143.説明会

 目が泳いでいる。自分のレベルがバレていることに焦っているようだ。おそらくレベルのさばを読んで、強く見せるつもりだったのだろう。


「半殺しだ。殺す気なら殺せたが、俺は犯罪者じゃない。反対に警察の協力者だ。お前如きが束になったところで、俺に怪我を負わせることなんてできない。わかるか? わかったら失せろ」


 コクコクと頷く。


「ほかの奴らにも言っておく、礼儀もなく舐めた口を聞く奴は物理的に黙らす。それが嫌なら、今出て行け」


 そう言うと、さっき俺を睨んでいた奴ら四人が、こいつと一緒に出て行った。ずっと俺を睨んだまま出て行った。何しに来たんだ?


 これで五人落脱、残り十八人。


「では、続きを始めよう。まず、ホルダーというものがどういうものか説明する。水島顧問、頼む」


「お、俺か!?」


 長年ホルダーをやってきて、自衛隊の部隊を率いてきていたんだ、これ以上の適任者はいない、任せるに決まっている。


 こいつらはちゃんと説明なんてされていないだろうからな。まずは基本的なことを説明する必要がある。


 水島顧問の話が始まると、顔を青くする者も出てくる。水島顧問は最後に、自分は自衛隊でホルダーとして化生モンスターと命を懸けて戦ってきたことも話したからだ


「さて、聞いてもらったとおり、アウトサイダーというのはフリーランスのすべて自己責任だが、束縛されず自由に動けるということだ。組織に入れば一回当たりの収入は多少減るがバックアップもあり、なにより安定した収入と福利厚生を受けることができる。福利厚生の意味は分かるな?」


 半分くらいが自信なさげ、そしてもう半分がわからんって顔だな。面倒だが、ちゃんと説明しておいたほうがよさそうだ。


「……というわけで、組織に入ったほうが良いように感じるが、組織に入るということはそれなりの制約があるってことだ」


 この辺に関しては月山さんと水島顧問と話をして決めている。


「組織に入るということは、その組織の秘匿していることも知るということだ。なので、一度組織に入ればそう簡単に辞めることができない」


「辞めたくなったらどうすればいいんですか?」


 当然の質問だな。


「ホルダーを辞めてもらう。簡単に言えば、ホルダーの設定から能力の消去を選択してもらう。それでホルダーの能力がすべて使えなくなる」


 自分の意思でホルダーを辞めるってことだ。水島顧問がこれに当たる。


「それは横暴ではないのですか?」


 女子から声が上がった。


「ホルダーを雇うということは、それだけ組織としてもリスクを負うということだ。内部情報のことだけではない。ホルダーが行ったすべての行為を組織が責任を持たなければならない」


 これはホルダー組織特有のことだろう。一般の会社がそこまで面倒をみることはないからな。


「ホルダーの能力は簡単に犯罪を犯すことができる。その誘惑に耐えられない者も多くいる。ダークホルダーという奴らだ。さっきの五人は間違いなくダークホルダーへ落ちるだろう」


「ダ、ダークホルダーになると、ど、どうなるんだ?」


 ヤンキー君の一人が聞いてくる。気になるわな。


「バレれば消されるだろうな。言っとくがホルダーに法などというものはない。もちろん、裁判なんてないからな」


 あるのは善か悪かだ。悪に手を染めたらそれで終わりだ。


「さて、ここまで話を聞いてホルダーを主として生活していきたいと思っている者は挙手してくれ」


 十五人が手を上げた。手を上げなかった三人に話を聞く。ヤンキー君一人に、普通の男女二人だ。


「君たちはどうしたい?」


「私はなりたい職業があるのでそちらを本業にしたいです」


 女子が答えた。残りの二人も同じ考えのようだ。


「そうか、まあそれも人それぞれだからな。帰っていいぞ」


 残念だが仕方がない。今回は縁がなかったということだ。


「バ、バイトじゃ駄目なんですか?」


「無理だな。依頼を斡旋や倒した後の申請することはできる。だが、組織としてバイトを雇うメリットがない。本業にしたホルダーとではレベルに差が出て役に立たないからだ」


「じゃあ、俺たちはどうすればいいんだ?」


「だから、それがアウトサイダーだろう? 自由にやればいい」


「「「……」」」


 ちなみにアウトサイダーを管轄しているSHAAシャアズのことは、水島顧問がちゃんと説明している。


「まあ、相談くらいは乗ってやるから、何かあれば連絡をよこせ」


 ホルダーを続けるかは本人次第。命を懸けての化生モンスター討伐だからな。無理に続けろとは言わない。


 今日のところはお帰り願おう。


 三人がトボトボと帰っていった。残り十五人だ。


 この中からクレシェンテに入りたいというのは何人出るかな?








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る