再会
翌朝。朝食を食べにダイニングに向かうと、そこには既に起きて朝食を食べに来ていた愛華がいた。
「あ、おはよ愛那」
「おはよう」
私が椅子を引いて愛華の横に座ると、お母さんが私の前に朝食を置いてくれた。
(いつぶりだろ。愛華と一緒にご飯を食べるの)
こうして一緒にご飯を食べると、改めて昨日のことが嘘じゃなかったんだと実感でき、嬉し気持ちで胸がいっぱいになる。
「あ、愛那。ご飯ついてるよ」
「ん。…とれた?」
「まだだよ。取ってあげる」
愛華はそう言うと、私の口元に手を伸ばしてご飯粒を取ると、それを当たり前のように自分の口に入れた。
(ありきたりだけど、実際にやられると恥ずかしいな)
「取れたよ」
「ありがとう」
「二人とも朝からいちゃつかないの。早くご飯食べなさい」
一連の流れを見ていたお母さんは、少しニマニマしながらそんな事を言ってきた。
せめて注意するなら、その顔だけはやめて欲しいものである。
「あ、愛那は今日は何するの?」
ご飯を食べ終えた私たちは、リビングにあるソファーに座って寛いでいると、愛華が今日の予定について尋ねてくる。
「今日は特に予定はないかな。アルバイトは明後日からだし」
「なら、今日は一緒に家でまったりしない?お互い旅行から帰ってきたばかりだし。
私も愛那の旅行中の話聞きたいし」
「わかった。いいよ」
「ありがと」
私としても、旅行の疲れはまだ残っていたし、今は愛華と久しぶりに一緒にいられるこの時間が楽しかったので、彼女の誘いを断る理由はなかった。
それからは、これまですれ違っていた時間を埋めるかのようにたくさん話、ゲームをしたり一緒にお昼寝をしたりして過ごした。
「そういえばさ、愛那の大切な人って優香と高校の先輩とバイト先の先輩の三人だよね?」
「よく知ってるね。そうだよ」
「実際、どこまでやったの?」
「ブフッ!ごぼっ…ごほっ!」
「だ、大丈夫?」
愛華の突然の質問に驚いてしまった私は、飲み物を飲んでいたせいで咽せてしまった。
「そ、それって…どう言う意味」
「そのままの意味だよ。手は繋いだのか、キスはしたのか、さらにその先もしたのかってこと。で、どうなの?」
「…ゆ、優香と高校の先輩は最後までした。バイト先の先輩はキスまでは…」
嘘をついても良かったのだが、愛華の瞳には嘘を許さないという感情がこもっており、私は仕方なく素直に答えた。
「なるほどね…」
私の答えを聞いた愛華は、少し考える素振りをすると、私と視線を合わせてくる。
「な、なに」
「愛那って、すごく綺麗になったよね。ピアスもよく似合ってるし、染めた髪も綺麗だよ。それに肌もすべすべだし、この唇も柔らかそう」
愛華は突然私のことを褒め出し、伸ばした手を頬に触れさせると、そのまま親指で私の唇をなぞる。
そして、今度は頬から手を離すと、突然私の目を手のひらで覆って隠してきた。
「なにして…んぐっ」
何をしているのか尋ねようとした時、私の唇に柔らかいものが押し付けられた。
それはこれまで、優香や瑠花先輩、そして寧々さんと何度もやってきた行為であり、愛華とは初めてやる行為だった。
目隠しが外されると、愛華が少し顔を赤くしているのが目に入る。
「一応言っておくけど、初めてだからね。これで私も、スタートラインに立てたよね。…ごめん、私部屋に戻るよ」
愛華はソファーから立ち上がると、少し慌てながらリビングを出て行った。
残された私は少しずつ状況を理解していき、それと同時に顔が一気に熱を持ち鼓動が早くなる。
「やばい。愛華にキスされるなんて思ってなかった。嬉しすぎる」
その後、気持ちが落ち着くまでリビングにいた私だったが、気がつけば出かけていたはずのお母さんが家に帰ってきていたのであった。
愛華とキスをした日から二日後。私は新年初のアルバイトに来ていた。
この二日間、家での私と愛華の間には少しだけ気まずい雰囲気があった。
しかし、そこには以前のような険悪さなどはなく、ただあの日のことがお互いに恥ずかしくてどう接したら良いのか分からないといった感じだった。
「はぁ」
「よ!愛那!あけおめ!」
「あ、寧々さん。あけましておめでとうございます」
「ため息ついてどうしたんだ?」
「いえ、ちょっと考え事を」
愛華とのことを寧々さんに伝えるわけにはいかないので、何でもないと言って誤魔化す。
「あ。そうだ寧々さん」
「ん?どした?」
「今日のバイトが終わった後って、何か用事はありますか?」
「いや、無いけど」
「なら、一緒に帰りませんか?お土産を買ってきたんです」
「本当か!?わかった!一緒に帰ろう!」
寧々さんは私の誘いを受けると、嬉しそうに支度をして店内へと向かって行った。
私も着替えを済ませると、彩葉さんや他の人たちにも挨拶をしてから仕事を行なっていくのであった。
アルバイトが終わった私と寧々さんは、お店を出てから近くのファミレスに寄って休んでいた。
「寧々さん、こちらお土産です」
「わぁ!ありがとう!」
私が寧々さんに買ってきたのは、和菓子の詰め合わせだった。
花の形や雪の形、あとは動物の形をしたものなど、寧々さんが好きそうな可愛い作りのものがたくさん入ったものだった。
「寧々さんが好きそうな可愛いものがたくさんあったので買ってきました」
「すごく嬉しいよ!どれも可愛くて食べるのがもったいないくらいだ」
寧々さんは本当に嬉しそうに受け取ってくれたので、買ってきて良かったと心の底から思えた。
それからは、私の旅行の話や寧々さんの冬休み中の話を聞きながら楽しく過ごしていると、一人の女の子が私たちの方へと近づいてきた。
「あれ?寧々先輩?」
寧々さんが呼ばれた方へと顔を向けたので、私もそちらに視線を向けると、私と同い年くらいの女の子がこちらを見て立っていた。
「やっぱり!寧々先輩だ!お久しぶりですね!」
「舞香…」
寧々さんが呟いた名前に心当たりがあった私は、じっと彼女のことを見る。
「はい、本当にお久しぶりですね!寧々先輩!先輩が高校を卒業して以来ですから、一年ぶりくらいですかね?お元気でしたか?」
「う、うん。まぁ…」
彼女の名前は
つまり、寧々さんの心に消えない傷をつけた張本人である。
「わぁ!先輩、髪伸ばしたんですね!似合ってます!でもー、私的には以前の短かった先輩もカッコよくて好きでしたよ!」
「あ、はは。そっか。ありがとう」
寧々さんは笑いながらお礼を言っているが、彼女が無理をしているのはすぐに分かった。
それに、寧々さんのことを何も知らないこの女が、また彼女を傷つけてしまいそうな気がして、私はすぐに会話に混ざった。
「すみません。寧々さんの知り合いですか?」
「あ、お連れがいたんですね。初めまして、広瀬舞香っていいます。寧々先輩とは同じ高校だったんですよ」
「そうなんですね。私は姫崎愛那です。寧々さんとは同じバイト先でお世話になってます。それで、うちの寧々さんに何かようですか?」
私が「うちの」という部分を強調していうと、舞香さんは何かを察してハッとした表情に変わる。
「もしかして!寧々先輩の新しい彼女さんですか?いいですねぇ。寧々先輩はカッコいいから、惚れちゃうのもわかります!」
「そうですね。寧々さんはとても可愛い人なので、一緒にいてとても癒されますよ」
「ふーん」
舞香さんのカッコいいという言葉に対し、私が可愛いと返したことが気になったのか、彼女は少しだけ目を細めて私のことを見てくる。
しかし、すぐに笑顔に戻ると、「私はお邪魔なようなのでもう行きますね!」と言って去って行った。
(性格悪そうな人だな。私の苦手なタイプかも)
私が舞香さんの歩いていった方をじっと眺めていると、突然テーブルの上に置いていた手が握られる。
「愛那。その…ありがと」
「いえ、気にしないでください。私が気に食わなかっただけですから」
「でも…」
「大丈夫ですよ。ただ、寧々さんのことを何も知ろうとしないで、理想だけを押し付けてくるあの態度がムカついただけですから」
あの人のせいで寧々さんは恋愛に対して恐怖するようになった。そして、可愛いものが好きだという自分を偽り、カッコよくあろうと人の目を気にするようになってしまった。
あの人だけは、何があっても私は許せそうにない。
その後、少し空気も悪くなってしまったため、私たちはファミレスを出ると、とくに寄り道をせずにお互い家へと帰るのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
よければこちらの作品もよろしくお願いします。
『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』
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