#330 思い出のオルゴール

「ねえ、それ何?」


 私の家に遊びにきていた友人・芽衣めいが突然そんなことを言ってきた。彼女が指差す先にあるのは、私が手に持っていた小さな木箱。掌サイズの小さな木箱を撫でながら私は答える。


「オルゴールだよ」


 箱を開けてレバーを取り出して、回してみれば音が鳴るオルゴール。本当にどこにでもある、なんの変哲もない見た目をしている。

 思い出がたくさん詰まっている、私の大切なオルゴール。

 そう説明すると、芽衣は私の手からヒョイっとオルゴールを取ってしまう。


「へぇ、特別なものなんだ」


 彼女はまじまじとオルゴールを見つめる。

 気になったものをすぐに自分の手に取ってしまうのは、芽衣の悪い癖だ。初対面の人であれば面食らってしまうけれど、私は芽衣と長い付き合いだからもう慣れている。


「そうだよ。これはね、私以外の人がレバーを回すと、その人の思い出を吸い取ってくれるんだ。その人の楽しかった思い出や、嬉しい思い出。そういった思い出を吸い取って、私に見せてくれる。魔法のオルゴール。あ、もちろん、思い出を吸い取られた人はそれを忘れちゃうんだ。だから、私のものになる」


「……え?」


 と、

 一雫の汗が芽衣の頬を流れる。

 私は、満面の笑みを浮かべて言う。


「ありがとう。芽衣の思い出、楽しませてもらうね」

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