#338 古のもの

「なあ、これ知ってるか?」

 友之ともゆきがカバンから取り出したのは、長方形の機械だった。

「何それ?」

「大昔に使われていた『携帯電話』ってやつらしい。『ガラケー』とも呼ばれてたって」

「携帯電話……ああ、どっかで見たことあると思ったら、歴史の教科書の端っこにあったやつか」

「そうそう。夏休みにじいちゃんの家に帰った時にさ、倉庫漁ってたら出てきたんだよ」

 友之はさらに二つ、同じような『携帯電話』と呼ばれるものであろうものを取り出した。

「この真っ直ぐな奴が一番古くて、次が折りたためるやつ。スライドするやつなんかもあったぜ」

 友之が取り出した『携帯電話』は計三つ。小さい画面とボタンが一画面におさまっているもの。上半分が画面。下半分がボタンで、折りたためるやつとスライドするタイプのもの。

「『スマートフォン』ってやつとも違うんだよな?」

「うん。基本は『電話』かメールだって。ゲームもできたっぽいけど、限られたものしかできなかったぽい」

「……電話?」

「今でいう『通話』だよ」

「ああなるほど。しかし、これから進化していったのか……」

「ねー、ちょっと想像できないよね」

「だよな。今じゃみんな『チョーカー』で通話もメッセージもネット検索も仮想ゲームも、なんでもできるのに、それの元となったやつがこんな小さな箱だなんてな」

「しかも、『充電』しなきゃ使えなかったみたいだぜ?」

「マジかよ。あー、なんかレガシーブーム来てるけど、これだけは戻らなくていいよな」

「だな。あ、悪い。今から夕飯だ。また夜会おうぜ」

「おう」

 友之に返事をして、俺はチョーカーのスイッチをいじった。

 すると、先ほどまで見えていた光景から、質素な部屋に移り変わる。

 チラリと、テーブルの上に置いておいた氷を見る。チョーカーのスイッチを入れる前に、置いておいた氷は溶け切っている。溶け切っているそれは、今、ここが現実世界だと証明するものだった。

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