第7話 オーバーキル!

 よもや表でそんな事になっているとは露知らず、俺たちはモンスター相手に快進撃を繰り広げていた。



「洗浄目潰し!」


「トドメェ!」



 戦術はこうだ。

 勝手に騒いで注意を惹きつける要石が囮になり、さらに組みつかれた時の対抗手段でスキル【洗浄】が手のひらサイズで効果が出るんなら拳を握ったり目潰ししても効果が出るんじゃね? 

 と提案して試したらバッチリ効果があった。


 その隙をついてバックアタックで俺はアイアンボックスを担いで殴る。

 あとは勝手に宝箱が開いてさまざまな状態異常やダメージを与えて討伐と言うことをかれこれ複数回繰り返している。


 そして4回目のレベルアップでようやく手に入れた三つ目のスキル。

 【+3】だ。

 要石は洗浄を掌から離して使えるようになったと喜んでいる。

 名前は【洗浄Ⅲ】となんとも味気ない。俺のも人のことは言えんが。



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 飯狗頼忠

 レベル:5

 称号 :ボックススイングマン

 筋力:7

 知識:6

 耐久:6

 精神:6

 器用:9

 敏捷:5

 幸運:500

<スキル>

【+1】発動確率50%×【幸運】補正

【+2】発動確率25%×【幸運】補正

【+3】発動確率10%×【幸運】補正

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<装備>

 アイアンボックス×4

 シルバーボックス

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 相変わらず幸運以外のステータスが死んでるが、それは別にどうでもいい。最初から当てにしてないしな。

 それよりも見てくれよ、こいつの艶やかな光沢を。

 俺が新しく手に入れた装備、シルバーボックス君だ。



「お、飯狗。それって銀箱ってやつじゃねーの。早速開けようぜ?」



 宝箱のグレードは大きく分けて4つ。

 木箱、鉄箱、銀箱、金箱だ。

 トラップが一切ない木箱と違い、鉄箱から凶悪なトラップが仕掛けられている。こいつを安全に開きたければ、ダンジョン内のどこかで拾える専用の鍵が必要になってくるのだ。

 鉄には鉄の、銀には銀の。金には金の鍵がある。


 ただ、世の中には虹色に輝く鍵があり、それは全ての宝箱を開けうる手段と言われていた。

 それ以外はトラップ満載の危険な箱と思って間違いない。

 多くのモンスターを屠ってきた宝箱だからこそ、俺も命が惜しいのだ。



「シャラップ。これは俺の新しい武器だ。そもそも俺のスキルは安全が確保されてからようやく効果が現れる。トラップを防ぐ術までは持ち合わせてねーんだよ」


「使えねー」


「その言葉、そっくりお返しすんよ」


「お前さ、慎君いないからって調子に乗ってんだろ? 慎君の前だとぺこぺこしてた癖にさ」


「うっせ。俺だってわざわざクラスから吊し上げられたくねーわ。俺としては放っておいて欲しいのにさ、突っかかってくるのは慎の方だぜ?」


「色々あんのね、飯狗にも」


「まぁな。それよりも今度は団体さんだ。抜かりはないか?」


「そっちこそ、せせこましくバックアタックしか出来ない貧弱君があたしより活躍できるとでも?」


「言ってろ!」



 またもやお出ましのシャドウゴブリンズ。

 今までは一匹ずつ対応してたが、今の俺は宝箱の内側に篭ってる鉄壁状態。

 不意打ちしたい放題だった。



「飯狗!」


「光となれ! シルバーボックスクラッシュ!」



<バックアタック!>


<クリティカル!>

 シャドウゴブリンに1ダメージ!


<シルバーボックスオープン!>


<トラップ発動!>

 催眠ガスがシャドウゴブリンを昏倒させる。


<+1発動!>


<トラップ発動!>

 カマイタチががシャドウゴブリンを切り裂く!


<クリティカル!>

 シャドウゴブリンに350ダメージ!


<+3発動!>

 シャドウゴブリンに350ダメージ!

 シャドウゴブリンに350ダメージ!

 シャドウゴブリンに350ダメージ!

 オーバーキル!


<シャドウゴブリンを討伐した>


<オーバーキルボーナス!>

 鉄の鍵を手に入れた


<+2発動!>

 鉄の鍵を手に入れた

 鉄の鍵を手に入れた



 エグすぎんだろ、シルバーボックス。

 いや、一番エグいのは俺のスキルか。

 本来なら一度しか起こらないトラップを再抽選して、更には一度起こった現象を更に複数回起こして、なんだったらドロップ品にまでその効果が影響する。

 俺のステータスが低すぎる理由がわかるわ。

 もしこれでステータスまで上昇してたらぶっ壊れすぎるからな。



 これを複数回繰り返して、アイアンボックスを四つに増やした。合計で8つだ。

 持ち歩くにしたって荷物になるな。途中で開けてしまおう。



「お前の幸運エグすぎんだろ、あっという間に殲滅じゃん?」


「まぁな。囮ありきの戦略だからお前が居なくなったら詰むんだけど」


「もっとあたしを褒めていいよ?」


「そうだな」


「え、ちょまじ?」



 俺がらしくない回答をしたのがそんなに信じられないのか、要石カガリは自分の要望が通るとは思ってなかったようで驚きの声を出す。



「マジマジ。丁度鉄の鍵が複数個手に入ったからさ。鉄の箱は開けられるんだよね。どれがいいか選んでいいよ。ぶっちゃけ、俺もこんなに持ち運べねーし」


「じゃあ、これとこれ!」


「2個とか、業突く張りだな。ここは遠慮して一個にするところだろ」


「えー、あんたが感謝の気持ちを示すっつったんじゃん? 良いじゃんよ。箱も余ってんだろ?」


「俺のスキルなら再抽選するから一個でも十分じゃね?」


「そう言えばそうだったな。それ忘れてたわ」



 君、自分のこと以外のことにしょっちゅう難聴になるよね。

 まぁいいけどさ。



 結果はシルバープレートって呼ばれる全身鎧【物防+35】

 【+1】でシルバーレイピア【物攻+30】

 【+2】でポーションが二個だった。


 このポーションはそれなりに珍しく、ダンジョンセンターで結構な金額で買取ってくれる候補の一つだ。


 要石はゴブリンのお下がりから装備を新調し、全身シルバーに身を包んだ。元のステータスと合わせて鉄壁の布陣。

 ますます囮役に磨きがかかる。


 そしてもう一つは非常食が一個。これは缶詰型のもので、プルタブを開ければそのまま食えるタイプのものだ。

 部類としてはハズレだが、食料を失いつつある現状にはありがたい限りだ。

 【+1】でマジックポーチ。こいつは手のひらサイズのものなら個数無限で入るらしい。生憎と宝箱は手のひらサイズではないので鍵専用のポケットになりそうだ。

 【+3】でさらに三個増量。

 【+2】で非常食が二個転がり込んできた。


 ポーチは二個ずつ分けて、鍵専用と非常食専用に分ける事にした。要石は一番生傷が絶えないポジションなので、ポーションを渡しておく。

 ポーチはポーション専用と、非常食専用になった。



「飯狗の能力って普通にやばいよな。これって本来一個しか手に入んないものなんだろ?」


「最悪明ける前に死ぬよね? 慎が俺を亡き者にするために連れてきたって言われても俺は信じるぞ?」


「慎君はそんなことしねーし!」



 実際されたんだよなぁ。

 信じたい気持ちは分からんでもないが、あれから数時間経つが、一向に救援が来ないことから見捨てられたと思われても仕方ない。



「どっちにしろ、空腹には変えられない。飯食っちまおうぜ?」


「これ食って平気なの?」


「ドロップ品まで疑い始めたら探索者やってけないぞ?」



 俺が食ってなんともないのを見届けてから要石も食い始めた。

 お前の洗浄、毒物洗い流せるだろうに一番弱い俺を毒味役にすんじゃねーよ。

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