第99話 攻撃するマサン

 広大とはいえ、地下空間での大爆発である。

 しばらくの間は、落盤や、その土煙により確認できなかったが、次第にホロブレスの巨体が見えてきた。


 奴は、無傷だった。



「爆炎系の魔法は効かなかった。 かと言って、結界で囲んでも、口からの衝撃波によって破られてしまう。 地底竜だから、冷却系にも耐性があるはずだ。 口の中は急所と思われるから、剣による波動攻撃が有効かも知れない。 しかし、衝撃波や火炎ブレスを避けて攻撃できるだろうか? 命懸けになってしまう …。 いや、その前に、あれがあった!」


 マサンは、地面に魔方陣を素早く書いて立つと、魔杖を高く掲げ、高らかに呪文を唱えた。



 ホロブレスは、直ぐにマサンを見つけて、尻尾の先端にあるハンマーのような部位で、彼女を叩き潰そうとした。



ドドドッーン!!!!



 尻尾の先端が当たった地面に、巨大なクレーターが出現したが、マサンの姿はどこにも無い。

 恐らくは、移動魔法を併用したのだろう。


 次の瞬間、ホロブレスの背後に、強烈な稲妻が走った。

 巨大な身体を次々と蝕むようにバチバチと火花を散らしながら、最後には青白い炎が全身を包む。

 それは、大規模な雷撃攻撃であった。

 

 伝説の魔獣といえど、動けないようだ。

 雷撃による炎は極めて高温だ。

 次第に、巨大な消し炭になると思い、マサンは注意深く観察した。


 そして、再び、魔杖を高く掲げ、高らかに呪文を唱えた。


 ホロブレスの全身に、さらに、強烈な稲妻が走り、バチバチと火花を散らし、青白い炎に包まれる。

 まるで、電気溶融されているようだ。

 


「今のは、特別なおまけだぞ!」


 マサンは、苦しそうに叫ぶ。

 度重なる極大魔法の消費に、彼女の顔は歪んでいた。


 しばらく時間が経過した。

 かなり長く感じられたが、実際には10分程度だろう。


 それでも …。


 魔石により、かなり魔力の回復をはかる事ができた。


 ホロブレスを包む青い炎が弱くなり、やがて、その巨大な姿があらわになる。


 全身が、焦げたように真っ黒に変化していた。



「効いたようだな …。 最後の引導を渡してやる!」


 マサンは、ポーチから幅広の長剣を取り出すと、下段に構えた。

 そして、ありったけの魔力を込めて、下から振り上げる。


 金色の波動が弧を描き、ホロブレスの首筋に当たり、線を描くように強く光った。



「さあ、落ちろ!」



 ホロブレスのゴツゴツした巨大な頭部を見て、マサンの口角が上がった。



◇◇◇


 

 その頃、ベルナ王国のパル村の大規模駐屯地では、ビクトリアが姿を消した事が知れ渡り大騒ぎになっていた。


 べアスが一人で出てきた事を不振に思った魔石鉱山の警備兵から、連絡があった事により露見したのだ。


 この大規模駐屯地は、徴兵制の拡大による兵士の増員に対応できず、機能不全に陥っていた。

 命令系統は、参謀であるガーラをトップに、5人の将軍と20名の大隊長が中心となり仕切っているのだが、将軍以上の上級貴族は、普段は国都に居るため、実質的には大隊長の協議により事を決定していた。


 つまり、強力なリーダーシップを取れる人材が不在だったのだ。


 このような中、国都に連絡を入れ、それと並行し、魔石鉱山にビクトリアの捜索隊を送った。

 また、べアスについては、捕獲のための精鋭部隊を派遣した。



 ビクトリアの捜索隊は、魔石鉱山に深く入った所で、突然、連絡が途絶えてしまった。

 現地の警備兵からの連絡によると、地震による落石に巻き込まれた可能性が高いとの事であった。

 地震については、大規模駐屯地でも観測しており、いつになく頻発する自然現象に、不吉なものを感じていた。



 また、べアス捕獲のための部隊は、森の奥深くまで追ったのだが、途中で足取りが途絶え、先に進めなくなっていた。


 

「べアス大隊長は、騎士だから移動魔法を使えない。 周辺に、何か痕跡があるはずだ。 探せ!」


 隊長のギブスは、険しい顔で部下に命令した。

 彼は、ムートのBクラス出身の魔法使いで、探索系の魔法には、絶対の自信を持っていた。



 そんな時である。


 魔石鉱山の方向で、大規模な土煙が上がった。

 隊員全員が注目すると、いきなり山腹が崩壊した。

 


ドドドッーン!!!!


 

 少し遅れて、地響きのような音が聞こえてくる。



「山が噴火したのか?」


「今まで、あの山が火山なんて聞いた事がないぞ」


 隊員達は、呆気に取られ見ている。


 少し遅れて、皆が度肝を抜かれる事態が起こった。


 いきなり巨大な竜が出現したのだ。

 かなり遠くに見えるのだが、山の大きさと比較しても、この竜が、いかに巨大であるか分かる。



グフォーンン!!!!!



 巨大な翼を広げると、竜は、雄叫びとも取れる声を発した。

 その直後、呼応するかのように地面が激しく揺れる。



「何だ、あれは!」


「竜なのか?」


「どこから来た?」


 隊員は、口々に叫んだ。

 その、あまりにも恐ろしい光景に、ベアスの捕獲どころでは無くなってしまった。


 隊長のギブスは、慌てふためきつつも、魔法の水晶を介し、大規模駐屯地に緊急連絡を入れるのだった。

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