第3の恐怖
カナコは蒼白の顔に汗を浮かせて、森の中の細い道を走っていた。辺りは薄暗くなっている。
ケンジの実家の邸宅から必死に走ってきた彼女の足は棒のようになり、これ以上動かせそうにない。カナコが木に寄り掛かり息を切らしていると、彼女の激しく上下する背中をライトが照らした。振り返ると、向こうから車が近づいてくる音がする。反射的に手をあげたカナコは、必死にその手を振った。カナコの横で止まったタクシーの運転手は眉を強く寄せて、
ドアを開けたタクシーにカナコは急いで乗り込んだ。安堵で涙があふれてきて、振り向いている運転手の顔が
「――街まで……お願いします。とにかく急いで、街まで……」
タクシーは走り始めた。
「お客さん、顔色が悪いですね。どうかされましたか」
「いえ……別に……」
「別にって、この辺で女性が
「み、見たって、何をですか?」
「あのお屋敷の、亡くなられた婦人の幽霊でしょ。この辺では見たって人が多いんですよね。まあ、ほとんど見間違いか嘘でしょうが、お客さんは本物を見てしまったようですね」
「そ、そうなんです。しかも、死んだケンジさん……亡くなられた、あのお屋敷の息子さんの幽霊も見たんです」
「ほう……息子さんの幽霊まで。それは、それは。息子さんもねえ……。それ、結構はっきりと見えましたか」
「え、ええ、まあ……」
「なるほどね。じゃあ、あなた、気を付けないと」
「気を付ける? 何故ですか?」
「ご婦人はひき逃げに遭ったんです。丁度、さっきお客さんが立っていた辺りで」
「ちょっと待って下さい。ひいたのは私ではありませんよ」
「分かっていますよ。ひいた人間はその後に自殺しました。婦人の幽霊が見える事に耐えられなくて」
「……」
「人間というのは、人を殺すなんて悪い事をしてしまうと、死人の姿が見えるようになってしまうのですよ。特に自分が殺した人間は、はっきりとね」
「やめてください。客をからかっているのですか」
「いいえ。だって、どうですか。私の姿は、ぼやけて見えるでしょ。それは私があなたに殺されたわけではないからですよ」
「え……」
「私なんです。あのご婦人をひいてしまったのは」
カナコは両目を見開いたまま硬直した。彼女を乗せたタクシーは森の中の暗い道を先へと走っていった。
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