第32話 ベルナの3傑
俺の事を弟弟子と認めてから、マサンの態度が優しくなった気がする。
その後、簡単な食事を取り、交代でシャワーを浴びた。そして、落ち着いたところで、小さなテーブルに対面で座った。
彼女は、銀髪の長い髪を綺麗に整えていた。改めて見ると、透き通るような白い肌に藍色の目、それに上品な口元、とても美しい顔立ちをしていた。俺は、それを唖然として見入ってしまった。
その時、なぜか、別れた恋人のビクトリアを思い出してしまい、心がチクッとした。
「なんだい、なんだい。 あまりの美貌に、お姉さんに惚れちゃったかい? しょうがないね!」
マサンは、いつものように、お茶らけた態度になった。見た目が変わっても性格は同じだった。
「あのう …。 あなたを見ていたら、知ってる女の子を思い出してさ …」
「なになに、恋話かい? あんたは、男にしては小顔で綺麗な顔をしてるから、モテるだろうけどさ。 でもね、おあいにく様。 ガキには興味が無いんだ。 私に告白しても無駄だよ」
「告白なんてしないさ …」
「なんだ、ガッカリ。 でも …。 そういえば、あんた。 ベルナ王国の出身って言ってたよな。 なんでタント王国に流れて来たのさ?」
俺は、師匠のジャームに話した時と同じように、自分の生い立ちや、信頼する人に裏切られ国を捨てた事を話した。
自分に取って恥になる事なのに、なぜかスラスラと言葉が出たのは、師匠のジャームの時と同じだった。
負の感情を吐き出したせいか、心が楽になった気がした。
マサンは表情を変えずに、それを黙って聞いていた。
「イースも、大変だったんだね」
マサンは、俺の事を名前で呼んだ。
優しく見つめられると、俺の目から涙がとめどなく流れ落ちた。もう克服していたつもりなのに、心の中は違っていたようだ。
「復讐したいだろうが、負の感情を溜めちゃだめだよ。 それに吞み込まれると、悪魔に付け入る隙を与えるからね。 魔導士は常に冷静でなくちゃならないんだ。 師匠から教わっただろ」
「いや、そんな事は教わらなかった。 精神論はなく、実践のみだった」
「なんだって? それじゃ …。 まだまだ、姉弟子が教えてやる事が多そうだな。 ところでイース。 ベルナ王国の連中を見返してやりたくないのかい?」
「俺は、シモンに復讐したい。 だけど、奴は軍の中枢にいる。 どうにもならない …」
「イースが言ってたシモンって奴だが、ベルナの3傑の筆頭だろ。 厄介な相手だな」
マサンは、少し目を細めた。
「ベルナの3傑って何だい?」
「そうか、長く隠遁生活を送っていたから知らないのか …。 イースが居ない5年の間に、ベルナ王国は、大きく変わったんだ。 シモンという男の魔法使いを筆頭に、その下にガーラとビクトリアという女の魔法使いがいて、この3人が国を牛耳っている。 3傑とは、この3人の事だ。 確か、ビクトリアは、イースの別れた恋人だったな …。 コイツらは、莫大な魔力と巧みな魔術により、逆らう者を容赦なく排除した。 そして宰相を追い落とし、そのポストを奪ったんだ。 噂では、国王も3傑の言いなりだそうだ」
「なぜ、マサンは内情を知ってるんだ?」
「師匠が亡くなってから、ベルナ王国に移り住んでいた。 最初の頃は良かったんだが、例の3傑が国の中枢に入り、サイヤ王国と事を構えてからは、住みづらくなった。 それで、また、タント王国に戻って来たんだ」
「どんな風に、住みづらくなったんだ?」
「富国強兵政策で国が豊かになり、ほとんどの国民は満足していたが …。 しかし、その反面、侵略戦争を正当化するために、偽りの情報を流し言論統制を強いていた。 秘密警察が監視し、反乱分子がいれば、逮捕され収容所に入れられた。 また、外国人に対する迫害もあった。 今までのベルナ王国と比べると、違う国になってしまった」
マサンの話を聞き、俺は、見捨てられたとはいえ、家族の事が心配になった。それに、優しく思いやりのあったビクトリアが、3傑の1人である事が信じられなかった。
「3傑の1人というなら …。 シモンへの復讐なんて、ますます無理だな」
俺が意気消沈し話すと、マサンは手のひらを見せて、それを制した。
「そうとも限らないさ。 ベルナ王国は、南の大国であるサイヤ王国と戦争してる。 どさくさに紛れて忍び込めば、付け入る隙があるやも知れん」
「戦争って、本当なのか? 5年前は、小競り合いがあった程度だったが、それが戦争に発展したのか? だとしたら …。 大国であるサイヤが攻めて来るとなると、ベルナはひとたまりもない …」
俺は、かなり驚いた。国を捨てたとはいえ、滅びてしまうと思うと一抹の寂しさが募った。
「違うぞ、イース。 ベルナ王国が一方的にサイヤ王国へ侵攻したんだ。 しかも、今のところベルナが優勢だ。 前戦では、イースの恋人だったビクトリア将軍が指揮してる。 彼女は空間を操る魔法 …。 つまり、結界術を駆使し、多くの敵兵を結界に閉じ込め殲滅してる。 まさに鬼神のような女だ」
「ビクトリアが、多くの敵兵を …」
俺は、彼女が自らの手で、多くの人を殺めていると聞き、信じられない思いでいた。
「何をウジウジしておる。 そうだ、イース。 復讐のためにベルナ王国に潜入して見るか?」
「エッ、警備が厳しいのにどうやって潜入するのさ?」
俺の話を聞いて、マサンは不気味に口角を上げた。
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