第26話
リコが訪問してきた翌日、プエルから手紙で知らせが届いた。朝食をとり終え、クラミーとステフと三人で、優雅なティータイムを満喫していた俺は、その内容を見て思わず紅茶を吹き出しそうになった。
スター・イン・マイ・ハーツが国外へ逃亡した。
プエルから届いた手紙には、まず初めにそんな結論が書かれていた。そのあとに、詳細が書き連ねられている。
クラミーが隣から書状を覗き込み、初めの結論を見て「なんと」とつぶやいた。そしてすぐさま詳細も読み終え、「ほうほう。なるほど、よくできた筋書きです」と肩をすくめた。
「あの、なにがあったのでしょうか?」ステフがそわそわと尋ねてくる。
「スター・イン・マイ・ハーツの件が解決しました」
「良い知らせ、ということですか?」
言葉だけで聞けばそうだろうが、俺とクラミーの反応が芳しくないからだろう、ステフは恐る恐るといったふうに尋ねてきた。
クラミーが難しい顔つきでことのあらましを説明する。
「ええとですね、そもそもどうしてスター・イン・マイ・ハーツの捜索が難航していたかと言いますと、盗品をどこで換金しているのか分からなかったからなのです。しかし、それもそのはずで、そもそもスター・イン・マイ・ハーツは盗品を換金していなかった、と書かれているのですよ」
「では、貧しい民に配って回ったというお金はどこから?」
「スター・イン・マイ・ハーツの個人資産です」
「なるほど……あれ? でしたら、なぜわざわざ泥棒を?」
「あとで換金するつもりだったのですよ。書状によれば、盗品をまとめて国外に持ち出し、換金するつもりだったようです。何度も取引するよりは、そうやってまとめて取引したほうが足がつきにくいでしょうし、当然といえば当然なのです」
国外で売りさばこうとしたのも、同様に足がつきにくいから、ということだろう。
「そして、ついに国外に出ようとしたところを、ザイファルト家に見つかったわけです」
この世界には魔物が出没するため、護衛もなしに城壁の外に出るのは自殺行為だ。それゆえに国外への移動は厳重に管理されており、人員と荷物、行き先などを申請しなければならない。そして実際に外に出る際、申請と違いがないか城門で検査も行われる。昔はそうじゃなかったらしいが、半端な護衛を雇って死んでしまう商人や旅人が少なからずいたため、厳しく管理することになった。その役目を国から任されているのがザイファルト家だ。
「それで、盗品が見つかったということは、スター・イン・マイ・ハーツは捕まったのですか?」
クラミーと俺は揃って首を横に振る。
「いいえ、スター・イン・マイ・ハーツは盗品を持ったまま、護衛もなしに一人で外に逃げたそうなのです」
「それは……」
ステフが言葉を詰まらせる。俺にはまだ実感がないが、いかな強者といえ一人で国外に出るのは自殺行為だ。近場の領地を目指したとしても、辿り着く前に魔物に襲われて死んでしまうだろう。すべて本人が悪いのだから、同情の余地はないが、それでも後味の悪い結末だ。
重苦しい沈黙の中、クラミーだけがいつも通りに、脳天気な顔をしていた。
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