4話 会いたかったで~

京都ではなく、新大阪駅に着いた。


「会いたかったで~、美和子!」


 おれが改札口を荷物(おれの+白鳥の)でつっかえさせ、後ろの人に迷惑をかけている数歩手前で、無駄に元気のいい関西弁が聞こえた。


 ……ん? 美和子?


 改札を出て、見えた景色が有り得なかった。


 白鳥美和子が男に抱き締められていた。


「ちょっ、おいっ! お前、何してんだ!」


 思わず、大声で叫ぶ。


「ていうか、誰だ、コイツ⁉」


「五月蠅いわよ、高村君。……それと、そろそろ離れなさい」


 白鳥が冷静な声で言う。


「ああ、すまへんかったな。つい、嬉しくてなぁ」


 そいつは白鳥から離れると、おれの方を向き、二カッと笑いかけた。


「わいと美和子はただの従兄妹やさかい。安心せぇや、あれは単なるハグやから。アメリカとかじゃ、普通やろ?」


 ここは日本だと言い返そうとしたら、服の袖を誰かに引っ張られた。


「アンタ、好きな子をあの兄ちゃんに取られたんか?」


「三角関係なんか? 燃えるわぁ」


 いつの間にか、数人のオバちゃんに囲まれていた。


「違います!」


 そこは否定。おれと白鳥の間には、恋愛感情なんて無いのである。


「キッパリ言いはるなぁ……」


 何故か、男が残念そうに言う。


「それよか、話は場所を移してからにしようや。わいら、かなりの注目の的やで?」


 そう言われてからやっと、ここが駅の改札口であることに気付いた。


 周りからしたら、大迷惑である。


 ていうか、何してんだ、おれ。


かなり恥ずかしい。さっきといい、今といい何なんだ。


 白鳥は明らかにおれに呆れており、弟たちは兄の大失態に赤面していた。優なんか他人の振りをしている。


 唯一、おれの目の前のこの男だけが、何事もなかったかのように平然としている。


 そして、関西弁と爽やかな笑顔でこう言った。


「荷物、重かったやろ? 一方、わいが持っていくから貸してみぃ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る