第37話 街のギルド

 職員通用口より中に入り、しばらく通路を歩くと階段に突き当たった。

 次にその階段を上がると、かなり大きめの部屋があり、そこには多くの職員が忙しそうに働いていた。


 マサンは、入口付近にいた女性職員に声をかけた。



「ちょっと良いかしら? SSSランクメンバーのマサンよ。 ギルド長のベスタフはいるかしら?」


 マサンは、よそ行きの声を出し、職員にカードを提示した。



「エッ、SSSランクと言った? マサンって …。 アッ、失礼しました。 ようこそ、いらっしゃいました、マサン様。 特別貴賓室に、ご案内いたします」


 職員の慌てた様子を見て、周りからどよめきの声が上がった。SSSランクとは、よほど凄いらしい。


 その後、俺たちは特別貴賓室に案内された。



「なあ、マサン。 凄く豪華な部屋だな。 ところで、ギルドに優遇されるSSSランクメンバーってなんだ?」



「ギルドから仕事を請け負ったり、物を買い取ってもらうには、ギルドが発行するランク別のカードが必要なんだ。 このカードには、実力順に、上からA~Fの、6つのランクがある。 さらに、Aランクより上の実力のある者に対しては、特別にSランクカードが付与される。 そして、Sランクメンバーは、ギルド施設への出入りが自由になるんだ。 Sランクにも3つのランクがあって、SSSはその中で最上位のものだ」



「スゲー! マサンは、最上位なのか。 それで、ランクはどうやって決めるんだ?」



「魔法の水晶を使う。 この水晶の前に対象者を立たせると、名前や魔力量、あと、スキルが数値として浮かび上がるんだ。 その数値を使ってランク分けする。 ちなみに、Bランク以上の者は滅多にいないそうだ。 イースもカードを作るように言われるだろうけど、理由をつけて拒否した方が良い。 Bランク以上だと評判になってしまい、ベルナ王国にイースの情報が伝わってしまうかも知れない」



「それは困る。 俺は、水晶の鑑定を拒否するよ。 ちなみに聞くが、ベルナ王国にもSランク以上の人はいるのか?」



「このギルドは、どの国にも支配されない治外法権下にあるが、それだけに来る者を拒まない。 だから、どこの国にもギルドカードを持つ者はいる。 8年前の話だがSランク以上の者は9名いると聞いた。 だから、ベルナ王国にもSランクはいるはずだ。 ちなみに、ギルド長のベスタフはAランクで、私と同じタント王国の出身だ」


 俺とマサンが話していると、中肉中背の男がノックして入ってきた。若いのか年配なのか分からない、不思議な感じのする男だった。



「これは、これは、マサン様! ギルド長のベスタフでございます。 お久しぶりです。 来てくれて嬉しいです。 早速ですが、仕事の依頼をしてもよろしいのですか?」



「いや、違うんだ。 仕事を受けるために来たのではない。 キングカイマンの皮と肝を買ってほしくて来たんだ」


 そう言うと、マサンはポーチから皮と肝を取り出して、床の上に並べた。



「仕事ではないのですか、残念です。 でも、買取は承ります。 キングカイマンの皮にある固い鱗は、剣や盾の最適な材料となります。 また、肝は魔石の代用品にもなる優れもの。 マサン様の事ですから、通常より5割ほど高い100万シーブルでお引き受けします」



「すまない、助かった」



「ところで、お隣の方はどなたで? 言い辛いのですが、ギルドの決まりではSランク以上の方以外は、ここへお通しできないのです」


 ベスタフは、困ったような顔をした。



「この者は …。 うむ …。 縁があって、記憶を無くした者を弟子とした。 名前も分からないような状態なのだ。 だから、一人にさせておけなくてな。 この私に免じて、同席する事を許してくれ」



「はあ。 でも、鑑定だけでも受けてもらわないと …」


 ベスタフは、俺を見て訝しんだような顔をした。



「それも必要ない。 明日には出立する予定なんだ」



「エッ、明日にですか?」


 ベスタフは、先ほどより困った顔をした。



「何か、不都合でもあるのか?」


 今度は、マサンが訝しんだような顔をした。



「実は、ある方から、マサン様が見えられたら連絡を欲しいと言われております。 かなり偉いお方で、マサン様の事を、方々で探しているようです。 明日、出立する前に、どうか、お時間を取ってください」



「相手は誰だ?」



「会っていただけると約束したら、お教えします」



「名を名乗れないような、やましい奴とは会えない」


 マサンは、かなり不機嫌な顔をした。感じからして、演技ではなさそうだ。



「大変、失礼しました。 どうか、これから話す事は、内密にお願いします。 ベルナ王国の、侯爵のご息女でナーシャ様という方からの、ご依頼なんです。 但し、マサン様への、話の内容までは伺っておりません …。 それで、うーん …」


 ベスタフは、一旦、言葉を呑み込んだ後、小さな声で続けた。



「実は、この方は、ベルナ王国にある、ムートという軍の幹部養成施設の責任者なんです。 それで、この施設から優秀な人材を、冒険者としてギルドに送り込んでもらっているんです。 不足する治安要員として働いてくれており、今では、無くてはならない関係となっています。 ですから …。 どうか、会うだけでも …。 なんとか、お願いします。 会っていただけるのなら、お隣にいる弟子の方の、施設への出入りの許可と鑑定を免除します」



「うーむ、分かった。 で、どこで会う?」



「明日の午前9時に、ここにおいでください」


 その後、ギルド長との話を終え、100万シーブルを受取りギルドを後にした。


 街に出てから、まず、宿を決め、次に、魔道具店に寄って必要なものを購入した。


 その後、高級料理店に向かい、そこで食べながらベルナ王国のナーシャの事を話した。彼女がムートの責任者で、俺を覚えている可能性がある事を相談した結果、フードを被り後ろに控えていようという事になった。 


 

 そして、翌朝の午前9時になった。 

 俺とマサンがギルドの特別貴賓室に入ると、ギルド長のベスタフとベルナ王国のナーシャが並んで座っていた。

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