行動力
冬休みが終わり、私たちは新年初の学校に向かっていた。
いつもと変わらない道だが、一つだけ冬休み前と変わったことがある。
それは愛華と一緒に登校しているという点だ。朝起きて朝食を済ませた後、制服に着替えて玄関に向かったのだが、その時に愛華が私のことを待っていてくれた。
「おはよ、愛那。一緒に行こう」
「うん」
二人で家を出た私たちは、慣れ親しんだ道を並んで歩く。
それだけで私は嬉しくなってしまい、いつもよりも幸せな気持ちで胸がいっぱいになる。
「一緒に登校するの久しぶりだね」
「そうだね。帰りも一緒に帰れる?」
「今日はバイトもないから大丈夫だよ」
「なら教室に迎えにいくね」
「分かった」
放課後、一緒に帰る約束をしながら歩いていると、あっという間に学校へと着いてしまった。
「愛那!と…愛華?」
すると、後ろから優香の声がしたので振り返ると、少し驚いた顔をした彼女が立っていた。
しかし、すぐに鋭い目つきに変わると、私の方に近づいてきて腕を強く引く。
「愛華。愛那に何の用だ」
「何の用って…一緒に登校しただけだよ?」
「…は?」
優香は愛華の答えを聞くと、本当かと尋ねるように私の方を見てくる。
私はそれに対してこくりと頷くと、優香はまた愛華の方に顔を向けた。
「どういうつもりだ。また愛那を傷つけるつもりか」
「もうそんなことしないよ。私は自分の気持ちと向き合うって決めたんだ」
「それってどういう…」
愛華は優香の言葉を遮るように私に近づくと、少し周りを確認してからギュッと抱きしめる。
「こういうこと。これからはライバルだからよろしくね」
優香はさっき以上に驚いたのか、それ以上言葉を発することはなく、愛華は「またね」と言って教室へと向かっていった。
「…いや、は?どういう事だ。冬休みの間に何があったんだよ。ようやく強敵がいなくなったと思ったのに戻ってくるなんて。けど、さすがに今の関係は私の方が進んでるはずだし、まだ大丈夫なはず。いやでも…」
愛華がいなくなると、優香は下を向きながら爪を噛んで何やらぶつぶつと呟いている。
「大丈夫?」
心配になった私は彼女に声をかけるが、しばらく返事が返ってくることは無かった。
そんな彼女をここに置いていくのも申し訳なかったので、優香の意識が戻るまで待っていると、急に顔を上げた彼女は少し私を睨みながら状況説明を求めてくる。
「どういうことか説明しろ」
「わ、わかった。でも、とりあえず教室に行かない?」
「あぁ」
というわけで、怒り気味の優香と一緒に教室に来た私たちは、席に着くとさっそく愛華のことについて聞かれる。
「それで。あれはどういうことだ」
改めて尋ねられた私は、冬休み中に愛華の心の傷に触れたこと、旅行中に愛華と両親の間にあったこと、そして愛華と二人で話し合ったことを説明した。
「…状況は分かった。なら、愛那は愛華と付き合うのか?」
「それはまだ分からない。自分勝手なことは分かってるけど、それでも今は愛華だけじゃ無くて、優香や寧々さん、瑠花先輩も大切だから、もう少し考えたいと思ってる」
「そうか。…なら、まだ可能性はあるな」
私の答えを聞いた優香は少し考える素振りを見せると、覚悟のこもった瞳を向けてくる。
「わかった。とりあえず今はそれでいい。ただ、私もこれからはもっと攻めことにしたからな。よろしく」
優香はそう言うと、私から視線を外して前を向く。
(瑠花先輩に続いて優香まで…私もそろそろ前に進まないと)
二人の覚悟に当てられた私は、自身も前に進むことを決意し、そのために行動することに決めたのであった。
始業式や午前の授業が終わりお昼休みになると、私と優香はいつものように向かい合ってお昼を食べる準備をしていた。
「愛那」
すると、この教室には本来いないはずの瑠花先輩がやってきて、私の名前を呼ぶ。
「瑠花先輩?」
「一緒にお昼食べよ」
瑠花先輩はそう言うと、空いていた隣の席に座って机にパンやおにぎりを置く。
「いや、なんで望月先輩がいるんだよ。それとちゃっかり座るな」
「あなたには関係ない。嫌ならあなたがどっかいって」
「は?」
「ん?」
二人はいつものように言い合いを始めると、火花を幻視しそうなほど睨み合う。
そんな二人を止めようと声をかけようとした時、突然後ろから誰かに抱きしめられた。
「あーいな」
「え、愛華?」
抱きしめられながら首だけを動かして後ろを振り返ると、そこにはお弁当を片手に笑顔の愛華がいた。
「へへ。一緒にお昼を食べるために来ちゃった」
そう言って笑う愛華は可愛かったが、今この場でのそれは悪手だった。
「チッ。やっぱり愛華が最大の敵か」
「これは強敵。もっと攻めないと」
瑠花先輩が何やら不穏なことを言っていた気がするが、愛華は私から離れると瑠花先輩の向かい側に座った。
これで4人で円を作るように座ったわけだが、優香と瑠花先輩は愛華のことをキッと睨みつけていた。
「朝ぶりだね、優香。あと、ちゃんと話すのは初めてですね、望月先輩」
「あぁ。別に私は会いたく無かったんだけどな」
「ん。そうだね。よろしく、愛華さん。それで、何の用」
「用事ですか?それはもちろん、私の愛那と一緒にご飯を食べに来たんですよ?」
「は?」
「ん?」
「あ?」
愛華が私のという部分を強調して言うと、優香と瑠花先輩の雰囲気が一気に悪くなる。
(てか、愛華ってあんなドスの聞いた声出せたんだ)
何だか場の雰囲気が悪くなりつつあったので、私は「早く食べましょう」と言ってお昼を食べ始める。
(これ、私が悪いんだろうか。いや、そうなんだろうけど。でも…何だかなぁー)
出来ればみんなには仲良くしてもらいたいが、原因が私にある以上、余計なことは言えない。
「それで…」
どうしたものかと考えながらお昼を食べていると、瑠花先輩が食べていた手を止めて愛華に話を振る。
「愛華さんは私たちの敵になるの?これまで愛那から逃げてきたあなたが」
「そうですね。私はこれまで愛那からも自分の気持ちからも逃げてきました。それで愛那がどれほど傷ついたか、その全て理解しているとは口が裂けても言えません。
ただ、優香や望月先輩。そしてもう一人の女性の三人と愛那が仲良くなり、私のもとから離れていくのを嫌だと思いました。
愛那が私以外の誰かのものになるのを許せないと感じました。
だから私はもう逃げません。たとて望み通りにならなくても、あなた達に負けるつもりはありませんから」
愛華の宣戦布告とも取れる言葉を聞いた優香と瑠花先輩は、互いに視線を合わせて頷くと、ニヤリと不敵に笑った。
「受けて立つ。愛那を私から取れるものなら頑張るといい。私も負けない」
「愛華には悪いが、私もこの気持ちを諦めるつもりはない。昔は応援していたが、今は違う。私が愛那をいただくからな」
何だか話の方向性がおかしなことになっているが、あくまで決めるのは私のはずだ。
なのにこの三人の会話には、私の気持ちが考慮されていない気がするのは気のせいだろうか。
(なんか、肉食獣が一つの餌を巡って争ってるみたい)
さながら、私はライオンの檻に入れられたうさぎだろうかと現実逃避をしながら、私はもう一人の女性のことを考える。
(寧々さんにあって癒されたい)
寧々さんはこの三人とは違って純粋なので、きっと私のことを癒してくれるだろう。
その後、何故か始まった私の小さい頃や家に泊まりにいった時の自慢話で盛り上がる三人を眺めながら、私は昼食を食べ進めるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
よければこちらの作品もよろしくお願いします。
『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』
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