【完結】蒼き騎士と男装姫〜国を救いたい悪役令嬢は、騎士姿で真実の愛を見つけることができますか??

来海ありさ

1 最低姫、男装して街に行く

「ねえ、カイル、私のサイズに合う騎士の服装一式を準備して欲しいの。もちろんカツラなども必要ね。

明日それを着て町に行きたいの」


今年で16歳になるウンディーネ国のアーシャ姫は突然そう言ったかと思うと、従者のカイルの前に立った。



陽の光に照らされ、色素の薄い薄桃色のロングヘアがキラキラときらめく。

マゼンタ色のシャンリゼの花が一輪、腰まであるロングヘアを華やかに彩る。


まばたきするたびに男心を惑わすように揺れる長い睫毛。

バラのようなぶっくりとした唇、透明感ある素肌に、華奢でスラリと伸びた手足。


まとう空気はすでに女性らしく、その美しい髪と同じ色をした大きな瞳は神秘的ですらある。


その見た目は大層な美少女であるが、だが中身は甘やかされ育ったわがまま姫。

これまで何人もの侍女や従者が些細なことでクビになってきた。


従者のカイルは、なぜかこのわがまま姫のお気に入りでありかつその有能さゆえクビにならず唯一この姫に仕えてきたのである。



「はああ?!あんた、何言ってんの?••••••いえ、姫さま、オレの聞き間違いでしょうか。今、騎士の服装と聞こえましたが、それはとても王女殿下が手になさるようなものではありません」


なぜ突然男装?

そしてなぜ街に行く?

いったい何を考えている?


またいつもの気まぐれかと思いつつも、アーシャの真意がわからずカイルは思わず尋ね、そして最後にボソッと呟く。


「無理に決まってるだろ、そんなの。」


あ、いけない。いつもだったら有無を言わさず命令してたからついその調子で言ってしまったわ。



「もちろん無理にとは言わないわ。王女としての命令ではないもの。

ただ、どうしても必要なことなの。

あなたにしか頼めないわ。

あなたなら父上や母上にも秘密にしてくれるでしょう?

そしてできればカイルも一緒についてきて欲しい。


そうね、、

お願い、なのかしら?」



「お願い?」


カイルは努めて落ち着いた振る舞いを崩さずにいたが、その表情は狐に包まれたような顔をしていた。


彼の美しい金の瞳が困惑し揺らめく。



当たり前だ。


男装して街に出るというだけでもおかしいのに、さらには、

「お願い」などとこれまでなら絶対言わなかったような言葉だ。



突然こんなこと頼んでも動揺するだけだわ。


それにしても、、、



と私はカイルの顔を改めて見る。


カイルって口は悪いけど、どんな表情をしていても綺麗な顔なのよね。


思わず目の前の従者を見つめる。


こげ茶色の髪に褐色肌の彼は、そのエキゾチックな雰囲気も相まって女性からのアプローチも多いと聞く。


その全てをうまくかわしているためか一部には女嫌いの噂も立っている。


従者とは言え、貴族であり実力で言えばいずれ宰相になるのではと噂されていた。



実際、彼の頭脳は国のトップを争うとも言われるほどだ。


従者という地位は、彼がまだ私と同じ16才という若さもあり、政治的な事柄や王族について学ぶためにちょうど良いらしい。


私の身の回りの世話のほとんどは、実際は、侍女たちがやってくれている。



「ええ、お願い、よ。とりあえず、騎士の服装一式だけはどうしても今日中に準備してほしいの」


ここはこれで押し切るしかない。


だって、昨日突然自分が日本人だった前世を思い出し、ここはゲームの世界で、他にもいろいろ思い出しました、


なんて言っても信じてもらえるはずもないもの。

後で何かうまい言い訳を考えなければ。


必死に頼んだのが良かったのか、それとも追求は後回しにしてくれたのだろうか、


カイルは納得していないようだったが、服装は準備してくれるようだ。


「あぁ〜もう〜本当にもう〜なんでいつもこんな突拍子もないこと言うかなあ••••ハァ•••••分かりましたよ••••あんたのわがままにつきあいます。服装は準備しましょう。後ほどお持ちします。」


一種、諦めにも似た空気を飛ばされたが、ここは無視させて欲しい。



カイルが私の部屋から出て行こうとする直前、急に私の方に振り返り


「姫さまの今日の態度や言動は、昨日、王の間の青の石の色が失われたことと関係しているんじゃないか?」


カイルの金の瞳が鋭く光った。




とりあえず話は済んだと油断していた!!


突然のカイルからの質問に、私の顔がひきつったのが分かる。

何も言い訳が思いつかない!


多分私の表情で、カイルは何か勘づいたのだろう。


「青の石の変化は、国の危機を表す•••••その事情を姫さまは知ってるんだな?」


話さないと協力はしない、


と暗に告げてカイルは出て行った。

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