14 騎士は舞う
私は、「わたし」をもう一度だけ、信じてみよう••••
「カイル、行こう!」
アーシャの声に、カイルの気配が研ぎ澄まされる。
少しの静寂。
カイルの右手から1本のナイフが放たれると同時に、私はヒロインを拘束する男に向かって駆け出した。
ナイフの鋭い切っ先が、男の右肩に刺さる。
「ヴァッ」
男が悲鳴をあげ、その手から爆弾が落ちた。
◇◇◇◇
男に拘束されていたヒロイン、リリアは、その次に来るであろう爆撃を覚悟し、目をつぶった。
だが、その次に来たのは、爆破の衝撃ではなく、誰かの暖かい腕の中だった。
◇◇◇
カイルの放ったナイフは2本。
1本は男の右肩を刺し、もう1本は、爆弾の取っ手の輪のまさにその中心を貫いた!
壁には、ナイフにぶら下がりユラユラと不安定に揺れる爆弾。
その間、アーシャは床を蹴り、跳ね上がり、男が気づく間も無くこの男の間合いに入っていた。
アーシャは、剣で思いっきり男の足を切り付けると、バランスを崩した男の手からリリアをその片腕に受け止める。
そのまま男のみぞおちに、鋭い蹴りを食らわせると、男は向かいのテーブルの上に吹っ飛んだ。
◇◇◇
グラスのガシャンガシャンと割れる物凄い音に、リリアは、恐る恐る目を開ける。
すると、王子様のような綺麗な顔をした騎士が、自分を優しく抱き止めているのが分かった。
リリアは、青のマントを纏った騎士が、自分を片手にかばいながら、襲いかかってくる敵を、1人また1人と確実に倒していく様を見ていた。
まるでここは、どこかの舞踏会だろうか•••
そんな錯覚を覚えるほど、優雅に、そして華やかに騎士は剣を振る。
騎士の動きに合わせゆらゆらと揺れる薄桃色の髪は、まるで虹のように跳ねている。
時折覗かせる同じ薄桃色に染まった瞳は、凛々しく強い光を宿していた。
「これは本当に現実?それとも夢なのかしら?」
リリアは、ただただ目前の光景を追うだけで精一杯だった、、、
騎士は、目前の敵を見据えながらリリアに囁(ささや)く。
「怖かったでしょう。もう大丈夫。僕に任せて。」
耳に心地良い、優しい声音が響いた。
騎士が動くたび、優しく自分を抱き抱える片腕に、わずかに力が入り、自分の腰からお腹に騎士の手の感触が伝わる。
気恥ずかしさを逸らすように、リリアが店の奥を見ると、異国の風貌のような褐色肌の男性が、縄で縛られた客たちを解放しようとしていた。
そしてその傍らには、血を流して呻いていたり、気を失い倒れている男たち。
騎士の服装は着ていないけれど、あんなに強いのだからきっと彼も騎士なのだろうか? とリリアは思った。
「どうぞこちらへ。」
ふと気づくと、騎士がまるで舞踏会のお誘いのように、手を優雅な仕草で自分に差し出している。
そして騎士は、自らが羽織っていた青の光沢を放つマントをリリアの肩に被せてくれ、安全な場所まで誘導してくれた。
私の着ているものがボロボロなのを気にかけてくださったんだわ。
胸がドキドキと音を立てているのは、先ほどの恐怖のせいなのか、今のこの状況に対してなのか、リリアには判断がつかなかった。
「少し擦り傷ができて血が出てるね。神官にハチミツを用意しておくように言っておくから、落ち着いたら神殿に行って塗ってもらうといい。他にも誰か怪我してる人がいたら、応急処置くらいならできるだろうから一緒に連れて行くといい。」
花が咲いたような笑顔で騎士が、リリアに言った。
ハチミツはこの国では切り傷などへの薬として使用されている。贅沢品とまではいかないが、庶民の家に常備できるほど普及しているわけでもない。
騎士の心遣いに、リリアは頬が上気するのを感じながら、頷くのが精一杯だった。
普段、活発であまり物怖じしないリリアには珍しい反応だったのだが、、
騎士は、先ほどの褐色肌の男性と一緒に、縄で縛られた人々を解放している。
この場にそぐわない品のある振る舞いに、店内の者は皆自然と、騎士のその一挙一動に目を奪われた。
縄をほどいている時、騎士はあまり器用でないのか、むしろ先ほどの戦闘時より悪戦苦闘しているようにリリアには見えた。
その度に褐色肌の男性が、騎士のところに来て手を貸す。
「カイル」
とその男性は呼ばれていた。
騎士が1人を解放し立ち上がった時、ホッとしたのだろうか。
グラついた騎士を、すかさずカイルと呼ばれていた男性が支え、騎士の額がその男性の胸の中にすっぽりと隠れた。
「ごめん、ありがとう。」
「あとはオレがやりますから、少し休んでいてください。」
そんなやり取りが耳に入る。
どうしてかしら、、、何か見てはいけないものを見てしまったような気分だわ、、、
私ったら何を考えているの!
リリアは朱がさした頬の熱を冷ますように、手のひらで頬を覆い隠した。
安全な場所に腰を下ろし、やっと一息ついたリリアは呟く。
「騎士さま•••」
騎士の腕のぬくもりを思い出すたび、リリアの胸の鼓動はなぜか跳ねたのだった。
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