第2話 少年と私
日曜日の朝、ささやかな安らぎの時間。けっして高級感はない街路樹が美しい閑静な住宅街。
ひとりの少年が私の家の前で何かを探しているように辺りを見まわしている。どこの少年なのだろう。私はこの町に住んで三年近くになるが、近所で少年といえば、隣の小学生しか見たことがない。小学六年生くらいに見える少年は私と目が合うのを避けるかのように、少し不審にも見える振る舞いをしている。
「ねえ、なにか探しているの?」
声をかければ、「すみません」などと言いながら、どこかへ行ってしまうのではないかと思い話しかけてみる。
「……」
「このあたりの子?」
「僕は……そうだな。このあたりには住んでないよ」
「ふうん。歩いてきたの? 自転車とかなさそうだけど」
「……」
この辺りは駅もバス停も少し離れている。歩いて来るには少し遠い。
「お兄さんは不思議な話は好き?」
唐突に何を言い出すのだ。
「ええ? ハハ。好きだな」
「そう。お兄さんはタイムマシンを信じる? 未来の世界ではタイムマシンができてると思う?」
「できてないな。できてたら。来るんじゃないかい。未来から」
……話しかけた手前、少し話に付き合ってやるか……
「それとも君は・・・君が未来から来たと言う? なんか、そんな感じだね」
少年はこんなことを言う。
「お兄さんの世界、この世界じゃ、もしタイムマシンができて過去に行けるとしたら。どうだろう、そこでむやみに過去の人間と接触しない方がいいというようなことは言われてないかい? 未来を変えるかもしれないから……などと」
「ああ、あるね」
「だったら、未来から来ても、あまり堂々と会わないんじゃないかな。この世界の人と」
「……」
「もしタイムマシンで来ても、そうだな、未確認飛行物体ぐらいで、堂々と姿を現さないね」
「……」
「宇宙人って、どんな姿を想像する? まさかタコみたいなの? もうちょっと『宇宙人』っていうくらいだから人みたいなものじゃない? たとえば、その『宇宙人』は目はいくつある? 鼻は? 耳は? 手は? 足は?」
何を言っているんだ? この少年は……
「もしかして大きさやバランスこそ違えど、人間にすごく似ていないかい? 地球ですら鳥や魚、ヘビやムカデなど、いろいろな生き物がいるのに、この広大な、はるか宇宙から、人間と同じ形の生き物がやってくるのかい?」
「それに宇宙の彼方というけど、未来の地球は宇宙空間の中では、今の地球の場所ではなく、位置的にも、ここより宇宙のはるか彼方にあるんだよ」
「つまり来てるんだよ。未来から……そして、時々見つかるんだけどね。そんなときUFOとか言われたりして……」
ここまで言って少年は、にこっとほほ笑み。
「そんなわけないね」
そう言って歩き始め数軒先の路地を曲がって姿を消した。
私はその少年を追いかけることもなく見送った。
追いかけていっても、きっとその路地の先で……もう姿はなくなっていることだろう。それでいいと思った。
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