第28話 北部戦線統括最高司令官

 サイヤのジョンソン国王は、北部戦線の重要性を理解し決断した。

 参謀の要望より多い50万の兵と、要望通り200名の魔道士を送る事にしたのだ。


 侵略者を一気に叩き潰し、逆にベルナ王国に侵攻しようと考えたのである。しかし、これは賭けでもあった。

 もし、北部戦線で負けた場合、王都が戦場となってしまう。だが、そうなった場合は、魔道士のワムも強力するとの約束を取り付けた。

 この賭けのようなやり方に対し、宰相が強く反対したが、最終的には王命には逆らえなかった。



 大軍の兵を率いるのは、近衛騎士団長のパウエルだ。彼は、非常に美しい女性のような容姿で、貴婦人に人気がある。

 優しげなイメージがあるが、戦略に長けており、その実行力において定評がある。冷徹な戦略家であった。

 また、剣技にも優れており、神殿の石柱を崩さずに一刀両断するほどの腕前があった。


 彼は軍の将軍の職位を得て、北部戦線統括最高司令官となる。また、国王より全ての権限を一任され出陣する。

 ベルナ王国の、ビクトリア将軍を退けるべく、サイヤ王国の切り札として戦地に赴くのだ。

 


◇◇◇



 北部戦線への盛大な出陣式を終え、大軍を見送った後、情報相のバフムは、宰相のベナンの邸宅に招かれ、何やら密談をしていた。



「宰相、お招きいただきありがとうございます。 それで、ご用向きは?」


 バフムは、不安そうな顔をした。



「まあ、そう畏まるな。 来てもらったのは、ある人を探してほしいのだ …」



「それは、この戦争に関係のある方ですか?」



「うむ。 単刀直入に申すと、ジャームの2番弟子のマサンと言う女を探してほしいのだ。 彼女は、ワムに匹敵する魔道士と聞く。 ワムは …。 あの男は、あてにならない。 奴は、王は守っても国は守らないと、ふざけた事を言いやがった。 だから、奴に対抗できる魔道士を引き入れる必要があるのだ」



「はい。 私もそう思います。 ワムは、宰相と同格の待遇を与えられているにも関わらず、この国に貢献しないとは、全く、ふざけた奴です」



「それで、マサンをどうやって探す? 何か、良い方法はあるか?」



「まずは、亡くなった師匠、ジャームの国であるタント王国にいるスパイに手を回します」



「あの国は、マイドナンバーカードで国民を管理していると聞いたが、そこから所在を確認できるのか?」



「はい。 マイドナンバーカードが決め手と考えます。 タント王国の総務部門に、我が国のスパイが潜入しておりますので、そこから探ります」



「そうか、それは心強い。 ところで、そのスパイにはマイドナンバーカードは配布されているのか?」



「見かけはタントの国民ですから、もちろん有ります。 マイドナンバーカードですが、いまだ不完全なシステムのようで、間違いやミスが多いから、成り済ましは比較的簡単なんです」



「タント王国は、平和ボケした国だと言うが、スパイ天国のようだな。 マサンの件、直ぐに手配してくれ」



「ハッ! 承知しました」


 情報相のバフムは、畏まって答えた。



◇◇◇



 北部戦線において、サイヤ王国を先に出兵した2万の兵は、すでに壊滅状態にあり、これを指揮する将軍のタートは、全滅するのを待つばかりでいた。

 そこへ、50万もの大軍を率いるパウエルが合流すると、涙を流して喜んだ。



「よくぞ、援軍を率いて来てくれた。 この大軍と魔道士の力があれば、敵方の魔法の結界を突破できるやも知れん。 早速、指揮官を招集してくれ!」


 タートは、パウエルに命令した。


 彼にして見れば、自分は参謀に次ぐ将軍で、パウエルより年齢もかなり上である。

 また、援軍を引き連れて来たパウエルは、軍と関係のない警察組織のトップとなる近衛隊長である。

 当然、自分が、北部戦線の統括司令官になると思っていた。



「タート将軍。 あなたは、何か勘違いしてるようだが、私はジョンソン国王の勅令により、北部戦線統括最高司令官を仰せつかっている。 あなたは、私の部下の1人に過ぎないのだ」


 そう言うと、パウエルは王の勅令書を掲げた。



「そんな …」


 タートは、気が抜けたように下を見た。

 とっ、その直後、他の指揮官100名ほどが、指令テントに雪崩れ込んできた。



「やっと揃ったな …。 皆の者、私の前に整列せよ!」


 パウエルの号令に従い、皆が素早く並んだ。

 しかし、タートだけは茫然と立ち尽くしている。



「タート将軍! 敵の状況と、そなたの軍の被害状況を報告せよ!」


 パウエルの言葉に、タートはハッとして、話し始めた。



「ベルナ王国の兵は、5千ほどで大した事が無いと、高を括っていました。 それで、我が方の2万の兵を、5百名の40個小隊に分け、その中の20個小隊、つまり1万名により、敵前突破を図りました。 直ぐに相手の隊列は崩れ、難なく本陣に到達しました。 そして、本陣に切り込もうとした時、1人の美しい女性の魔法使いが現れ、突然怪しい光を放ったと思ったら、いきなり5個小隊が消失した …。 一瞬で、2千5百名もの兵が消えたのです」


 タートは、青い顔をして身震いした後、心を落ち着かせ、また、喋り出した。



「それで、パニックになり、直ぐに残りの小隊を引かせたのですが、今度は結界に阻まれて、行くも引くもできなくなってしまいました。 閉じ込められ、しかも分断されて、その中で凄まじい騎士の攻撃により、我が兵は斬り殺されて行きました。 まさに地獄絵のような状況に陥ったのです。 最初に放った20個小隊は全滅、残りの20個小隊で戦ったのですが、あの結界の前では無力で、今は、5百名の兵しか残っていません」


 タートは、唇を噛んで悔しがった。



「本陣から出て来た女性が、ビクトリアだな。 結界術か! ミュートよ、女将軍を孤立させ倒すのに、何か奇策はあるか?」


 パウエルは、魔道士の指揮官を見た。

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