デートの日
『あはは!愛那!こっちだよ!』
『ま、まって愛華!』
私は今、懐かしい夢を見ている。それはずっと小さい頃。まだ私と愛華の仲が良く、二人で遊んでいた頃の夢だ。
『みて、愛那!このお花綺麗だね!』
『そうだね。すごく綺麗だね』
家族との旅行で父方の祖父母の家に遊びに行った時、私と愛華は綺麗なお花畑を見つけた。
祖父母の家は田舎の方にあるため、こういった綺麗な場所はたくさんあった。
『この花冠、愛那にあげるね!』
『ありがと、愛華!じゃあこっちの花冠は愛華にあげるね!』
私たちはお互いに作った少し不恰好な花冠をお互いの頭に乗せ合う。
『可愛いよ愛那!』
『可愛いね愛華!』
『大人になったら結構しようね、愛華!』
『うん!絶対愛那と結婚する!』
将来を誓い合った私たちは、ドラマで見た結婚式のようにお花で作った指輪を交換する。
同じ髪型、同じ顔。私の大切で大好きな片割れ。この時はお互い何も知らず、自分たちの気持ちにも正直だった。
こんな幸せな時間が、これからもずっと続いていくのだと思っていた。
どれくらいの時間寝ていたのかは分からないが、私はチャイムの音で目を覚ました。
周りを見てみると、まだ私は屋上に続く踊り場におり、壁を背にして座っていた。
(そっか。寝ちゃったのか)
今日は珍しく早く起きたせいか、知らず知らずのうちに眠ってしまったらしい。
横を見てみると、私の肩に頭を預けて瑠花先輩も眠っていた。
(疲れてたんだろうな)
彼女は今朝、父親から帰ってくると連絡があったと言っていた。
そのせいでずっと気を張っていて、疲れてしまったのだろう。
私は彼女を起こさないように気をつけながら、頬にかかった髪を耳にかけてあげる。
(今何時だろ)
近くに置いてあるカバンからスマホを取り出して時間を確認すると、ちょうど二時間目の授業が終わった頃だった。
「…んん。愛那?」
「あ、起こしちゃいましたか?」
「大丈夫」
瑠花先輩はまだ眠いのか、目を擦りながら少しだけふらふらと揺れている。
「さっき二時間目が終わったみたいなので、そろそろ行きますか?」
「そうだね」
私が声をかけると、瑠花先輩がゆっくりと立ち上がり、近くに置いていたカバンを手に持った。
「愛那。教室に戻る前にキスして」
「わかりました」
父親の件で昔のことを思い出したせいか、瑠花先輩は私に甘えてきた。
そんな彼女も可愛かったので、私は迷わず了承すると、彼女の唇にキスをした。
休み時間が終わる少し前に教室に入ると、頬杖をついて暇そうにしている優香が目に入った。
私が優香の方は近づいていくと、彼女も私に気づいたのかこちらに顔を向けて来た。
そして少しだけ驚くと、今度は呆れた表情で私のことを見てくる。
「随分な重役登校ですな?」
「あはは、ごめんね?」
「はぁ、まぁいいよ。…んで?どこでなにしてたん?」
「屋上の踊り場で瑠花先輩と寝てた」
「……は?」
聞かれた通り素直に答えたのだが、状況がよく理解できないのか、優香はすこし間抜けな顔をしていた。
そんな彼女の珍しい表情が面白くて、私は優香の両頬に手を当てて軽く引っ張る。
「い、いひゃい。はにふるんだよ」
「ふふ。面白い顔してたから」
しばらく優香の頬の柔らかさを堪能した後、彼女は私の手が離れた頬を自分で揉みながら軽く睨んでくる。
「…チッ。それより、なんであの人とそんな所で寝てたんだよ」
「今日は早く起きたから学校にも早く来たんだけど、その時に瑠花先輩を見かけてね。
ついて行ったら踊り場について、二人で話してるうちに寝ちゃった」
瑠花先輩の事情を勝手に話すことはできないので、ざっくりとした説明だけをした。
優香はそれだけで私がこれ以上話す気がないことを察したのか、「ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向く。
少し拗ねた様子の優香に声をかけようとした時、ちょうど授業の始まりを知らせるチャイムがなったので、私は仕方なく自分の席に座った。
お昼休みになっても優香の機嫌は治らなかったが、それでもいつものように私の対面でお弁当を食べる準備をしていた。
私は流石に今のままでは良くないと思ったので、改めて優香に話しかけた。
「優香、ごめんね?でも、誰しも話したくないことはあるだろうし、ましてや他人のことなんだから私が話せないのは分かるでしょ?」
私が言っていることが理解できたのか、それでも少しだけ拗ねた様子で優香は答えてくれる。
「…わかってる。私だって話したくないことはあるからわかってるけど。…でも、私だって愛那が好きなんだから、嫉妬するのは仕方ないだろ」
優香の気持ちを聞いて、自分の行動が少し軽率だったことに気づいた。
確かに、いくら私と瑠花先輩の関係を知っていると言っても、そのことに何も感じないということはないだろう。
それに、明らかに二人だけの秘密があって、仲が良いことをアピールされれば嫌な気持ちにもなってしまう。
「ごめん。そうだね。今回は私が悪かったね」
「いいよ。その代わり、今度泊まりに来た時はたくさん甘えさせて」
「わかった。優香の気が済むまでいいよ」
私の答えを聞いて満足したのか、優香は少しだけ機嫌が戻り、私たちはいつものようにお昼を食べるのであった。
それからの日々は特に問題もなく、瑠花先輩や寧々さん、優香の三人といつものように楽しい時間を過ごすことができた。
愛華はあの日以来また私のことを避けるようになり、今は話しかけてくることも無くなったが、たまに愛華からの視線は感じている。
そんな感じで一週間を過ごし、優香と遊ぶ約束をした土曜日になった。
待ち合わせは11時に駅前で、そこから電車で移動して優香の考えたデートプランで遊びにいく予定だ。
「そう言えば、前に恋人として扱って欲しいってお願いされたな。
よし、どうしたらいいのかは分からないけど、私なりに頑張ろう」
気合いを入れた私は、優香を待たせないためにも早めに準備を済ませ、お母さんに出かけることを伝えてから家を出た。
待ち合わせ場所の駅前に着いて時間を確認すると、まだ15分前だった。
周りを見渡してみてもまだ優香の姿は見当たらなかったので、前に優香とお茶をしたカフェの前で待つことにした。
それから5分ほど待っていると、優香からメッセージが来たので確認してみる。
『着いた。今どこにいる?』
どうやら私がまだ来ていないと思っているのか、確認のため連絡してきたようだ。
『前に会ったカフェの前にいるよ』
『すぐ行く』
今いる駅はそこまで広くはないので、少し待っていると優香がこちらに歩いてくるのが見えた。
「おはよ。今日は早いんだな」
優香は少し驚いた顔でそう言うと、今度は待たせてしまったかもしれないと不安そうな顔になる。
「おはよ。そんなに待ってないから大丈夫だよ。それに…」
私はそこで言葉を区切り、優香の耳元に顔を近づけて優しく囁きかける。
「恋人を待たせるわけには行かないからね」
「お、お前。約束覚えててくれたのか」
優香は顔を赤らめて恥ずかしそうにそう言うと、一歩下がって距離を取ってきた。
だから私は逆に一歩踏み込み、優香を逃さないために距離を詰めると、腰に腕を回して抱き寄せる。
「今日は恋人なんだから、そんなに離れないでよ」
「っ…!!わ、わかった。わかったら一度離れてくれ」
さすがに駅ということもあり、人目を気にしたのか優香は恥ずかしがりながら訴えてくる。
これ以上は時間も勿体無かったので、言われた通りに腕を離して距離を置いた。
「お前、恥ずかしくないのかよ」
優香は何度か深呼吸をして落ち着くと、私のことを見上げながら尋ねてくる。
「でも、この間は優香からここでキスしてきたよね?」
「くっ。たし…かに。それを言われると何も言えない」
先日、自分が私よりも大胆なことをしていた事に気付いたのか、言葉を詰まらせながら視線を逸らした。
「まぁ、とにかくそういうわけで、今日は優香とたくさんイチャつくからよらしくね」
「あ、あぁ。よろしく頼む」
こう言ってはなんだが、恥ずかしがる優香を見るのは楽しいし、何より可愛いので私としても今日のデートはとても楽しみだ。
「さて、それじゃ行こうか?優香の考えたデートプラン、楽しみにしてるね」
「それは任せな!」
調子を取り戻した優香と私は、いつものように腕を組み、デートをするため街の方へと向かうのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
よければこちらの作品もよろしくお願いします。
『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』
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