#324 消せないペン

「“消せないペン”って知ってるか?」

 昼休み。前の席に座る赤座崎あかざさきが菓子パンを食いながら、振り返ってきた。

「何それ?」

 赤座崎が言った“消せないペン”なんて僕は知らない。だから当然の言葉を返す。すると、「だよな」と言って赤座崎は説明を始めた。

「“消せないペン”ってのは、読んで字の如く書いた文字が消せないペンなんだとよ。書いた文字は絶対に消せねえから、逆説的に、書いたことは現実になるだの色々囁かれてるってわけさ」

 赤座崎は二口目を口に入れ、コーヒー牛乳で流し込む。

 ──ちゃんと噛んで食べればいいのに、と心の中で言ってみる。

「それって、要はボールペンのことなんじゃないの?」

「バカ、なんでボールペンなんかをおもしろおかしく“消せないペン”なんて呼ばなきゃいけねえんだよ。ボールペンなわけねえ」

「あっそ。別にどうでもいいんだけど、なんでそんな話を?」

 赤座崎は菓子パンを全て食べ終えると、

「んにゃ、そろそろ話さなきゃなって思って」

 と、おかしなことを言ってきた。

「???」

 僕が首を傾げると、赤座崎は正しく椅子に座り、正面から僕のことを見る。

 なんだか、とても真面目な話を始めそうな雰囲気。

「お前は、俺がその“消せないペン”で書いた友達だからだ」



 その一語一句を理解するのに、僕の昼休みは溶けていった。

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