コスモス

黒川亜美奈

第1話

学校の帰り道、今日も隣には翔くんがいる。


「へへっ美華ちゃん今日もテスト0点だったの?」


「何言ってるの、0点なはずないでしょ」


翔くんは同じクラスの男の子。

いつもなぜか私の隣にいてからかってくる。


しかもそのせいで気づいたら好きな人になっていた。


今では顔を見るだけで、声を聞くだけで、胸がドキドキする。


「へへへっ、美華ちゃんなら100点くらい余裕か」


「はあ」


私は思わず大きなため息をついてしまった。



学校で結構前から続いている人間関係のトラブルのせいで疲れきっていた。


だから今日は翔くんのからかいに構っていられるほどの気力は無かった。


「もしかしてゲームしてたら朝になってたとか?」


反論しようと口を開くけど、何も言葉が出て来なかった。


しばらく私達は喋ることも無く、遊歩道を歩いていた。



突如景色が歪んで足元のバランスを崩した。


真後ろに景色が流れていく。


落ちると思った。


でも恐れていた痛みや衝撃は来なかった。


頭が真っ白になっていた。


私の顔を心配そうに覗き込む姿を見て、彼が支えてくれたのだと理解した。


「ごめん」


気づけば口からはそんな言葉が零れていた。


「今日、何か美華ちゃんおかしいよ」


私を覗き込むその顔は本当に心配しているようだった。


「同じクラスなら知ってるでしょ」


気づけば目からは涙が溢れ出ていた。


私は恥ずかしくて顔を背ける。


「歩ける?」


今度は何かと思った。

早く帰って一人で思い切り泣きたかった。


でも、好きな人のそばに少しでも長くいたいという気持ちの方が強かった。


翔くんは私の腕を掴むと既に歩き出していた。


「私返事してないけど」


「ご、ごめん」


「いいよ、歩けるし」


「じゃあ着いてきて」




少し歩くとそこにはピンクのコスモスが大量に花を咲かせていた。


「すごい、綺麗」


「だろ、ずっと見せたくて」


美しく花開くコスモスを見ていると、自然と明るい気持ちになった。


「ありがとう翔くん」


隣を見たその時だった。


少し強く腕を掴まれて引き寄せられると、

口付けられた。


突然のことに頭が追いつかなかった。


「だ、誰も見てないよね」


私は辺りを見回したけど、誰も人はいなかった。


「美華ちゃん」


急に低い声で呼ばれたから思わず肩を震わせた。


「悩みがあるならいつでも相談してよ」


「え?」


「もしも何かあったら俺が守るから」


再び頭が真っ白になった。


「へへっ、何で顔赤くなってんの?」


「なっ、なってないから」


「お、いつもの美華ちゃんだ」


「でも、ありがとう」


翔くんは返事の代わりに微笑むと、再び唇を近づけてきた。


私は慌てて一歩下がった。


「ちょっと、誰か見てたらどうするの」


「そっか」


「もう、帰るよ」


帰り道、私たちの手はいつの間にか繋がれていた。



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コスモス 黒川亜美奈 @AminaKurokawa

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