良いアイデアだと思うよ。神殿に面した庭園にある離れは、今使われていないから場所もあるしね。」



思わぬ肯定の言葉に、嬉しくてついフェンリルの方に顔を向ける。


!!


唇が触れ合うほどの近さに、顔が熱くなってしまう•••し、、心臓に悪い•••しかも、フェンリルはとびきりの優しい笑みで、私を見てたからなおさらだ•••!!!


いかにも神秘的な美少年、といった雰囲気のフェンリルが笑うと、破壊力があり過ぎる•••彼が動くたび、艶のある黒髪と一緒に、彼の片耳を飾る羽も揺れて、つい目が惹き寄せられてしまう•••


•••そっか、、••••ゲームの中のアーシャは、とんでもないことばかりしていたけれど、フェンリルを想う気持ちは純粋だった•••何年もフェンリルの馬術や剣の稽古に押しかけ、彼に認めて欲しくて皆の反対を押し切り、無理やり自分も稽古に参加させてもらっていた??ように、努力?の方向はかなり斜め上なことしてたけど•••!!!


なんだか•••すごく健気だわ••••思わず以前の自分に苦笑いする•••でも•••その努力は、今回別の方向で!?報われたから良しとしよう•••!!


今は明日の準備をしなければ!!カイルには、フェンリルがついていてくれる。何かあれば私に連絡が来るはずだ。私はベッドから立ち上がると、ベルを鳴らし侍女を呼んだ。



その時、私は知らなかったのだ•••カイルの肩の傷が回復に向かっているという言葉に安心して、より深刻な事態がカイルの身に起きていたということに•••

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