こわがりゆうれいうずくまり

あじみうお

-1-

これは、人知れず小さな商店街を救ったのかもしれない、こわがりなゆうれいのお話です。


北の街の商店街のかたすみに、古い空き家がありました。空き家にはいつからか、うずくまりという名前の真っ黒な人の影のようなゆうれいが、住みつくようになりました。

いつどこからきて何のためにそこにいるのかなんてわかるはずもありません。

いつのまにかあらわれて、居心地が悪くなったら消える。だいたいのゆうれいはそんなものだからです。ですから、うずくまりもただじっと、真っ暗な部屋のかたすみにうずくまったまま、長い年月を過ごしていました。


日ぐれも早く月もないある晩のことでした。とつぜん、空き家のとびらに小さな穴があけられて、くの字にまがった金ぞくの棒がさしこまれました。くの字の棒は、器用に動いて空き家のカギをはずしました。

やがて、ぎしっときしんでとびらがあいたかと思うと、黒ずくめの二人組がしのびこんできました。


「どの家も、このくらい簡単にあいてくれれば、世話ないんですけどねえ親分」


「しっ。静かに!」


真っ暗な部屋で、ランタンに明かりをともした二人組は、担いできた大きなふくろからスコップやつるはしや、ロープなんかをとりだしました。


「これでこの商店街はオレ様たちのものですね親分」


二人はにんまり笑ってうなずき合うと、空き家の床板の一部をはがしました。

そう、この二人組は泥棒でした。空き家をねじろに、地下トンネルをほり進めて、商店街じゅうの店をあらし、最後には商店街入口の銀行の金庫から、大金をぬすみ出す計画なのです。

さっそく堀りはじめたところで、子分がふと部屋のすみに目をとめました。


「ひい、あそこになんかいる」


さけぶ子分を親分は小声でどなりつけました。


「大声を出すな!」


親分は子分の指さす部屋のすみをちらりとみました。


「ただの暗闇だ。何もないぞ」


子分は目をこらして、もう一度じっと部屋のすみをみつめました。そこだけやけに暗闇が濃いように思いましたが、何も動く気配はありません。


気をとりなおした泥棒たちは、穴ほりに集中しました。

がらんとしていた空き家の床には、土をつめたふくろが日に日につみかさなっていきました。

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