第6話

 思わずトウバの顔を抱きしめたシルファヒンだが、

(こ、こ、これからどうしよう)

 動揺しまくっていた。


「……あの」


「は、はい」


「話しを聞いてくれて、少し気が楽になりました」


「はい」


「もう少しこのままでいいですか」


「……はい」

  

「シルファヒン様」


「”シル”でいいわ。シルと呼びなさい」


 シルファヒンから顔を離しながら

「では私のことも”トウバ”と」

 

「トウバ、これから何かあったら私に言いなさい」

「……話くらいは聞いてさしあげますわ」

 プイっと真っ赤な顔を横に向けながら言った。


「シル様、今回はありがとうございました」

 答えたトウバの顔も少し赤かった。



 次の日、エクセリオンのクルー三人は、レンマ王国の外交部に来ていた。

 これから、どうするかを話し合うためである。


「エクセリオンのジェットは、ここにはないの?」


「シルファヒン様~、姿勢制御用のジェットは一点物の特注品ですよ~」


 エクセリオンの魔術式ジェットは、レンマ王国の、”カティサーク工廠”製を輸入して使っている。

 術式ジェットのプロトタイプから付き合いのある隣国、”ハナゾノ帝国”。

 そこにある、”魔術学園”と協同開発された魔術式ジェットは他国では製造は無理だ。


「一から作るとなると、確か一年くらいかかりますよ~」


「また曳航してもらう?」


「シルルートまでですか~」

「空賊が出る渓谷を飛ぶのは無理ですよ~」


「シルルートまで送るだけなら、王国から船を出しますが」

 外交部の係官が言う。


 シルファヒンは、キバの「シルルートまで送りましょうか」というセリフが頭をよぎってゾッとした。


「コホン、一つ名案があります」

 わざとらしく咳をしながら、

「えーと、ほら、ここまで送ってもらった艦、なんとおっしゃいましたっけ」


「ミナヅキですか」


「それです、ミナヅキにシルルートまで送ってもらえばいいのです」

「どのみちシルン地方には帰るのでしょう」


「はあ」


「セバス、ジェットの予備は?」


「シルルート本国には予備がありますね」


「さらに、ミナヅキに予備のジェットを乗せて、カラツ空軍基地まで帰ってくればいいのです」

「乗りますわよね」


「ミナヅキのペイロードなら余裕です~」


「ミナヅキのゆったりした旅が気に入ったのです。 いいですか、気に入ったのです」

 シルファヒンが必死だ。


 結局、飛行艦の小型高速化が進んだ結果、生活施設の充実した輸送艦は存在せず、一番楽な案として採用されることになる。

 


 出発の日、レンマ王国の親書を持ったシルファヒン一行はミナヅキに乗っていた。

 艦長席の斜め後ろの椅子にシルファヒンは、座っている。


 王都の飛行艦発着場である。


「シル様。発艦します」

 トウバが言う。


「発艦用意」


「発艦用意」


「ヘリウムガスを規定量に戻すことを管制に知らせろ」


「知らせます」

 術式を利用したヘリウムガス発生装置で規定量になるまで10分くらいかかる。


「10分くらいかかります」

 シルファヒンに伝える。


 外を見ると、二つ向こうの発着場に青色の飛行艦が止まっている。


 白雲しらくも級飛行艦、”雷雲かみなりくも


 ”エクセリオン”よりも一回り小さい小型艦。

 王立工廠製の特徴である直方体の艦体に、後部の上方に2機、姿勢制御用に左右に縦に2機、魔術式ジェットが装備されている。

 上部の丸く盛り上がった所が、ブリッジで丸いガラス窓が複数空いている。

 

 第二王子、キバ・レンマの専用艦だ。


「速度はエクセリオンが上ですが、小回りはあちらが上ですね~」

 ブリッジから出てすぐのところにあるウイングデッキから、メルル―テが言った。

 

 ヘリウムガスが規定量に達した。

 軽く地面についていた艦底が完全に浮く。


「もやいを外せ」


「外します」


「管制に発艦許可を申請」


「こちら、カラツ基地所属、ミナヅキ。 発艦を許可されたし」


「こちら、管制、発艦を許可します、良い航海を」


「ありがとう」


「微速後退」


「微速後退」


 艦が屋根付きの発着場から完全に出てから、その場で上昇。

 サイドスラスターを使い、その場で艦を回転させカラツ空軍基地を目指して出発した。

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