#342 二面性
「
転校して三日目。隣の席に座る男子生徒がそんなことを言ってきた。
名前はまだ知らない。坊主が特徴の野球部。
「なんで?」
とりあえず、思ったことを言っておく。
二面性の危険性。想像できるのは表では優等生だけど、裏では平気で汚いことをするとかだろうか。
とはいっても、
「アイツはな……」
とても神妙な面持ちで、次の言葉を選んでいるように見える何某くん。まず君の名前を教えて欲しいのだけど。
何某くんは一度黒板を見て、
「今日は水曜……ちっ、厄介な日か」
と言った。
「水曜が厄介なの?」
「ああ。アイツは水曜、金曜、日曜、月曜が厄介だ。ちなみにお前、裏出屋と昨日会話したか?」
「……まだ顔と名前を覚えていないからわからない」
「そうか……アイツのことだからな、お前と会話をしていてもおかしくない。
……昨日、やたらスキンシップの多い女子生徒と会話をしなかったか?」
記憶を探ってみる。昨日、昨日、女子女子女子……。
「転校生が珍しいのか、ほとんどの女子に声をかけられた」
「……それはクソ羨ましいことで。おっと失礼。その中でも特にだよ……」
と、何某くんが言ったあと、ドタドタと教室に駆け込む足音が聞こえた。
「大変だ!」
教室に入ってきた何某くん②。メガネ男子。
「一年生が裏出屋を探している! おそらく昨日、釣られたんだ!」
「……被害者が出たか……いや、ちょうどいい。お前に裏出屋の恐ろしさを見せられる」
さっぱり。彼らが何を言っているのか、まったくわからない。頼むから僕を話の中に入れるなら、何について話しているのか説明してくれ。
「ついてこい。見ればわかる」
そんな風に言われても、って、僕を置いて行こうとするな何某くん。
何某くんについて行くと、校舎裏に着いた。
……なぜ? と思ったが、そこには一人の男子生徒と女子生徒がいた。
あ。
「思い出した。あの子だ。裏出屋
「やっぱりお前とも会話をしていたか。見とけよ。アイツの二面性を」
『あの……裏出屋先輩! 僕! 先輩のことが好きです! 付き合ってください!』
……おいおい、後輩の、思春期の、純情な少年の告白シーンを盗み見してしまった。罪悪感。すまない何某後輩。
「あまりいい趣味じゃないな」
「違う。告白の結果を見るんじゃない。アイツを見るんだ」
『ありがとう。とても嬉しい』
その声を聞いて、何某後輩の顔が明るくなる。
うん。なんとなくわかるぞ。裏出屋豹子さんは見目麗しい少女だ。そんな子が笑顔で『嬉しい』と言えば、期待してしまうだろう。
『でもごめん。俺男なんだ』
……………………………………………………。
「……何か聞き間違い?」
「違うぞ。あれがアイツの二面性」
『…………………………え?』
『だから、俺男なの』
『え、え? え?』
『信じられないなら、見るか?」
『──っっ!?!?!?!?!?』
「裏出屋豹子……またの名を裏出屋豹介はな、見た目はとても可愛らしい女の子だが、その実は紛れもない男性。ああやって思春期の男子生徒の心を奪っては、性癖を歪ませる力を持っているんだ。この学校で、アイツに初恋を奪われた者はかず多くいる」
何言ってんだと口に出た。
「俺だって最初は信じられなかったさ……だけどな、アイツのせいで俺は……俺はっ!」
どうやら何某くんは被害者の一人らしい。
「俺は、これ以上アイツの被害者を出したくない! アイツは俺のも──そうじゃなくて! アイツによってこれ以上この学校の風紀が壊れないように転校生であるお前に忠告してやったんだ!」
しかし。
「僕以外にもいたのか。容姿と実の性格を使って性癖歪ませるのが趣味なの」
「…………え?」
裏出屋豹介。君とは友達になれそうだ。
ま、僕の分も残しておいてほしんだけど。
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