ひろしの呪い

改淀川大新(旧筆名: 淀川 大 )

まえがき

 前前作「ひろしの七罪」および前作「ひろしの怒り」の読者から思いがけず沢山の応援を貰えたので、第三段として「ホラー」に挑戦してみようと思う。これも未踏のジャンルであり、再度の新たな挑戦となる。

 恐怖モノを好む読者は少なくない。確かに、お化け屋敷が好きな者、心霊スポットを巡る者、飲み会で知り合った相手とすぐに結婚する者は多い。それだけ、恐怖やスリルというものに人は興味をそそられるという事だろう。

 こういったジャンルは全くの創作よりも作者自身の実体験による物語の方が読者により強い恐怖感を与えられるのではないかと思う。そこで今回は、私の体験を基に描くことにした。

 実は、私は先日、妖怪に遭遇した。妖怪「よみあってねん」だ。読者諸氏も一度は遭遇したことがあるかもしれない。

 この妖怪は小説投稿サイトに現れ、投稿者の魂の分身とも言える投稿作品を例の「ブラバ」読み、または「飛ばし読み」で踏み荒らし、内容を理解しないまま、いたずらに評価ボタンを押す。そして、自分の作品も読んでくれと要求してくるのだ。自分は読んだからね、と付言して。実にウザい。もし私が武士なら斬っている。シュパッ!

 この妖怪の妖術には、善良な投稿者ほど掛かりやすい。私の拙い作品を読んでくれたのだから相手の作品も読まなきゃ、とか、評価までもらって放置しておくのは人道に反するわ、などという作者たちの誠実で清らかな矜持に漬け込むのである。許せん。

 結果として作品評価を表示上は上げてくれるためか、この妖怪がネット上で否定される事は少ない。それ故、自分たちがあたかもネット社会で黙認され、業界全体から認知されているかのように勘違いしている。その振る舞いを傍若無人と言わずして何と言わん!

 ここで一つ確認しておきたいのは、この妖怪の妖術「読み合い」は、単にお互いの作品を読み合う、ということではない。読者の感想やレビューを読んで、その読者に興味を抱き、その人の作品を読む、つまり、形となることは多々あろう。それは良い事であると思うし、運営側も理想とする読者と作者の交流形態だと私は思う。

 一方、この妖怪どもが用いる「読み合い」は醜い。互いの小説を読み合う事を求めてくるのだ。つまり、契約による義務の履行りこうであって、読了後の評価による結果が生んだではない。約束したから読んで。まるで、法律により規制せざるを得ない契約社会の縮図である。実に醜い。

 この妖術の恐ろしい特徴の一つは、正当な行為に擬態する点だ。SNSでそれとなく謳って勧誘したり、突如一話目からフレンドリーな応援コメントを送ってきて、その文末に自作の宣伝を掲示してきたり、堂々と自主企画を立ち上げ「読み合い」を呼び掛けたりする。そして最後には、皆その妖術によって妖怪「よみあってますねん」にされてしまう。こうなると、ちょっと厄介だ。「よみあってねん」を首領として「ますねん」たちは知らず知らずのうちに群れとなり、最後には組織化されてしまう。そう、まるでギルドのように何十人かでネットワークを形成し、互いの作品に形式的なの評価を付け合っていくのだ。

 勿論、本当に実力があって多数の読者から支持されている作品もある。しかし、そういった秀作と「ますねん」たちの駄作の評価指数は同程度、時にそれを上回ることもある。運営側としても、その判別がつかない。これがこの妖術の恐ろしさなのである。出版社側はその評価指数を基に抽出した作品に投資し、何万部と刷って売る。で、売れ残り、コケる。当然だ。売れ行きを見込む基礎となったデータは、まともに読みもせずに「いいね」や「☆」を付けまくる妖怪共のなのだから。

 当然、出版側としては、この妖怪を呪術か何かを使って殲滅せんめつしたいところだろうが、厄介な事に、奴らは普通に読み合っている健全な読者に紛れているので見つけ出す事が難しい。混沌とした現代の人間社会に妖怪どもは紛れ込んでいるのだ。いや、妖怪だけではない。何かがこの世界には居るはずだ。

 ほら、あなたの隣にも居るかもしれない……。



 二〇二二年十二月某日 淀川 よどかわ ひろし

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