第8話

「そうね。……私の使い魔になってくれたら、消してあげてもいいわよ」

「使い魔って、あの、魔法使いの子分みたいな奴のこと?」

「まあ、似たようなものね。良くいえば仕事上のパートナー、悪くいえばパシリってとこかしら」

 こいつのパシリになったら、すごくこき使われそう。

「私が黒魔導師としての新たな一歩を踏み出すのに、あなたの力が必要なのよ」

 おれの力がねえ……。

 昔から、この手の言葉には弱かった。

「良くいえば、仕事のパートナーなんだな?」

「そうよ」

 ここはプラス思考だ。

「いいよ。……お前の使い魔になってやる」

 不思議なことに、言葉が自然と出てきた。

「決まりね。……では早速、契約の儀式をしましょう」

 白鳥は、何やら楽しそうだ。黒魔導師としてのスキルアップがよっぽど嬉しかったのだろうか。

「……契約って、一体、何をするんだ?」

「あなたが私のために、一生使い魔として働くという……」

 ん? 一生?

「ちょ、ちょっと待て。おれは一生、お前の使い魔なのかっ⁉」

「当たり前でしょう。あなた、その程度の覚悟もなしで、使い魔になるなんて言ったのかしら。……でも、一度決めたからには、やっぱり止めたなんて許さないわよ」

 そこまでの覚悟なんて、全然なかった。

 そこまで深く考えていなかった。

 おれの気持ちを無視して、白鳥は勝手に話を進めていく。

「じゃあ、契約の儀式の準備をするわ。……まあ、あなたは何もしなくてよいけれど」

 そう言って、白鳥はそこら辺に落ちていた手頃な木の枝を使って円を描き、その中に変な模様を描いた。

「この円の中に入りなさい」

 おれは、白鳥に言われるままに円の中に入った。

「利き手を出しなさい」

 おれは、右手を白鳥に差し出した。

 白鳥は、おれの手の甲によく分からない模様を油性ペンで描いた。幾何学模様が何重かしているようだ。

 それから、白鳥はおれの右手を両手で包み込み、目を閉じて、呪文のような言葉を唱えた。

 呪文を唱え終えると、白鳥はおれの手をパッと離した。

「……契約終了よ」

「意外と早く終わるもんだな」

 あんな短い時間で一生の契約をするのか。

「手の印が消えた後でも、契約はあなたの身体に染み付いているから、なくならないわよ」

 そして、白鳥がとどめとばかりに言い放った。本当の黒魔導師のような少し意地の悪い笑みで。


「これから、一生よろしくね、高村秀君……。」


 その言葉が呪いのように、おれの耳に残った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る