#294 気になるあの子は②

 私は、自分で言うのもなんだけれど、でも事実だから言うのだけれど、このクラスで──いいや、この町で一番の人気のある女の子。美島白みしまはくと聞いて知らないだなんて言わせない。もしそんなことを言ったら『無知だ』って馬鹿にされるでしょう。

 本当はもう少し時間がかかるものだと思っていの。でもまさか、こんなに早く私が一番になれるなんて。このまま行けば、仕事は難なく達成できるわね。

 まずはこの町を私の手中に収める。そのためにこの町の人間全員の意識に、私が頂点だと信じ込ませる。

 だって、それが私のなんですもの。

 私は

 本当の私は地球人から見れば。地球へやってきたのは、侵略のため。私以外にもこの地球に何人かの仲間が配属されている。そして、各々の配属先で、私と同じように人間たちの信仰を向けさせている。

 いずれこの地球を私たちのものにするために。

 


 それなのに、このクラスで一人、私に惹かれない人間がいる。

 名前は『篠野崎黒しののざきくろ』。

 おかしいわ。私はこの地球にやってきて、どういった人間が好かれるかを研究した。容姿端麗、清廉潔白な人間は怪しまれないと知った。そして、漫画、と呼ばれるものから知識を得て、みんなから好かれるのが良いと判断した。だから、人間には私に惹かれるよう催眠を施している。

 それなのに、なんでこの人間は効かないの。

 私は完璧に『綺麗な人間』を演じていると言うのに。なぜ? なぜなの?

 まさか……彼は地球人じゃない? 

 いや、そんなわけない。私たちの種族意外に、宇宙へ進出している種族がいるなんて聞いたことがない。ましてや、私たちのリーダーも事前の調べで、この星に他の宇宙人はいないと言っていた。

 なのに、黒君はなんで私の能力が効かない?

 ……調べてみるしかなさそうね。行動に移すのは、昼休み。

 昼休みに入ると、私はお弁当を手に黒君の元へ向かう。


「黒君」


 黒君はどうしてか、一人でいることの多い人間だ。趣味が人間観察であることと、見た目はこの国の人間とは違うのに、名前がこの国の人間と同じ種類だと言うことが、彼を孤立させている原因だろう。

 だから、声はかけやすかった。

 

「いいよ。ありがたくその提案に乗ろう」


「やった。黒君は前から話してみたかったんだよね」


 よし、第一段階はクリア。

 あとは、


 「黒君は本当に人間なのかなって知りたかったんだ」

「ん? 何か言いた?」


 しまった!? 声に出ていた!?

 でも、聞こえていないなら問題はない。


「うん、なんでもない。さ、一緒に食べよう」


 さて、黒君。

 君のこと、調べさせてもらうよ。

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