雨が止むまで

かつどん

雨が止むまで

僕は電車を降り改札を抜け、駅の南口へ向かう。


雨が降っていた。


傘をさす人並み、いつもより大通りも車が多い。


天気予報では雨は降らないはずだったんだけどな。


さほど強い雨では無かったが、駅から自宅までの距離ではスーツも書類も濡れてしまう。


傘は持っていなかった。


「はぁ・・・」


ついてないな。


天気予報を調べると、どうやら雨は思ったよりもすぐに止むとの事だ。


周りにも同じように雨が止むのを待ってる人がいた。


僕も雨が止むのを待つことにした。


携帯をいじって数分ほどがたった時だった。


・・・ん?


いつの間にか僕の隣に女の人が立っていた。


傘を持っておらず、僕と同じようにスマホをいじっていた。恐らくこの人も雨宿りだろう。


なんとなく、女の人の顔が目に入った。


僕はその人の顔を見て、心臓が騒いだ。


彼女だ・・・


隣に現れた人は僕の片思いの相手だった。



高校に入学してすぐ、春頃だった。


僕と彼女は席が近かった。


ある日偶然、彼女の鼻唄を聞いた。


それはとても綺麗だった。


そして何より、僕が好きな歌。


僕が彼女を好きになるには、それだけで十分な理由だった。


僕の通っていた高校はクラス替えがなく、彼女とは3年間同じクラスだった。


しかし、高校生活はあっという間で、結局僕は何も伝えること無く、高校を卒業してしまった。



大人になって就職もして、時間が経っているのにも関わらず心が騒がしくなる。


僕はあの頃から、ずっと彼女が好きだった。


いつからか、ふとした時に考えるようになっていた。


彼女は今何をしているのだろう。


誰かを想っているのだろうか。


彼女も多分働いていていろんな経験や出会いをしているんだろうな。


そんな中でも、一瞬でも自分の事を考えてくれたりしないだろうか。


こんな想い、自分でも気持ち悪いなと思う。


でもすごく胸が痛かった。


僕はどうしたいのか分からない。


この想いを伝えたいのか、伝えたとしてどうしたいのか。


時間だけが過ぎ、大人になった僕は結局あの頃のままだった。


彼女は今、誰かを想っているのだろうか。


胸が痛い。胸が、痛い。



あ・・・


そんな想いを巡らせていると、彼女と一瞬目が合ってしまった。


僕は慌てて目を逸らす。


心臓がさらに騒がしい。


人の足音、雨音が鮮明に聞こえる。


僕に気付いただろうか。


僕は気付いて欲しかったのだろうか。


分からない。


・・・嘘だ本当は自分でも分かってる。


多分、僕はこの想いを伝えるのが怖いだけだ。


本当は分かってる。


でも、もう、想いを伝えるには時間が経ちすぎた。


・・・胸が痛い。


僕は待つのをやめ、彼女を横目に駅を出て走った。


どうせこの雨はすぐに止むはずだから。

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