第28話 2024年7月、ノストラダムス
月初プロフィール(7月): ノストラダムス
私が五島勉の「ノストラダムスの大予言」を読んだのは1983年頃でした。
全員が一緒に死ぬのであれば諦(あきらめ)の気持ちになれます。
でも私は皆より5分間だけ長く生き延びてどのように皆が死んでいくのかを知ってから苦しまずに死のうと思いました。
1999年の7の月までには十分な時間がありました。
私は防空壕を作ることにしました。
恐怖の大王は上から来るからです。
幸い自宅は山や丘で囲まれています。
東は山の斜面で、南は谷を挟んで丘が遮り、西と北は団地の斜面です。
唯一南西だけが遠くに街を望めます。
防空壕を作るには最初に立派な入り口を作らなければなりません。
私はイナバのドマール(3メートル角)を買って掘るための隙間を開けて土間コンクリートを流してもらいました。
隙間は90センチ2メートル方形です。
これで天候に左右されずに掘ることができます。
穴掘りは休日に行いました。
正月も掘りました。
最初に真下に3メートル掘ってから斜め下に階段状に掘り進めました。
大木が生えている山の地下へのトンネルです。
落盤が起こったら絶対に助かりません。
トンネルの上には10メートルの厚みの山が乗っているのです。
およそ10年間掘り続けました。
掘削の最初はスコップだけでしたが途中からはエアーハンマーとスコップにしました。
大学のゴミ捨て場から炭酸ガスインキュベーター用のコンプレッサーを拾ってきたからです。
大学では教授が変わると大量の廃棄ゴミが出てくるのです。
エアーハンマーは換気もできます。
トンネルの換気にはトイレ用換気扇を付けました。
最近ではほとんど見かけない煙突の先端に付けるタイプです。
ある時地下で石油ストーブに火をつけるためにライターで点火しようとしましたが火は点きませんでした。
地上では火がつきました。
そこで草焼き用の灯油バーナーに点火して地下に持っていくと強烈なバーナーの火は瞬時に消えてしまいました。
トンネルの底では酸素が足りなかったのです。
慌てて地上に脱出しました。
人間は酸欠では灯油バーナーよりも強いということが分かりました。
10年で新品に近かった剣先スコップの先端は削られてM字型になってしまいました。
雨雫(あめしずく)が石を抉(えぐ)るのです。
土が鉄を抉っても不思議はありません。
でも先端が凹んだM字型になる理由は分かりません。
剣先スコップは真ん中が薄いのでしょうか。
山の地下の土は砂岩でアサリほどの大きさの二枚貝の化石がぽつぽつと埋まっていました。
アンモナイトの化石はありませんでした。
裏山は比較的最近の海の底だったのですね。
地下6メートル、奥行き10メートルまで掘ってから下方への掘削は中止しました。
地下水が滲み出てきたからです。
地下に常に水が溢れるような貯水槽を作って地下水を調べてもらいました。
地下水からは検査項目の全てが検出されませんでした。
飲用可能な非常に清い水ということです。
水中ポンプを設置し滲み出す水を外に排出するようにしました。
地下の井戸ができたのです。
地下を少し広げて半日くらいは生きることができる地下室を作りました。
トイレなしだから半日です。
地下室にトイレを作るには水洗トイレと押上ポンプが必要で素人には大変なのです。
床にはコンクリートブロックを敷き詰めました。
滲み出た水はブロックの下を流れます。
室温は冬も夏も14℃で携帯電話は通じません。
夏にはトンネルの途中に雲(霧)の水平カーテンができます。
1997年頃に防空壕は完成しました。
そして1999年8月10日に山に登ってノストラダムスの予言は当たらなかったと確信しました。
それでも私は今でもノストラダムスを信用しています。
2004年5月、私はフランスのモンペリエでの学会に出席しました。
コメディー広場の端にある学会会場近くからトリムに乗ってノストラダムスが通っていたモンペリエ大学医学部に行きました。
2階の回廊から中庭を眺め若きノストラダムスが座ったかもしれないベンチを見ました。
でもノストラダムスは1503年生まれですからそのベンチではないですね。
ノストラダムスは私の小説「銀河の帝国(第3の人生道)」にも出てきます。(第130話)
1億年生きている女帝の千はモンペリエ大学でノストラダムスを私と同じように2階の廊下から眺めました。
「会ったことはないわ。遠くから見ただけ。フランスのモンペリエの医学校だったかしら。同僚と一緒に2階の回廊から中庭のベンチに一人でいた彼を見たの。当時、ミシェル君の予知能力は評判になっていたわ。同僚が『ほら、あの子よ。入学試験で質問を聞く前に正解を答えたって子。』って教えてくれたの。」
(2024.7.1)
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