かけだしらいたー
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-Prologue-
……夢の中。神秘的な樹木に囲まれ、僕は目を覚ます。
「……知らない景色」
——異世界にいるような風景の一ページをぼんやりと眺める。その瞬間、切り取られた風景から視界は枠を外れ、広大な世界が広がった——
先が見えない道を、僕はもう、怖いとは思わない。
「……知らない天井だ」
「知らないわけないでしょ?ほら、体調は」
返答ができないほど頭が働かない。働かないのでそのままの勢いで思わず「体調は万全、いつでも異世界に行ける」と言ってしまっても、しょうがない。
……しょうがないで済まずに揚げ足を取られるのは言うまでもないんだけども。まともに聞いていてもただただストレスしかたまらないので、今の状況を整理しよう。
ここは保健室で、確か僕は貧血で運ばれたのか? あぁ、確かに頭がまだくらくらする。きっとその原因は貧血というよりも目の前で延々と話している
「……ほんとにとぼけてるの?それとも貧血で一回あの世まで行っちゃったかー」
「……」
「あの世に行きたいほど実は授業が楽しみじゃないのかな、真面目く~ん?」
「……」
「それとも、もっと私と話したいとか~?」
「うるさい」
いい加減イラっと来たのでそう遮ると、彼女は口を抑えながらさも嬉しそうに言った。
「うっわ、女子に向かって逆ギレするとか男としてないわー」
逆ギレした記憶はない。
「逆ギレって帆夏が勝手に」
「へー。とりあえず頭冷やせ馬鹿」
子供をなだめるかのように言われ、怒りも何もかも通り越してぽかんとしていると、彼女は片手に持っていたスマホを差し出した。この学校ではスマホの持ち込みは禁止だったような気がするが彼女のことだ、何か理由があるのだろう。
スマホを受け取って中身を見てみると、一つの動画があった。爆睡している、僕。
「…こうやって人の失態を我が物にしてるんだろうね。肖像権侵害で起訴してあげようか?」
「酷っ!すぐ消すから大丈夫だよー」
「じゃあ今、僕の前で消して?」
「それはできないお約束ってやつかな~」
「あぁそう。じゃあスマホを無断で持ち込んでることをチクっておくね」
そう言って保健室を出ていくふりをすると、帆夏は大慌てで謝罪した。彼女のことだ、案の定持ち込みの正当な理由はなかったようだ。
その謝罪を甘んじて受け入れ、彼女が動画を消す瞬間を見届ける。まるでこうしていると上下関係のように思えるが、半年前はこうじゃなかった。今でやっと対等で、こんな会話を交わせるほど僕は強くなかった。
ほんと、この半年で成長できた。そうだ、僕の伝記でも書こうかな?隣にいる彼女が面白すぎて売れっ子作家になれるかも。
「そういえば、どんな夢を見たの?異世界とか言ってたけど」
「……話そうとしたら忘れたよ」
「あははっ、何それ」
この半年は僕の人生の中で一番濃かった時期だ。断言できる。
文藝部に入って僕の中途半端な進む道は確実に定まっていった。
「……そういえば、最近は夢日記、つけてるの?」
「いや、つけてないよ」
「あの時は、凪は文藝部入ってなかったよな~」
「……そうだね。」
思えば半年前、まだ僕が文藝部とは無縁だった頃——
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