幼馴染みざまぁを見届けた俺、自分も幼馴染みざまぁをしたかったので感想を聞いてみた。

第33話 高知要は琴色静音を

「さて……」

　──屈伸運動を終え、それなりに体を解した所で俺は思った。

「どこに行けば良いんだ……?」

「……やれやれ」

「よく考えたら俺水原の家とか知ってるわけないわ」

　至極当然の事を今になって気付く。

　あ、あれ……これ意外とヤバくね?

　マナも知ってるわけ無いしな……。

　俺が一人そわそわしていると、マナはスマホを手に取ってどこかへ電話を掛け始めた。

　マナはすぐにコールに応答した相手の名前を呼んだ。

「赤羽さん、今どこに居るのかしら?」

「クソビッチ……?」

　あぁ、そう言えばそうだった!

　俺は当然あいつの連絡先なんか持っちゃいないが、マナは交換してたのか。

　マナは通話をスピーカーに切り替えて俺にも聞こえるようにしてくれた。

『もしもし～?マナちゃんからとか珍しいねー!さっきはごめんねぇ～?』

「それはいいから。あなた今、さっきの男と一緒に居るのよね?」

『え、竜?う、うん居るけど今は居ないっていうか……』

　なんだ?何やら歯切れが悪いな。

　マナも同じように思ったらしく、顔をしかめながら問い詰め出した。

「どういう事?急用だから簡潔に説明しなさい」

「お前相手一応年上だぞ……」

　俺も人の事言えんが。

『あ、あれっ、かー君も居るの!?』

「それが何かしら。良いから早く」

　段々と本気でイラつき始めたマナは、つま先をとんとんと鳴らしている。

　琴色さんの事が本気で心配なのだろうか……?

『ご、ごめんごめん。えーっとね……竜ってばさっきのがよっぽど気に入らなかったみたいでさ……帰り道の途中で生徒会長に電話し始めてね……』

「それは分かっているわ。その後よ。何を考えているの?」

『竜は──』

　クソビッチの口から出たのは、考え得る限り最悪の答えだった。

『生徒会長に形だけ謝って……そしたら俺を手離したくないあいつは今度こそ体を差し出すだろって……そんでそれでも駄目なら生徒会長の目の前であたしとして心を壊してやるって……』

「……んだそれ」

『それで今外に出て生徒会長を待ってる筈……ついでに生徒会長にご執心なかー君も呼べたら理想って言ったんだけど、それはうちが止めた。かー君はうちのお気にだし』

　何もありがたくねぇよ。

　あのクズ男……一体どういう思考を辿ればそうなるんだ。

　まさか……俺が言ったからか……?

　幼馴染み一人も抱けないって……。

　俺は無意識の内にマナのスマホを強く握り締めていた。

「……赤羽先輩、あんたを利用するつもりならあのクズの家でやるつもりなんだよな?」

『う、うん……』

「今すぐ位置情報を送れ。そうすりゃあのクズに協力するあんたは許すよ」

『え……?ま、待ってかー君何する気!?』

「さぁね。場合によってはあんたには嬉しい事かもな」

『ど、どういう──』

　俺は赤羽の返事を待たずに電話を切った。

　さてと……本当は色々準備してから動きたい所だけどそんな時間はない。

　前々から考えてた事もあったってのに……。

「どうするのカナメ。まさかまた（・・）暴力で解決するつもり?」

「無理にきまってるだろ?体格も腕っぷしも勝てる所が一つもねぇ」

「……なら一体──」

　俺は今度は自分のスマホを取り出してとある人物に電話を掛けた。

　相手は俺が罪悪感を覚えず、雑に扱っても怒らなさそうな、琴色さんを止められる人物。

　そいつはすぐに電話に出てくれた。

「あ、もしもし?倉橋君ちょっと急用なんだけどさ──」

「……?」

　俺の用件は一つ。

　今すぐに俺達の所に来てくれ、だ。

　倉橋君は琴色さんを助けたいからと伝えるとすぐに了承してくれた。

　電話を終えて10分程で自転車に乗った倉橋君は俺達の所に来てくれた。

　その間に赤羽から水原家の位置情報も送られて来ており、いよいよ準備は完了だ。

　息を切らせて急いで来てくれた倉橋君は、ジャージの袖を捲りながら俺達に問い掛けた。

「ハァっ……ハァっ……い、一体何があったの要君……!?」

「こんな時間にごめんな。ワケは行きながら話すよ。マナを後ろに乗せてやってくれ」

「わ、分かった……!ん……?え、副会長……!?あれ、君達って──」

　今それを話してる時間はない。

「……それも後でな。とにかく行くぞ!」

「あ、あぁ……!」

※

「琴色さんが幼馴染みに壊される……!?どういう意味っ……!?」

　マナを荷台に乗せて自転車を走らせる倉橋君。

　そしてそれに並走する俺は絶賛ランニング中だ。

　俺達は息を切らせながら会話続ける。

　……これ俺の方が絶対しんどい。

「ゼェッ……ハァッ……!い、言った通りっ……だっ!琴色さんは……このままじゃ……心に深い傷を負う……!!」

「……それは分かったけどっ……!だからってなんで君が……!?」

「それは……!」

　なんで──そう聞かれても正直困る。

　俺と琴色さんは協力関係とは言っても、もうそれも本来は終わっている。

　これは俺のお節介以外の何物でもない。

　ならどうしてお節介を焼くのか……。

　俺は不意に立ち止まってしまった。

「似てる……からっ……。ハァッ……琴色さんを救えれば……俺の罪悪感が薄れる気がして……」

「罪悪感か……」

「……」

　倉橋君は俺に合わせて足を止め、語気を強めて言った。

「要君、罪悪感の精算に他人を利用しちゃ駄目だよ」

「……分かってるよ。それにそれが全てじゃないさ」

「そっか……さすが僕の親友だ」

　いきなり思ってもなかった言葉を口にするので少し驚いてしまった。

「い、いつの間に親友になったんだよ。お前、俺の事怒ってるんじゃないのか?」

　そう、倉橋君はプールの一件で俺に怒りの感情を見せていた。

　あれは俺が悪いから仕方ないが、いきなり親友呼ばわりされる覚えはどう考えてもない。

「要君はいつも皆の事を考えて動いてる。だからあれもその一環だったんでしょ?あれは僕が大人気なかったんだ。ごめんね」

「……いや……」

「それに君は僕の幼馴染みを助けてくれた。それだけで僕は君の事を親友だと思えるさ」

　……俺はそんな大したことは出来ちゃいない。

　佳南の事だってあれはあいつが強い奴だから何とかなっただけだ。

　マナとの事も、何も上手く行っちゃいない。

　それに琴色さんの件も……。

　俺に出来るのはいつだって──

「……買い被り過ぎだよ。だけど、倉橋君が俺を親友と呼ぶなら思う存分利用させて貰うぞ」

「望む所さ!」

　俺が「さんきゅ」と短く礼を言うと、ずっと黙っていたマナが口を開いた。

「良い感じの所悪いのだけれど、そろそろ向かわないとまずいんじゃない?」

「そう言えば二人は仲直りしたの?」

「してない」

「……～っ……!」

「え、なに何で副会長赤くなってるの!?」

　俺にも分からん……。

　それにそれこそマナの心境を聞いてる場合じゃないんだ。

　俺が再び走り始めようとすると、倉橋君は「ごめん、最後に一つ」と言ってきた。

「どうやって解決するつもりかは知らないけど力には勿論なる。それでも僕が呼ばれた意味がよく分からないんだ。どういう人選だい?」

　これには簡単に答えられるな。

「俺が迷惑掛けても心が痛まない奴」

　倉橋君には他に期待してることもあるけどな。

「サイテーの理由じゃないか」

「あっ……もうっカナメ駄目よ……人前でそんな……恥ずかしいわ……」

「なんでこいつは喜んでんの?」

「僕に聞かれても……」

　とうとう本格的に壊れてきたのか?

　まぁ今は放っておくけども……。

「とにかく二人は俺の指示通りに動いてくれ。あのクズは俺が成敗してやる」

「ほ、本当に暴力沙汰は勘弁してくれよ……?」

「心配すんなって。少なくとも二人には迷惑は掛けないよ。あ、あとそれと……」

　思えばこれが一番大事な理由だった。

　マナは勿論、倉橋君だからこそ今ここに呼んだんだ。

　倉橋君ならば、今から起こる事が漏れる事がないからな。

　あの二人には──

「佳南と筑波には絶対に言うなよ。俺は只でさえ今回の件に首突っ込むなって言われてんだ」

「……言わないけどさ」

「私も無用の心配よ。その二人に近付いた瞬間襲われそうだもの」

「分かってるさ。念の為にな」

　倉橋君から筑波へってルートだけが心配だがな。

　ま、そこは信用しておくさ。親友だって言うならな。

「さ、だいぶ時間が経っちまった。マジで急ごう」

「う、うん……!」

　──口の中が血の味で満ち始めた頃、ようやく俺達は水原の家の前に着いた。