第95話 決行の時
ヒュウガが去った後、俺は渡された活命剣をマジマジと見た。
片刃で少し反っており、持ち手の所に円形の金属板のような物が付いていて、葉っぱのような彫刻がされている。
そして、持ち手の部分には、煌びやかな布が、キツく巻かれていた。
俺が持っている長剣は、両刃で、刀身は真っ直ぐで先が尖っており、持ち手部分は滑り止めになるような模様が刻まれていて、芸術品ともいえる。
ヒュウガの活命剣は、一見すると地味ではあるが、刃の紋様が美しく心が惹かれる。
2本の剣は、とても対照的だ。
俺は、魔法剣士だから、剣を通じて魔力を発する必要がある。
だから、活命剣を構え、軽く振りおろしてみた。
剣先から、いつものように黄金色の光を発した。
「問題はなさそうだな …。 でも、活命剣って言ってたが、本当に斬った相手を殺さないのだろうか? 魔獣で試したいが …」
俺は、外に出て、地面に魔法円を書いて、その中心に立った。
「どうせ、どこに居たってアモーンに転送されるんだから、この前線を離れたって良いだろう …」
俺は呪文を唱えた。
一瞬で、30キロほど移動したが、相変わらず平原が続いている。
「マサンなら、一回に60キロは移動できるが、俺はそこまでは無理だな。 この魔法は感知されやすく魔獣を呼び寄せると聞いたけど、何度か繰り返して見るか …」
俺は、魔法による移動を10回ほど繰り返した。
辺りを見回すと、木々に囲まれた森の中におり、ここがどこかサッパリ分からない。
ここまで来ると、もう、前線には戻れない。
魔獣が居そうな雰囲気になってきたため、俺は少し歩くことにした。
しかし、歩けども、森の動物はいるが魔獣は出現しない。
諦めて帰る事もできず、しかたなくひたすら歩くしかなかった。
◇◇◇
その頃、マサンは、魔石鉱山の奥の洞窟で不思議な結晶を回収した後、さらに内部へと進んでいた。
奥に行くほど広くなり、ダンジョンを彷彿とさせる。
探究心の旺盛な彼女に、引き返すという選択肢はなかった。
2日ほど歩いた時に、意外にも洞窟の最奥は突然現れた。
そこには、信じられない大きさの地底竜が座していた。
かなり遠くから眺めているが、あまりにも巨大なため、ハッキリと見える。
全長は、200メートルは優に越えており、首が長く、頭には無数の角のような尖ったものが生えていた。
尻尾は隠れているが、先端にある、ハンマーのようなものが見える。
「すごい奴に出会ってしまったな …。 あれは、伝説の魔獣、ホロブレスだ。 魔道書に載ってた姿と同じだ」
マサンは、思わず声を発した。
ホロブレスは、魔王の使役獣と言われ、世紀末になると地表に現れる。
吐き出すブレスは、ひとつの都市を燃やし尽くし、口を開けた時に発する衝撃波は、巨大地震を誘発するという。
「倒せそうもない。 でも …。 寝ているようだな …」
マサンは、大胆にも近づいて行った。
「やはり寝ている」
彼女は、剣を出して突ついて見た。反応がないため、さらに大胆になって行く。
今度は、剣撃を伴い強く斬りつけて見た。
魔獣はびくともせず、深く眠ったままだ。
マサンは、剣をえぐるように斬りつけて、鱗を一枚はいだ。
一抱えもある大きな鱗で、かなり高く売れそうだ。
その時、一瞬だが、ホロブレスの身体がピクッと動いた。
「今のはヤバカッタな。 こいつが起きたら、世界が滅ぶかも知れない。 鱗を回収して帰るしかないか …」
マサンは、ホロブレスの鱗をポーチにしまい、もと来た道を引き返すのだった。
◇◇◇
再び、イースがいる森での事である。
ひたすらに歩いていると、ついに魔獣に遭遇した。
試し斬りには手頃な大きさの、体長が3メートル程度の、ライオンのような顔をした、体型が熊に似た魔獸である。
俺を見つけると、立ち上がり強く威嚇してきた。
すかさず、活命剣を上段に構えた。
剣先から、黄金色の光が放たれ、強い剣撃で斬りかかろうとした、その時である。
「これから転送だ。 イース! 剣を構えよ」
突然、アモーンの声が聞こえたと思った瞬間、前方に光の輪が出現した。
「まだ試してないが、このまま行くしかない …」
俺は、活命剣を上段に構えたまま、前方の光の輪に向けて高く跳躍した。
一瞬、光に包まれたかと思ったら、次の瞬間、暗い洞窟のような場所に俺は立っていた。
前方を見ると、魔法の灯りを持つ若い男女がいた。
男性はこちらを向いており、女性は背を向けている。
男性の顔には、見覚えがあった。
ベアスだった。
ベルナ王国を裏切ったのは、彼だったのだ。
そして、女性の方は …。
後ろ姿で分からなかったが、背後の異変に気付き、こちらを振り返った。
やはり、ビクトリアだった。
彼女は、俺に気付き、なぜか懐かしい笑みを見せた。
しかし、俺は、迷う事なく、激しい剣撃で斬りかかった。
ビクトリアの、驚いたような悲しんだような、何とも言えない表情が見えたが、もう間に合わない。
ズサンッ
俺の放った剣の波動は、ビクトリアの強い結界を断ち切り、彼女の細い身体を分断した。
「なんでだ? 活命剣と言ったが嘘だったのか …」
この手に残る嫌な感触と、耳に残る鈍い音に、背筋から冷たい汗が吹き出した。
俺は、ビクトリアが倒れているのを見ないように目を瞑った。
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