辺境でロートル飛行艦の艦長をしていたら、隣国のハーフエルフの王女が頬を染めて、何かと絡んでくるのだが。

touhu・kinugosi

第一章、隣国のハーフエルフの王女が頬を染めて、何かと絡んでくるのだが。

第1話

 大型の飛行艦が、空を飛んでいる。


「艦長。コーヒーをどうぞ」

 乗組員から、コーヒーを手渡される。 


「ありがとう」

 艦長席に座った、二十代半ばの男がコーヒーを受け取った。


  男の名は、”トウバ・ゲッコウ”。


 レンマ王国、元第三王子。

 ある事情から、”王籍”をはく奪されている。 

 レンマ王国空軍所属、ムツキ級飛竜空母、”ミナヅキ”艦長。

 階級、少佐。

 これが今の自分の肩書だ。


「異常があったら教えてくれ」

 煙草を吸うために、ブリッジ横の外部廊下に出た。



 ムツキ級飛竜空母、”ミナヅキ”



 艦体の横に、ティルトローター方式のレシプロ(プロペラ)推進器が4つ。

 艦体後部に、固定式のレシプロ推進器が4つ。


 (大きさは大型のフェリーくらい)


 上部には、飛竜用の”竜舎”と”飛行甲板”を備える。 

 今や“魔術式ジェット”が主流の中、完全に時代遅れ(ロートル)の大型レシプロ|(プロペラ)飛行艦。

 飛竜空母とは言うものの、正規の竜騎士は載せていない。

 最近は、行商人の飛竜をたまに乗せるくらいである。


 ゆったりと回るプロペラを見ながら煙草の煙を吐いた。

 なだらかな田園地帯をゆっくりと飛ぶ。


 ここは、”シルン地方”。

 レンマ王国の南東の端にある辺境地である。

 巡回先である”サイの村”が見えてきた。

 ”サイの村”は一週間ぶりだ。

 一週間に一回、僻地にある村々を巡回するのである。

 艦を、村の近くに着艦させた。

 許可を得た行商人が同行しているので、村人総出で歓迎してくれる。


「トウバ艦長、これみんなで食べて」

 村の元気なおばちゃんが、沢山野菜の入った箱を渡してくれる。


「ありがとう。 特に異常は?」


「ないよ~」


「何か困ったことがあったら言ってくれよ」


 自分は、こういう穏やかな日々が、結構気に入っている。


 ◆


 白い流線型をした飛行艦が、空を飛んでいる。


「”シルファヒン”様。紅茶をどうぞ」


 ハーフエルフの初老の男性である”セバスティアン”が、紅茶を差し出す。

 執事服を着ていた。


「ありがとう」

 ブリッジ中央にある、豪華な椅子に座ったハーフエルフの美女が、紅茶を受け取った。


 美女の名は、”シルファヒン・シルルート”。


 シルルート王国の第三王女である。


「少し外の空気が吸いたいわ」

「”ウイングデッキ”を出してちょうだい」

 シルファヒンは、ブリッジの横に移動する。

 飲み終えた紅茶を、セバスに渡した。


 足元まで見えるように、立体的に配置されたガラス窓。

 そこに、飛び出すように椅子と、操縦桿と各種レバーが設置された操縦席。

 操縦席には、侍女服を着た、小柄なハーフエルフの少女が座っている。 


 ”メルル―テ・トライオン”である。


「了解です。今出しま~す」

 ”メルルーテ”が手元のレバーを操作する。


 ブリッジ横の壁が外側に倒れ、”ウイングデッキ”になった。

 倒されていた手すりが起き上がる。 

 シルファヒンの肩までの綺麗な銀髪が、ふわりと風に舞った。


 最新型魔術式ジェット飛行艦”エクセリオン”

 

 少し横につぶれた流水型。

 (”ミナヅキ”の半分くらいの大きさ)

 艦の左右に、縦向きに配置された姿勢制御用の魔術式ジェット4つ。

 後部に推進用の魔術式大型ジェットが4つ。

 蓋つきのエアインテークが前から見て、×字状に膨らんでいる。


 平面がどこにもない、真っ白な美しい艦である。


  今、エクセリオンは、”白眉山脈”をレンマ王国に抜ける渓谷沿いの”山岳ルート”を飛んでいる。

 眼下は一面の雪景色だ。

 3000メトル級の山々が連なる、”白眉山脈”は、飛び越えるより渓谷沿いに抜けたほうが早い。



 そして、エクセリオンは就航したてで、”慣らし飛行”をしている最中だ。



「あら」

 後ろを見ると、渓谷の影から飛行艦が出てきた。

 テンドロディウム級の飛行艦のようだ。


「シルファヒン様。 空賊です。  待ち伏せられました。  無線で停戦せよと繰り返しています」


「型が古いから、軍の払い下げですね〜」


 ブリッジ内部から二人の声がしたその時、空賊の飛行艦の横に設置されたバリスタから、火薬付きの矢が放たれ、エクセリオンの後部に当たった。


ボンッ


 大した被害ではないが、白い船体が一部黒くなっている。


「あ」


「あ」


 シルファヒンがブリッジに飛び込んできた。


「コンバットフォーメーション!!私のエクセリオンに傷をっ」

 

  真ん中にあった豪華な椅子が前に倒れて床と一体化した。

 後ろの壁から、天井から延びるアームに支えられた、足置き付きの椅子が出てくる。

 その椅子にシルファヒンが座り、ハーネスをつける。


「起動」

 シルファヒンが言うと、足元にある”アマリリス方式”の集中魔術式制御盤に、何重にも魔術陣が浮かび上がり、すぐに消える。


「スロットルコントロール渡すわよ」


 これで、メルル―テの左側にある、八つのスロットルレバーで、八つの魔術式ジェットを直接操ることが出来るようになった。


  ブリッジ下のパイルバンカーの銃座に、セバスティアンが入る。


「パイルバンカーからワイヤーを外します」


  左右前部に二個パイルバンカー発射口がある。

 ガラス窓があり艦の前が見える。

 中央には、パイルバンカー用のレティクルがあった。


「ラムエッジ出します~」

 操縦席で、侍女服の上に、ハーネスをつけたメルル―テが言う。


 艦体の前に二本、斜めに二本、真横に二本、ラムアタック用の杭が出る。


  エクセリオンは格闘重視の超接近戦仕様なのだ。

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