転生者と奪われし英雄譚

思春期の老害

転生者の娘

(この数百年で世界は変わった。俺らと見た目は変わらないが、『ちきゅう』という文明の知識を持つ人達がいきなり現れみるみるうちに技術革新がおこり食文化や医療技術。その他の産業も親父が生きていた頃とは全くの別物になった)


 アルシェ・リデルは学校の授業を話半分に聞きつつ窓から見える魔術により建設中の超高層ビルを眺めながら物思いにふける。


(転生者と呼ばれる人間達には別世界への知識とは他に無限の魔力や無数の魔術。地形を変えるほどの魔法力。『特別』誰もが認める最強の力を持っている。俺には前世の知識もないし、どれだけ努力してもきっと追い付かないんだろうなぁ)


「おい!!アルシェ。授業はとっくに終わってるぞ」


「……うぉ!?リューゼか」


 アルシェが授業を上の空で聞いていて終わったことに気づかず友人のリューゼ・ジウスは肩を揺さぶり意識を現実に戻す。


「わ…悪い。少しボーッとしてた」


「少しは真面目に授業をうけろよ」 


「あ…あぁ」


(リューゼはそういうものの。俺達には特別なものなんてない。昔は前世に目覚めるのではないか?と前世ごっことかして遊んだ中だが目覚めることのない俺達には関係ない)


「まだ、前世がないこと気にしてるのか?」


「うっ……」


 リューゼに図星をさされて言葉につまる。特別が欲しい。アルシェは常々思っていた。少し俯いてから顔をあげるとリューゼはニヤニヤと笑っていた。



「知ってるか?今日の放課後に転校生が来るんだぜ?」


「放課後?明日じゃなくて?」


「今日は顔合わせと学校案内だけらしいからな。今日来るのはかなりのビックネームだからな」


 リューゼはそういいながらだらしない笑みを浮かべていた。黙っていればイケメンなのだが、女性の事を浮かべるリューゼはひどくみっともない。


「誰だよ?」


「メリナ・ディアウェン。あのラルラ・ディアウェンの娘だぜ?」


「うぇ!?」


 ラルラ・ディアウェン。前世名『東雲冬理』ディアウェン家にて三男として産まれ、多数の魔導品を開発。地球でガラパゴス携帯と呼ばれるものに似た品や電子ゲーム等を作り民間利用が可能レベルになるまで低コスト開発にも成功している。


 アルシェもリューゼもゲーム○ーブを模した魔法ゲームで遊んだことがある。


「それ、本当なの?」


「マジよ!マジッ!!」


 2人は、まだ見ぬメリナの姿に期待を膨らませている。


~~放課後~~

「明日から一緒に授業を受けるメリナ・ディアウェンです。お願いします」


 教師からの入室の指示を受けて入ってきたのは栗毛のセミロング。転生者の娘と呼ばれ期待を寄せられていたが印象は暗く地味な雰囲気がある。


「あの~父親がラルラ・ディアウェン様ってのは本当ですか?」


「はい、事実です。父親が前世持ちですが娘の私は前世の知識はないので期待されても困ります」


 おそるおそる挙手をして質問をなげかけてくるクラスメイトに対して淡々と返答をしていくメリナ。


(あ……これ転生者が世界に広げた『漫画』でみた展開だ。特別な存在のもとに産まれたが何も特別がなかったみたいなやつ)


 クラスメイトは徐々に教室の空気が重くなるのを感じていた。なんとなくだが、ほとんどの人がアルシェと同じ感想を抱いていた。


 他にもいくつかの質問を終えて解放されたメリナはアルシェの後ろに置かれた空席へ教師に促される。


「放課後はアルシェ。案内を頼むぞ」


「はーい」


  教師からメリナへの学校案内を頼まれ内心めんどうくさがりながらも承諾の返事をする。


 その後、明日の授業などの話を終え教師が退室すると一瞬でクラスメイトはメリナを囲い、教師の前ではしなかった質問を次々としていく。


「ごめんなさい、パパの話は今は……」


 軽く微笑みながらも暗に聞いてほしくない雰囲気を漂わせて断られてしまい、クラスメイトもそれ以降の追及を止め自席へと戻る。


「じゃあ、よろしく」


「うん……」


 そして学校案内を頼まれ一緒に行動をとることになる。

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