第5の恐怖

 ドアが激しく開けられた。研究室の中は散らかっている。開けたドアに押されて書類の山が崩れた。真っ暗な部屋の中にカナコが飛び込んでくる。何かにつまずいて、彼女は床に倒れた。広がった書類の上に手を突き、必死に起き上がろうとする。

「先生……先生、いないのですか。先生!」

 カナコは癇声を上げた。

 ここは大学の薬学部の研究室だ。カナコが毒薬の製造を密かに依頼した教授の部屋である。去年、ここに初めて訪れた時も酷く散らかっていて、彼女は積まれた本の山に肘をぶつけて床に専門書を散乱させてしまった。まして今のようにブラインドの隙間から射し込む月光だけが頼りの状況では、何かにつまずいて当然だろう。

 カナコは振り返って、足をぶつけた物を確認した。口から泡を吹いたまま白目を剥いた老人の顔が目に入った。教授の遺体だった。カナコは開口したまま息を飲んでのけ反り、泣き出さんばかりの顔で顎を引いた。彼女の顔の横にヒロシの顔が並ぶ。カナコは視線だけを自分の肩の上に浮かぶ顔に向けた。ヒロシは薄っすらと笑いながら言う。

「僕を殺した奴はみんな呪うって言っただろう?」

 真っ暗な研究棟にカナコの悲鳴が響き渡った。

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