73.組織立ち上げについて


 瑞葵父の疑問はもっともだ。どう考えてもおかしい。


「しょ、所長は本日大変忙しく、代わりにわたくしめが参りました次第でして……」


「ほう。君たちの支援者とゴルフに行くのが忙しいというのか。舐められてものだな、私も。どうやら君の伯父の剛田君との付き合いも考えねばならないな」


「お、お待ちください! 伯父は関係ありません!」


「今日、ゴルフに行っている支援者に、剛田君がいることは調べがついているのだよ」


「……」


 さすが表裏に力を持つ権力者。すべては掌の上ってことか。


 その後、何かが投げられ、ぱさっと落ちる音がする。


「こんな端金……くだらん。そうそう、無知な君に教えておこう。この件は沢木管理官とは既に話がついている」


 沢木管理官? 新しい名前が出てきたな。管理官というくらいだから偉い人なんだろうな。管理官というと警察関係で課長クラスだったけ?


「そ、そんな……」


「さあ、帰りたまえ。お客様のお帰りだ! さっさと玄関にご案内しろ!」


 どたばたと足音がして何かが引きずられていく音がする。黒服さんたちに剛田が排除されたのだろう。


 憐れ、とは思わないな。


 逆にざまぁだ。


「お前たち、入りなさい」


 瑞葵父のいる隣の部屋に移動。


「まさかあんな小物が来るなんて驚きですわ」


「情報収集能力も低いようだ。組織としてどうなんだ?」


 瑞葵と麗華にボロクソに言われているな。俺もそう思っているけど。


 お手伝いさんが来てお茶の用意をしてくれる。茶菓子は俺が買ってきたものではなく羊羹だ。俺の買ってきたお菓子はお手伝いさんや黒服さんたちのおやつになるのだろうな。


SHAAシャアズというのはホルダー管理対策室の下部組織らしいが、あまり期待されている組織ではないようだ。どちらかといえば、縁故採用や天下りの受け皿といった感じのようだな」


 おいおい、大丈夫なのかそれ? それと、ホルダー管理対策室ってなんだ?


「失礼、ホルダー管理対策室とは?」


「総理直下の化生モンスターに対応する部署だ。今回の件はそこの室長である沢木管理官と話をしている」


 総理直下とはいえ、ホルダー管理対策室が実質の化生モンスターに対応するトップ。SHAAシャアズとは別に警察、自衛隊にホルダー管理対策室が管理している部隊があるそうだ。


 SHAAシャアズは力の弱い組織や、国が管理していないホルダーとの窓口的な役割をしているらしい。


 しかし、ホルダー管理対策室のトップである沢木管理官と瑞葵父は既に話をしている。それを知らないSHAAシャアズって駄目駄目じゃね?


「沢木管理官からは大変遺憾であるとともに、組織立ち上げに協力するとの言質を頂いている」


 そのおかげで元上位ホルダーの顧問斡旋に力を貸してくれるそうだ。体のいい紐付きを寄こすってことじゃないのか? まあ、そんなこと瑞葵父もわかってのことだろう。お試しってところか。


「沢木管理官が言うには、ホルダーの絶対数が足りていないそうだ。新興とはいえ、新たなホルダーが増えることは喜ばしいことなのだそうだ」


 絶対数が足りない? 少なくとも七千人はいると思われるのにか? それほどに化生モンスターが多いのか、それとも適合率が低くて役に立たないのか? わからん。


「それでお父様、組織の立ち上げはどうなさるのですか?」


「早急に新宿にオフィスを構える。雪乃製薬とも近く連携が取りやすいうえ、都の中心だけに動きもとりやすかろう。そしてホルダー管理対策室から直接依頼を受けられることも決まっている」


 この間やった七等呪位の討伐依頼がメインらしい。時間との勝負なのでいくらでも依頼はあるらしい。というか、受けてほしいと頼まれたそうだ。


 依頼料は七等呪位討伐で五百万、依頼なしで討伐しても二百万。八等呪位は依頼ありで二百万、依頼なしで八十万。九等呪位、十等呪位に関しては討伐毎に九等呪位は三十万、十等呪位は十万もらえる。


 SHAAシャアズを通すと五百万が三百万になる。四割を中間マージンとして持っていっていたようだ。まあ、ゼネコンも同じなので取りすぎと言えないところが悔しい。このふざけた社会構造をどうにかしないと、儲けるのは元受けだけ。潰れちまえ!


 それはさておき、化生モンスターの討伐した後の確認方法は、遭遇場所の住所と時間、ドロップアイテムの提出で確認するみたいだ。ドロップアイテムは後日ちゃんと返却してくれるそうだ。


 くっ、これを知っていれば、苦労せず稼げていたはずなのに……。瑞葵と麗華はまったく関心がないようだ。これだから金に苦労のしたことがないやつらは……。


「組織のトップは風速君かね? それとも誰かを据えるか?」


「いえ、組織のトップは麗華にお願いしたいと思っている」


「私か?」


「性格や能力的にも麗華がトップのほうがいいだろう。それには上手くいけば来年卒業だろう? 瑞葵は法科大学院に行くだろうし、俺も卒業するまで二年以上ある。妥当だと思うが?」


 安定して生活できるなら無理に大学を卒業することもないが、親に無理言って入れてもらった手前、卒業はしておきたい。


「いいだろう。麗華をトップとして登録することにしよう。静依姉さんにも面目が立つしな。実務をサポートする者はつけるから安心したまえ」


「わかりました。謹んでお受けいたします」


 ということで、組織が立ち上がるまでは化生モンスター狩はお休みとなってしまった。


 組織が立ち上がってから化生モンスターを狩ったほうが実績になるからだ。瑞葵父はホルダー管理対策室とは上手くやっていきたいらしい。


 俺はあまり期待していない。


 だとしても、利用できるなら利用できる限りは上手く付き合っていきたいとは思っている。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る