過大な評価をされようが、こちとらスローなライフがしたいんじゃい!

新佐名ハローズ

第1話 開始早々やっちまったな、神様。

 

 

 登録番号:C1R-0148KM。


 届出通称:デオラント。


 それがこの世界の名前。こちらで与えた名称はそのままその世界全体の名として定着する。


 文明を持った種の支配者は大抵世界の始まりがどうのと仰々しく宣うが、何の事はない。こちらがそうなるように意識を植え付けているだけなのよね。


 私の名前はルミナリエリー。しがない管理神の片割れだ。


「――で、例のスカウトってどうなったん? ――は? トチった? ――で、向こうさんとの折衝は ――結局しないまんまやっちゃったと。マジかいな……。わあったわあった、後でワビ入れに菓子折り持って向こうの神んトコ行っとくから。 ――うん。もういいって気にすんな。こっちでフォローすっから。 ――うん。じゃあ適当にみやげもん買っといてー」


 隣の管理卓前で連絡用端末を片手にだらしなく喋っているのが、デオラントの管理神であるディラボートノエ。呼びづらいのかディラボート神という名前でこの世界に広まっている。一応こんなでも私の旦那であり、表に出ていく役目を管理局より与えられただ。


「……あの子またやっちゃったの? 今度は何?」


 スカウトの担当はデミタセだったわよね。あの子、危なっかしいけど選び手としての能力は別格だから、優秀な後輩の補佐を監視役にして派遣していたのに。


「あー、ありえんぐらい好みだったんだとさ」


「は? ……中身がよね?」


「うんにゃ、顔」


「だけ? ……マジ?」


「おう、マジ」


 聞こえてきた話から察するに、彼女デミタセは余所の世界から人材を引っ張ってくる際の大原則である、当地の管理神と同時進行で私へ行うべき報告連絡相談の双方をすっ飛ばして直接こちらの地上世界へ人材を送り込んでしまったらしい。しかも、中身を確かめないままにその見た目だけで……。


 そんなものは単なる拐かし、いわゆる神隠しだ。それ自体は事前確認と申請の後に許可さえ取れれば行える行為だけれど、無許可でやるのはそりゃもう大変に、非っ常によろしくない。下手すればその人材を失うのみならず、管理神間の関係性によっては最悪査問会行きの案件なのよ?


「それ向こうの主神になんて説明するつもり?」


「あまりの逸材に担当者が我を忘れてついうっかり、とかなんとかテキトーに」


 待て待て待て。そんな下らない言い訳があの方に通用するとでも? まさか、私達の指導教官をなされていた事を忘れているんじゃないでしょうね。


「あそこの主神、そういう軽いノリ許さないわよ?」


「えーじゃあ一緒に行ってくんない? そういうん得意じゃん」


「却下。両方離れらんないってご存知?」


「そこをなんとかー」


 なんとかなるはずもない。何の為に駆け出しの管理神が二柱一組であるのか。それは主神メインに不測の事態が起こった場合のバックアップなのだから、最低でも片方が必ず担当の世界に居なくてはならないのだ。さしずめ住み込みの管理人夫婦って所ね。


「クドい。あんまフヌケてっと主神メイン乗っ取るよ?」


「おー、それ良いんでない? 男神オレなんかよか女神オマエのほうが絶対ウケ良いもん」


「……それ、本気で言ってる?」


 どうやら私も、色ボケし過ぎて思った以上に甘やかしてしまっていたらしい。もう潮時だわ。


 そこからは早かった。一刻も早く事態を処理しなければ移界者の安全を確保できない。デオラントの天空に位置する管理棟内へ緊急招集を発令。主神変更の決議を5分で終わらせ、管理局へ緊急案件として主神変更を申請、当該の専門部署により3分で簡易承認されて私は補佐役サブの管理神から主神メインへと仮昇格した。


 それにしても管理局の対処が早いと思ったら、地球の主神様がいち早く事象を察知されて管理局へ通知をなされていたようだ。やはりあのお方には頭が上がらない。もっと研鑽を積まねば。



「ええと、例の子ってもう移界しちゃってる? ああそう。座標は……うわ、あそこか。よりによって間の悪い……。最上位の即応出来るコミュニケーターって出払ってんのよね確か。もう地表したに降りてるので近場に適当なの居ない? ……それ試作体じゃない。ピーキー過ぎるから外せって言っといたのに。またあの前任バカだから分かんないと思って……。もう時間無いから付けといて、要監視で。何かあったら逐一報告ね。もう地球むこうに出なきゃなんないから、頼んだわよ?」


 ああもう忙しい。私は事前に用意している出張用の装備を確認して、文字通り飛び出すようにしてデオラントから地球へと向けて出発したのだった。

 

 

 

 

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