17 濡れた獣
今度こそ•••私は私のできることを!!!
外に出る。耳を澄ますと、街外れの森に近いこの酒場には、人のざわめきと共に、フクロウの鳴き声が聞こえて来る。
「ヒヒーンッ」
突然、馬の暴れる鳴き声が耳を裂いた!!
私とカイルの乗ってきた馬だ!!
駆けつけると、茶の馬の背の上に、月の光の中でキラキラと煌めく、美しい銀の髪を持つエドゥアルト王子がいた。と、もう1人、皮のフードを被った男がまさに今、手綱を握り、馬に乗ろうとしている!!
そうはさせない!
タンッと地面を蹴り跳び上がる。
「ちょっとごめん。」
空中で回転し着地する時、男の背中を踏み台にし、そのままバランスをとりながら馬の背に乗る。
「なッ•••」
目を丸くし口をポカンと開けて、金髪の男がこちらを凝視する。
一方、エドゥアルト王子は、そのまま絵画になりそうな乗馬姿で、すでに馬の腹を蹴り走り出している。
「ラッセン、先に行くぞ!例の場所で落ち合おう」
「待って!」
違う!話をしたいだけ!捕まえる気はない!
馬を走らせながら声を上げるけれど、先を走る王子が聞くそぶりはない•••
それにしても•••あのメガネの男•••
ゲームの設定を思い出し、ゾッとして身震いする。私は勘違いをしていた•••リリアを人質に取った男が、手に持った爆弾を投げるわけはなかったのだ!
•••だってあの場には、その男の仲間が一人•••人質のふりをして王子のそばにずっと!! 身を潜めていたのだから•••リリアを人質に取った男ではなく••••あのメガネの男が、最終的にあの酒場を爆破したのだ!
得体の知れない敵は、仲間のうちの誰かが、万が一しくじったとしても、必ず王子をわが国に捕らえさせる、、それができなければ王子を殺す、、そこに至るまで何重にも罠を張り巡らせていたのだ!!
ゲームでは、リリアを攫った男はすぐに騎士達に捕まり、リリアは無事保護され聖女となった。だが、酒場にいた客は•••エドゥアルト王子以外全員死んでいた•••そしてこれが契機となり、戦が始まる•••私がもっとエドゥアルト王子の話を聞いていたら何かが変わっていたのかしら•••
馬を走らせ、声を張り上げながらも、そんな思いが否応もなく胸に湧き起こる••私の言うことを聞こうともしないエドゥアルト王子は、馬を器用に扱い森の中へと入っていく。
!?
この先は!?
「この先に行ってはいけない!あなたを捕まえる気はない!話を聞くんだ!」
これほど声を張り上げたことが、かつてあったかしら?と思うほど精一杯喉を張る。
「なぜオレを追う?あいにく、今、お前に捕まる気はない!」
傲岸不遜な笑みを浮かべ、口の端をわずかに上げ王子が言い放つ。
こ、の、、、分からずや!!本当に傲慢な人!!
「危ない、と言ってるでしょう!」
私は馬の鞍に片足をかけ、王子の乗る茶色の馬に視線を定めた。馬のスピードが一瞬緩んだ時、今だ!と王子の背をめがけて跳んだ。
「止まれ!!」
!?
遅かった!! 王子の乗った馬が崖から落下するのと、私が彼のもとに飛び移るのはほぼ同時だった!!
王子の身体が宙に浮いた時、なんとか王子を助けようとその身体に手を伸ばす!!王子の腕を指に掴みかけたその瞬間、なぜか王子がもう片方の手で、私の身体を自身の胸に引き寄せた。そしてそのまま私たちは転がるように崖下へと落ちていった••••
何かにぶつかるたび衝撃が体を貫く。王子の腕ががっしりと私の身体を包み込み、その衝撃の波を幾分和らげてくれる。
あっという間に地面に叩きつけられるように落ちた私たちは、絡み合ったまま何度か転がりその動きを止めた。
◇◇◇
あのまま馬が猛スピードで駆けたままだったら、危なかったかもしれない•••崖下に王子に庇われるようにして落下した私は、先ほどの衝撃を思い出し震えた。それほど高さのない崖で助かった•••でも、、
視界に銀色がちらつく。腕を私の背中に絡めたまま、エドゥアルト王子のブラウンの鋭い視線が、ジッと私を見つめていた。
!?
「は、放せ!」
胸を押し返し立ち上がろうとすると、スルリと腕は解けた。
エドゥアルト王子は、近くにあった少し大きめの岩に腰掛ける。長い足を組み、こちらを見据える姿は絵画のように美しい。
「濡れた服は脱いで干しておけ。」
落下した場所には、小さな水溜まりがあった。土がぬかるんでいて柔らかかったこともあり、衝撃が抑えられたのだ•••ただ、服が濡れて身体にぴっちりとはりつくようにまとわりついて気持ち悪い•••
王子が私を庇うように落下したおかげで、ひどいケガはしていない。
「先ほどは•••助けてくれてありがとう•••あなたは大丈夫か?」
「ああ、受け身を取ったからな•••まったく、、随分勇ましい騎士殿だ。それに借りを返しただけだ。お前にも助けられた。」
王子は立ち上がると、自らの上着のボタンに手をかけ、脱ぎ始めた。はだけたシャツから、先ほど、濡れた布越しに感じた、見かけの割にがっしりとした筋肉があらわれる。「銀の野獣」と言われるだけあり、よほど鍛えているのだろう。
「ここならよく乾くだろう。」
顎をクイツと上げ、私にも脱げと促すような動作をする王子は、先ほどまでの恐ろしさはあまり感じさせない。
私も一刻も早く、水に濡れた服を着替えたい!でも、さすがに今脱ぐわけにはいかない•••
「僕•••は•••遠慮する•••」
心を見透かすような鋭いブラウンの視線に耐えられず、目を逸らす。途端に視界が陰で覆われた。顔を上げると半裸に近いエドゥアルト王子が、私を見下ろすように距離を詰めて立っている。
「お前、何者だ?」
「お前ではない。アル、だ!」
「名前を聞いているのではない。なぜオレを追いかけた?」
ち、近い!!体温が直に伝わるような距離に、一歩後ろに後ずさ•••
•••ろうとした私の背中に、また彼の腕が回り込んだ••••
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